第582号(2001年1月1日号)


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《視点》葉博士こぼれ話

 フェルミ研究所の葉恭平博士は台湾に生まれ、小学校の頃から兄に数学の手ほどきを受けて、沖縄のキングスクールに入学した頃は異彩を放っていた。沖縄で中学・高校を過ごし、マサチューセッツ工科大学に入る。入学時の成績は数学以外全くだめだったが、主席で卒業した。

 大学一年ですでに高エネルギー物理学を研究しているグループから才能を見込まれ、研究に携わった。条件は「弱い力」に関する研究の計算を一本まとめるということだった。ついた教授にものを教わりにいったら最初はぎくしゃくしたが「よし、これから毎日ぼくのところに通いなさい」といわれ、まだ二十歳に手の届かない学生に毎日数時間の講義が始まり、論文をものにした。「アメリカの素晴らしいところは入り立ての学生にも教授がこのような時間を割くということだった。それでぼくもなるべく学生に講義している」。「ぼくが二時間教えたら学生は二十時間くらい考えてくれるからね」とも付け加えた。

 その後、葉博士はフェルミ研究所で数十人のチームが十数年かけて追求しても果たせなかったトップクォークの研究を教え子と二人で引継ぎ、わずか二カ月で発見した。九五年のことである。存在が予想されている六種類のクォークの内、五種類のクォークを発見した学者はそれぞれノーベル賞を受賞した。最も難しかったトップクォークの発見もノーベル賞間違いなしと見られている。

 高エネルギー物理学という分野は宇宙論(宇宙はどうやってできたのか)と深くつながっているが、特徴として大量のデータを集め、これを計算処理するという技術が必要になる。世界最大のスパコンを何台も使うのだが、それだと本筋の実験よりコンピュータに金がかかるということになる。そこで葉博士が中心になってパソコンを何百台もつないで(クラスター)並列処理させるという手法を編み出した。計算コストは大幅に削減されることになった。

 PCを百台つなげば計算速度は百倍になる。スピードの出るチップが開発されれば取り替える。またつなぎ方を工夫することによってクラスターに個性を持たせることができる。フェルミ研究所には数種類のパターンで組み合わせたクラスターがあり、計算によって使い分けている。

 クラスターのOSにはリーナックスを使う。近年、注目を集めているリーナックスの普及に果たしたフェルミ研究所の影響は大きい。リーナックスはその後、マイクロソフトを除いて世界中のコンピュータ会社がサポートするようになったが、葉博士のリーダーシップが大きくものを言った。

 IBMはパソコンでそんなことができるのかと大喜びで、フェルミ研究所が発見したトップクォークの研究にはIBMのPCが使われたという雑誌広告をつくった。図柄はトップクォークの発見を示す粒子の軌跡そのものである。

 クラスターはいま、NASAや米軍でも採用されている。

 「グラビトン(重力子)は発見されますか」と聞くと、この宇宙の最先端を研究する学者は「もちろんだ」と日本語で応えた。二十一世紀はこのような研究が進み、宇宙の成り立ちに明快な答えが出せるに違いない。(明)



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