連載コラム視点604ワイド版
《特別論説》渡久地明(沖縄観光速報社)


800万人目指せ! 次の10年600万人では少な過ぎる
重要な論点が抜けている観光基本計画

 〇二年早々に第四次沖縄県観光振興基本計画の目標フレームが決まる。目標フレームとは入域観光客数と経済波及効果の二点である。このうち、観光客数について五百万人、六百万人、七百万人、その他のどれを採用するかが焦点になっている。ここでは入域観光客数の数値について主に述べるが、結論を先にいうと計画終了後の千万人を見込んだ上、通過点として八百万人を設定すべきであると主張する。

■業界の声反映してない 素案はなぜ非公開なのか

 本来、観光基本計画は関連業界の意向を最大限に取り入れるべきものであろう。しかし、いま決まろうとしている第四次観光基本計画については手続に関して大きく次の二点の疑問がある。

 まず、計画素案を非公開にしたため業界の意志が反映されにくくなっている点である。審議会を開いて専門的な審議が行われているが、メンバーに業界人が大変少ない。この結果、幅広い業界の問題意識が吸収されにくいものとなっている。

 さらに計画づくりそのものの取り組みが異常に遅かった点をあげざるを得ない。なぜ二、三年前から取り組まなかったのか。着手が遅かった分、素案そのものの内容が大変貧弱である。十年前の第三次計画をそのまま採用し、目標人数だけを変えたほうがまだよいくらいである。

 内容に関して@総合産業としての認識や理解が弱いA国際情勢の分析がほとんどないB戦略の欠如、という三つの大きな疑問がある。

 観光産業が沖縄経済の重要な一角を占め、国際情勢とも大きく連動していることが奇しくも今回の米テロ事件とその報復戦争で明らかになった。これまでは経済の教科書に観光産業は総合産業であると書いてあるから、そうなのかもしれないという程度の認識であった。しかし、テロ事件で観光客が激減し、現実に観光とは無関係と思いこんでいた県内企業に大きな影響が出たことで、教科書に書いてあることが体得されたのである。

 同時に国際情勢の沖縄観光への影響が顕著であるということが改めて認識された。

 新しい観光基本計画はこの二点を充分に意識したものでなければならない。素案はどうなっているか。目次を見る限り、驚くべき事に県経済にどのようにかかわるかという考えがほとんどなく、国際情勢の分析にいたってはほとんどゼロである。

 そして、目次にないことでも本文に細かい説明があるかもしれないと思って、調べても記述がないか的外れのことしか出ていないのである。

 さらに「総説」の中に「二十一世紀を迎え、観光・リゾートが本県の産業振興のリーディング産業として戦略的な展開を図るために、第四次観光振興基本計画を策定する意義がある」と述べているのに、どのような戦略をとるのか、全く記述がない。

■おかしい「戦略なし」 基地と観光の関連は重大

 実例を示す紙数がないので私のコメントを述べると、まず、県経済との関わりでは観光産業の成長によって他の分野の例えば製造業や農林水産業を引っ張るという考えが素案の中では大変弱い。V計画の基本施策、3リーディング産業としての成長(1)総合産業としての体制づくりア関連産業との連携強化、の中で結論的に「県経済の経済波及効果調査を行い、波及効果拡大に向けた戦略を検討していく」といっている。これは経済効果の調査がないからこれから調査し、戦略がないからこ れから戦略を検討する、といっていることと同じであるが、素案そのものが戦略を示すべきであるはずなのに戦略がないというのはおかしい。

 県経済で果たす観光の波及効果の調査が必要だというくらいだから、たとえば数値目標では観光客数六百万人が最も現実的であるというおかしな議論が出てくる。もし六百万人なら、県がこれまで三十年間にわたって取り組んできた那覇空港の沖合展開は不要である、という結論にしかならず、新振計など上位計画との整合性が全くないことになる。

 観光客が六百万人なら、那覇空港の運用の改善で観光客数は吸収できるから、沖合展開は不要ではないかとなる。私は十年後の八百万人は単なる通過点だと考えるから、どうしても二〇〇三年からの八次空整に沖合展開を注入すべきであると考えるが、このような考えを戦略というはずである。

