連載コラム視点613
渡久地明(沖縄観光速報社)


札を印刷して国民に配る理論

 景気を回復させるには札を刷って国民に一律に配れ、という愉快な研究がまじめに論じられている(www.tek.jp/p/)。

 日本中の企業が借金を返すのに一生懸命になって、銀行には金が余っているのに不良債権の処理で市中に金が回らない。ならば金を印刷して国民に配れ。額は一人当たり三十万円。日本全体で四十兆円。これを少なくとも五回やれば景気は回復するというものだ。もちろんホントに金を印刷する必要はあまりなく、 国民の銀行口座に電子的に金を振り込めばいい。これは、金を差し上げるということではなく、これまで取りすぎた税金をお返しするという考えでよい。

 通貨を発行する権限は政府にある。通貨の増刷は経済学の教科書にある最も基本的な国の特権である。これまで、日本は通貨を増やすには一旦国債を発行してそれと同額の通貨を市中に出してきたのだが、本質的に通貨の増刷と国債発行とは関係がない。国が金利ゼロ、償還期限一億年くらいの借用書を日銀に差 し入れて金を増刷してもよい、のである。金融問題の本質はこれである。

 それではハイパーインフレが起こってボストンバックに金を積めてスーパーに買い出しにいかなければならなくなる、と心配する人があるが、それが起こるのは供給不足でものがない時代や国に限定される。日本のように需要が五百兆円しかなく、供給能力が八百兆円あるという条件なら需要が供給を上回るま でインフレにはならない、という分かりやすい理屈である。いま、日本の製造業の稼働率は六〇%程度であり、フル操業したからといって物価が上がる心配は金輪際ないのである。だから、毎年三十〜五十兆円、少なくとも五年間国民に一律金を配ってもインフレにはならない。それどころか、国民は豊かになり、失業 が吸収され、企業はフル操業して利益が出る。だれも困る人はいないのである。

 この考えはいま急速にマスコミや政治家の間に広がってきている。実は公共投資によって需要を拡大するという政策は非常に有効であり、今の日本が公共投資の削減で不況となっているのは明かである。特に小泉内閣が出てきて、経済音痴の学者を経済政策担当大臣に登用してからひどくなってきた。公共投資は 金の無駄遣いとして批判の的であるが、実際には無駄な金を使ってもそれが市中に出回るのであれば、それだけで有効なのである。

 しかし、確かに批判の通り、余りにもひどい公金の使われ方が多いから、同じかそれ以上の効果が出せるなら国民全部に公平に金を配り、国民がその金の八割くらいを消費に回してくれれば、問題は解決するのである。最初は全部貯金するという人もあるかも知れないが、二年目、三年目には財布が緩む。四人家族に 年間百万円という金が五年間振り込まれることが分かれば、大量にものは売れ、景気は上向き、失業は減るのである。誰も困らない。

 このようにいうと古い経済学の考え方だという人もあるが、正しい理論には古いも新しいもない。理論そのものに間違いが発見されず、実施が簡単で必要な効果が予見できれば即座に実施すればよいだけである。ITの整備とか、高齢者のケアとか国民を煙に巻いてはいけない。(明) (「観光とけいざい」第613号02年6月1日号)  


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