沖縄観光に頭打ちはあるのか
どんどん伸ばせて2000万人も夢ではない

(「観光とけいざい」第648号04年1月1日。WEB公開04年2月10日)

沖縄観光速報社・渡久地 明

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伸びを制限する要因はない 景気とは無関係に伸びてきた沖縄
(1)総需要の限界 (2)不況による旅行の手控え (3)ホテル不足 (4)滑走路限界 (5)社会的許容範囲を越える (6)自然が破壊される恐れがある (7)飽きられる
不況からの脱出が条件だ 供給できなくなる唯一の可能性
(8)労働力不足
 (9)このまま不況が続くから観光客は増えない

 今年の観光客数は五百二十五万人を目標とした。戦争の影響がなければ目標は達成されると見られ、むしろ供給不足が懸念材料と見られている。筆者は観光客数は今後、順調に伸び二〇一一年に八百万人近くまで拡大、二〇一六年か一七年には千万人に達するという試算を示してきた(グラフ1)。その通りになるなら将来への不安は何もない。安心して供給が増やせる。本当にそうなるのか、将来、入域観光客数に上限はあるのか。本レポートでは観光客数は二千万人くらいまでは伸ばすことができ、必要とあればそれ以上も可能であることを示す。

伸びを制限する要因はない 景気とは無関係に伸びてきた沖縄

 観光客数がグラフ1に示したとおりに伸びる前提に客室や滑走路、観光施設などハードウェアの相応の整備があり、流通・販売のソフト面でも伸びにふさわしい力が投入されると仮定している。

 しかし、ほんとうに二〇一六年に千万人まで届くのだろうかという素朴な不安はある。どこかで頭打ちが来るのではないか。ハワイは一九八〇年代に二〇〇〇年の観光客数を千万人にするというステートプランを立て、七百万人まで順調に伸びたが、一九九一年の湾岸戦争以来低迷している。沖縄が伸び悩む時期は五百万人なのか、六百万人なのか、千万人なのかに見当をつけておくことは今後の戦略を練るに当たってどうしても必要である。五百万人はすでに達成したが、減少に転じると見込めば、今後、新規に沖縄に投資しようとする計画は出てこないであろう。ハワイが七百万人達成後、低迷したことから、その可能性がないわけではない(最近ハワイ島で大がかりな開発が始まって世界の注目を集めているから、再び伸び始めると考えられる)。もし、制限要因があるとしたら何があるだろう。そしてもし制限要因がないのなら千万人どころか二千万人、三千万人、一億人も可能であるということになるが本当だろうか。想定できる制限要因を片っ端から挙げてみよう。

(1)総需要の限界

 日本人の総旅行需要は年間三億五千万人である。一泊以上の旅行に出かける人の数であり、日本の総人口一億円二千万人より多いのは一年に何度も旅行に出かける人が多くいるからである。この需要は年々増加することが予想される。また、最近は国際情勢の変化で低迷しているが、過去千八百万人が海外旅行に出かけた実績がある。

 国内旅行の目的地として沖縄と北海道が二大目的地であることに今後も変わりはなく、旅行社・航空会社の重点地域であり続けることに疑いはないであろう。最も長距離の旅行先となり、沖縄の場合どうしても航空機を使わなければならないから、旅行商品は国内平均より常に高めに設定されるためドル箱路線となる。そこで、総需要のうち控え目に五%程度、千七百万人くらいのシェアを沖縄がとることは困難ではないと見る。すると総需要の限界は千七百万人。海外マーケットも視野に入れればこれ以上も当然可能である。

(2)不況による旅行の手控え

 これまでの経験では不況で沖縄への観光客が減るという因果関係ある場合と無関係だったことと両方ある。グラフ2でGDP成長率と観光客数の伸び率を示した(GDP成長率は内閣府HPより。暦年の数値を用いた。観光客数の成長率は沖縄県観光要覧)。一目見ただけで経済成長率と観光客数は無関係であることがかわるであろう。ただし、経済が落ち込んだとき観光客数も落ち込んだと見られる兆候が八六年、九三年、九八年に見られるが、景気と沖縄観光が関連しているという確かな証拠とは言えない。