 ラスベガスは国際コンベンションの誘致に力を入れたが、中でもハイテクIT関連のコンベンションを優遇して周辺にハイテク産業を誘致した。これは戦略であった。台湾は観光産業で外貨を獲得し、製造業を強化した。観光産業は戦略産業であり、基本計画も戦略を持つべきである。「波及効果に向けた戦略を検討していく」といっている場合ではないのではないか。

 沖縄の場合戦略として空港の例を挙げたが、空港はもはや着工寸前であるから、メインの戦略とはならず、次の戦略としては基地撤去の要求と撤去後の経済の建て直しを盛り込むべきである。

 普天間の返還は目前である。ここでは宜野湾市が中心になってリゾートの計画もある。これを観光基本計画でどのように取り込むのかについても全く記述がない。次の十年の沖縄では基地問題はますます大きな問題となってくるのが目に見えているのに、これを無視してホントに観光基本計画と言えるだろうか、よく考えて欲しい。普天間だけでなくSACO合意の五千ヘクタール、十一施設の返還期限はここ十年以内である。これらが返還されると当然に観光施設が建設される。泡瀬のゴル フ場などはそっくりそのまま県民と観光客に活用されるようになるだろう。

 このような激動が起ころうとしているのに、六百万人とか七百万人の観光客で県経済をリードすることが本当にできるのか。

 一方、日本には一泊以上の旅行に出かける人が年間三億五千万人いる。沖縄観光は日本の観光市場で三%程度のシェアをとっても不思議ではない。すると年間千万人程度になるが、これに向けて態勢を整えるには今後は基地撤去後のリゾート整備は不可欠になる。

 このためにすでに面として観光用地の基盤整備ができるように新振計の中に制度が埋め込まれている。これを最大限に活用して行くべきである。

 次ぎに国際情勢の分析や記述がない点に触れる。全くないわけでなく、すこしはある。引用するとW計画の基本方向3国際的に通用する美しい観光・リゾートづくり「沖縄が持つ優れた資源性を活かし、都市やリゾートエリアを中心にパブリック空間の面的整備を進め、国際的にも通用する美しい観光・リゾート空間の形成\美しいまちづくり\を目指す」。4アジア太平洋地域を中心とした国際観光の振興、コンベンションの推進「アジア・太平洋地域に位置する地理的特性をいかして、国際 航空路線の拡充、コンベンション施設などの基盤整備、国際会議等誘致の強化、国際会議等を支える人材の育成等を図り、受け入れ態勢づくりを目指す」と書いてある。

 国際情勢の分析は面倒かも知れないが、沖縄公庫調査部を始めハワイやバリ、東南アジアのリゾートの分析は多数ある。沖縄県は毎年、海南島、済州島、バリ島、沖縄本島で観光会議を開催しているから少なくともこれらの地域の観光開発の現状は知り尽くしているはずである。

 東南アジアの各地で、国策として強力に観光開発が行われており、この十年以内にグアムやハワイも参入してこれまで以上に熾烈な国際間の競争が始まる。これに対抗するための考えは素案には全くないのである。

 このように疑問点を指摘するだけで、素案がいかに頼りない内容になっているか、多くの業界人は想像がつくであろう。そのような時期にテロ攻撃が起こった。素案の執筆者は一層萎えてしまって、十年後の観光客数は五百万人、六百万人、七百万人のどれか、という計算を示した。五百万人というのは〇一年に達成するはずの十年前の目標である。それを十年後のシミュレーションとしてわざわざ検討対象にしてしまった。

■大臣の計画を下回る 戦争の影響は一時的

 超長期的に見ればWTO(世界観光機関)は二〇二〇年まで世界の観光産業はテロ後も平均四・一%成長に変更はない、といっている。戦争の影響は一時的なものに過ぎない。二階俊博元運輸大臣は「大臣在任中に十年後の沖縄観光七百万人を目標にすべきだ」として沖縄観光を考え得る百人委員会をつくった。昨年十二月十三日の沖縄観光促進シンポジウムであいさつした二階元大臣は「テロで七百万人という目標が萎えてしまってはいけない」と述べたように、十年後の目標に昨年起こっ たテロの影響を織り込むべきではない。V字型の回復を目指すべきである。