 バブル崩壊後の一九九一年は湾岸戦争の年であり、沖縄観光は前年比一・九%増と伸び悩んで三百二万五千人となり、九四年の三百十八万人まで低い伸びか前年比マイナスという低迷ぶりだった。この間、円高が進行し、九五年の平均円レートは一ドル=九三・七六円となった。九五年の海外旅行客は前年比一二・七%も伸び千五百三十万人と急増。翌年も千五百八十一万人と九・一%も伸びた。海外旅行は二〇〇〇年の千七百八十二万人まで拡大した。その後は九・一一テロで落ち込むことになる。

 これを見ると不況で沖縄旅行が減るというより、円高要因などで海外が大きく伸びるときに、沖縄が苦戦しているように見える。逆に九六年から九九年までの不況期に沖縄観光は極めて好調に伸びている。つまり、景気とはあまり関係なく沖縄観光は伸びたり、縮んだりしており、景気変動の影響はないことが分かる。それでも不況が長引くことによって旅行客も次第に影響を受けるようになる可能性はある。その兆候としてここ三年くらい一人当たり消費額が減少した事実がある。統計の取り方が変更になったとはいえ、不況の影響らしいものがあることを考慮しておく必要がある。

(3)ホテル不足

 沖縄観光が千万人を目標にするなら、ホテル建設はどんどん民間によって行われるから、これは制限要因にはならない。ホテルを建設する余地がない、との指摘には四十階建てのビルの二千室というのは国際的には珍しくはないという例を挙げる。

 縦に伸ばさなくても広大な米軍基地が返還される予定であり、むしろ土地はあまり、これを早く使わなくてはならないという状況になっているくらいである。

 ホテル不足についてはグラフ3を参照されたい。横軸に一九七九年以来の時間、縦軸に観光客数(需要)とホテル受入能力(供給)をプロットした。それぞれ七九年の数値を一〇〇とする指数で示した。ホテル受入能力=観光客数/県内宿泊施設の稼働率、とした。これを見ると、供給が伸びたところで需要が追いつき、供給が一段落して需要が高まると再び供給が起こる、という伸び方をしてきたことが分かる。供給が大きく増加した九三年から九五年まで観光客数が伸び悩み、先に述べた観光危機が起きたわけだが、円高の海外ブーム、供給の増加が重なって異常に厳しい状況となっていたことが分かる。沖縄県は九四年に補正予算三億円を組んで誘客を強化、その後改善したが、その改善は客室が充分に整っていたからできたのである。あのときの苦境のメカニズムとその後の拡大はこれが大きな理由だったのである。

 ホテル不足が本当の問題となるのは、ホテルを建設しようとする人がいなくなったときに起こる。それについては(9)で述べる。

(4)滑走路限界

 滑走路はすでに建設の方向である。が、小泉改革で時期が明快でない。しかし、限界が来れば政府は着工するのは当然の務めである。したがって、建設の遅れなどのタイミングの問題はあるにせよ基本的には滑走路限界はないと見るべきである。

 しかし、小泉改革で公共投資に制限がかかっている状況は極めて遺憾である。空港が早くできないとリゾートを建設しようとする動きにブレーキがかかる。実際に県内有力企業社長が千五百室のホテル建設を計画したら、社内に慎重論が強く、その根拠は空港が限界に達するから、というものであるらしい。実際には那覇空港は沖縄県が限界とした六百万人を上回る八百万人程度の受入能力がある。しかし、このまま行けば二〇一二年にはこの限界に到達してしまうのである。早く着工しなければならない。

 この解決には那覇空港は数年以内に着工する、というアナウンスさえあればよい。政府や県が沖縄の観光産業に力を注ぐという意志表示であり、これによって投資を手控えていた企業家は投資に踏み切るであろう。もちろん、アナウンスの後は実際に着工しなければならない。このような主張を筆者は二〇〇〇年頃にもしたことがある。民主党の沖縄政策協議会の席上でそのように述べた。その後、日本の不況は流動性の罠にはまっているからだ、というクルーグマンの論文を知ったが、クルーグマンはこの状態から脱却するには政府がインフレにするとアナウンスすればよい、と述べている。いま、経済学者・エコノミストの主流はインフレターゲット論(緩やかなインフレ論)であるが、基本的には国民にインフレ期待を抱かせること、そのためには積極財政も必要というものである。滑走路着工をアナウンスすべきという私の主張は間違ってはいない。

(5)社会的許容範囲を越える

 昨年は五百十万人の観光客を受け入れたが、平均滞在日数は三・六日くらいであった。一日当たり何人の観光客が滞在しているかといえば、わずか五万人である。この人数は沖縄米軍の軍人とその家族の人数と同程度である。千万人に拡大したとしても滞在日数が増えないという前提で一日十万人である。県民百三十万人に対して十万人は十分小さい数字であり、社会的・文化的に影響を与えるパワーはない。逆にその十万人は沖縄県民から強い影響を受けると考えられる。

 さらに世界の例を見れば十万人しかいなかったオレンジ畑の村にディズニーランドができたら人口百万人の大都市に発展した、ほとんど人が住んでいなかった砂漠に投資して年間三千万人の観光客を集めるラスベガスの例などもある。許容範囲という考えより、むしろどこまで沖縄の人口を増やして他の産業が成長する環境をつくりだし、持続的な発展に結びつけるかという戦略をとるべきである、という考えも成り立つ。

 つまり、百三十万人の人口では無理だった産業が二百万人なら成り立つという発展のさせかたがある。

 また、水や道路の渋滞など社会資本が間に合わないという事態はあり得るが、これらは本来、県民・観光客の増加に合わせて政策として整備されるべきである。

(6)自然が破壊される恐れがある

 わざわざ自然を破壊しに来る観光客はいない。また、例えばサンゴ礁など観光客や観光産業が破壊したという例は少ない。サンゴの破壊は赤土の流出や温暖化などの影響であり、これは観光とは無関係である。自然破壊の恐れがあるのは行き過ぎたエコツーリズムとなる可能性はある。普段行かないところに人が入るわけだから自然は影響を受ける。むしろ自然に分け入るという行為を制限すべきである。

 また、開発者の意識が低く、地域住民とトラブルを起こしても建設を強行する、海辺の防風林より高いホテルを建設するようなことはやめるべきである。国際的にも絶対に認められない行為である。開発者の志が低いといわざるを得ない。

(7)飽きられる

 沖縄に住んでいるわれわれが飽きていないのだから、年に一、二回来る観光客が沖縄に飽きるということはない。むしろ、観光客数が毎年順調に増えていれば、新たなリゾートや観光施設が充実し、未開発の文化的資源などが再発見され、次々に新しい魅力が増えていく。飽きるということはないと考えるべきである。飽きられるのは停滞したときである。

 沖縄の大きな魅力の一つは夏の暑さと海である。これらは破壊しない限りなくなることがなく、これからも大きな魅力であり続ける。わざわざ壊す人が出ないのを願うのみである。

 このように見てくると、制限要因と思われているものの多くが迷信か、政策によって解決されるものばかりのようである。

 それなら観光客数は千万人でも、二千万人でも、一億人でもほんとうに伸びるのだろうか。二千万人以上なら海外からの観光客を大幅に見込む必要があるが無理な数字ではない。世界にはラスベガスなど三千万人以上の観光地が現実に存在しており、沖縄にそれができない理由はない。

 つまり、最後に残る制限要因は供給力ということに尽きる。ラスベガスのように沖縄に五千室のホテルを十軒つくることはできるが、そこで働く人がいなければホテルは運営できず、これ以上観光客を受け入れることはできないという制限らしいものが出てくる。

不況からの脱出が条件だ 供給できなくなる唯一の可能性
(8)労働力不足

 これが本当の制限要因となる。いくらでもリゾートや観光施設はつくることは出きる。しかし働く人がいなければサービスを供給できない。実際には人が足りなければ他の地域から連れてくるという解決策があるが、問題を簡単にするために、いまは県民だけで解決する場合を考える。沖縄の労働力は余っており、ホテルや観光施設が出きればいくらでも人材を供給することが出きる。