 最後に、数値目標より内容が重要だという指摘も業界の内外にあるのでこれに触れる。

 観光客数は六百万人でも、滞在日数が〇・五日増えれば、滞在日数が現状と変わらない七百万人よりも観光消費額は大きいと県は述べている。

 〇・五日増えれば確かに計算上はそうなる。その場合、ホテルの稼働率は七百万人となったときと同様になる。だが、これでは旅客数そのものが増えることによってしか、売り上げを拡大する方法がない業種、例えば航空会社、土産品業界、観光施設の声が全く反映されないことになる。航空会社は旅客増が期待できないなら沖縄への投資をやめるかも知れない。

 沖縄の観光産業に参入しようと狙っていた内外の投資家にも誤ったサインを送ることになる。成長が見込めないとなると、投資をひかえたり、諦めたりする投資家が出てくる。こうなると沖縄は観光地として進歩しなくなり、進歩しなければ観光地は衰退に向かう。このようなサインを出すべきではない。常に成長することを示すためには、〇・五日滞在日数が増えたのと同じ効果を得るという内向きな議論は表に出す必要はなく、人数ベースで大きな数字を出すべきである。滞在日数の議論 はあくまでも県内部の議論にとどめるべきだ。六百万人と七百万人では国際的なインパクトが全く異なることを認識すべきである。

 最後に八百万人が可能なのかどうか、可能であると私は何度も述べてきたが、もう一度述べる。根拠は観光客数の伸びを記録した一枚のセミロググラフである(グラフ参照)。世の中で起こっている自然現象・物理現象はほとんどがセミログやログロググラフで表現される。

 観光客数の増加は科学的に単純に時間の関数であるということになるが、実際には時間の経過とともに受け入れ態勢の充実、需要の拡大、旅行の多様化、可処分所得の増大などの様々な要因が変化しているのである。観光客数の増大に大きく寄与するのは受け入れ態勢の充実であり、この中にはブームやムード、顧客満足度、ホスピタリティーの高まりなどが含まれている。

 受け入れ態勢の充実と同じくらい重要なのが需要の拡大である。これは先ほど日本人マーケットは三億五千万人あると述べたものである。高齢化の進展はますます旅行需要を拡大させ、沖縄が三%千万人のシェアをとるのは困難な話ではない。

 沖縄観光もこれまでの二十年はセミロググラフの直線の延長上にあった。今後これがどこまで伸びるかはわからないが、滑走路の沖合展開、リゾートタウンの構築、返還軍用地の活用など懸案さえ解決すれば、WTOが見通しているようにあと二十年はこの通りに行く。千万人を達成する途中で環境への影響などが出てくる恐れがあり、その場合に新たな検討が必要になることはあるかもしれない。しかし、次の十年は観光基本計画で制限をかけるというところまではいかない。ぜひ懸案の解 決策を盛り込むべきだ。

 以上、駆け足になったが、観光客の目標数値は可能な範囲で大きなものがよい。八百万人という目標をグラフとともに見せれば、科学的・国際的に誰にでも通用する。また、素案の内容にはあまり触れることができなかったが、全体としては魅力ある沖縄をつくるための提言はいくつもあり、そのまま採用してもよい部分も多い。

 素案執筆者は旅行会社の意見を中心にしたようで、引用資料も旅行会社ものが多い。それはそれで一つのテクニックであるが、沖縄県全体の基本計画を策定する上では視野が狭くなっている。本論で私が述べた観点も取り入れて、まず県内業界が納得できる内容とすべきである。さらに完璧なものにするには計画策定を一年遅らせてもよい。そのための素案なら年明け早々の策定ということにしてもよい。 (「観光とけいざい」第604号02年1月1日付け)  


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