 実際一九七二年の復帰から始まる一次〜三次までの十年ごとの沖縄新興開発計画は高い失業率の解消と全国平均の七割に満たない県民所得の低さを是正することにあった。これは正しい問題意識であり、本気でそれを解決すべきであった。失業は本人にとって大変気の毒であると同時に、働ける人がいるのに職がないという状況は社会全体にとって非常にもったいないことなのである。失業がなくなるまで沖縄は観光産業(他の産業にも)に人材を供給できる。これこそが沖縄最大の財産なのである。

 沖縄の失業率はいま八%であり、失業者数は五万人である。社会にはこれ以上少なくはならないという失業率の下限があり、自然失業率と呼ばれる。日本の場合、バブル絶頂期の人手不足の折り、失業率は二%まで下がった。ほぼ完全雇用の状態であり、同じ頃沖縄の失業率は四%だった。これを沖縄の自然失業率と見る。すると供給できる人材は二万五千人である。

 ホテルだけでこの労働力を吸収しようとすると一室につき一人が必要と仮定すれば、およそ二万五千室まで運営可能ということになる。この客室はツインベースであり、観光客は平均二泊し、年間稼働率を七〇%とすると、年間の受入能力は約六百四十万人上乗せされる。沖縄観光の受入限界はおよそ千百五十万人ということになる。

 実際には観光客が千万人程度まで増えると琉球村や玉泉洞などの観光施設は現在の規模を倍にしないと窮屈だということになるから、ここでも雇用が発生し、市中のレストランや運輸業、製造業も人手不足になるだろう。また、一室に一人の労働力が必要と仮定したが、ホテルもどんどん効率の良い作り方になっていくから〇・五人で一室を運営できるという具合に本来の意味の構造改革が進む。

 これらを勘案しても県内の労働力をフルに活用するだけで千二百万人(二〇二一年頃)〜二千万人(二〇三一年頃)くらいまでなら楽に受け入れることが出きると考えて良い。問題はそのスピードを速めるか、遅らせるかになる。沖縄観光がこのように発展することさえ信用すれば、どこまでも伸ばせるのである。

 二千万人以上を目指す場合は、必要な人数だけ県外からの労働力移転をを求めることになる。たぶん沖縄はその時点からそれまでよりももっと面白く発展していくことになるだろう。

(9)このまま不況が続くから観光客は増えない

 不況と観光客数は無関係であると(3)で述べたが、不況の影響は新たな投資が手控えられるという面で極めて深刻である。この場合、供給が増えず、沖縄旅行は行きたくても行けないという人達が増え、価格が上昇する。つまり、供給不足で価格だけ上がる状態、一年中八月のような状態になる。しかも、高い失業率は解消されないままである。

 しかし、旅行価格が高値に張り付くと、今度は世界のリゾート地と沖縄の価格競争が起こる。一九九〇年代半ばの苦境の再来である。価格は上げたいが、海外に負けるので上げられない。このような状態では価格が上げられる高級リゾートと中級以下の宿泊施設との格差が拡大する。格安ホテルは徹底的な無人化、効率化で生き残るとして、中規模ホテルは充分なサービスが提供できなくなり、格安ホテルと同じように無人化の方向に進んでしまう恐れがある。これではもはや伝統ある沖縄のホスピタリティーはなくなってしまう。この時が沖縄観光にとって正念場となるであろう。

 沖縄が(8)で述べたような魅力的で活気に満ちた地域となるためには、われわれは本気で日本の不況を克服しなければならない。そのやり方として世界中の経済学者がインフレ期待の形成を日本にすすめている。

 いま、銀行の不良債権処理や創造的破壊が必要といった一部の経済学者やエコノミストの発言は、経済学の本流からは大きく道を踏み外したものである。正統派の経済学者を見分けるには「エコノミストミシュラン」(田中秀臣・野口旭・若田部昌澄他著、太田出版)が便利である。よく売れている本で、本紙読者にもぜひおすすめしたい。TVの討論会でだれがとんでもないことをいっているのか見分ける能力がみるみるつくから面白い。経済学の結論ではいまの日本の不況からの脱出は困難なことではない。

 しかし、このまま構造改革とか言い張って本当に必要な不況脱出の手を打たなければ、われわれみんなくたばっちまうのである。  


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