連載コラム視点614
渡久地明(沖縄観光速報社)


IT化が成り立つ環境条件を整えよ

 機械的・非人間的な作業はコンピュータにまかせて人間は考えたり、人と接することなど人にしかできないことをやる。それに伴って生身の人間の脳の構造(考え方や言語)も変わらなければならない。

 これがコンピュータ社会の行き着く先の技術者の信念だった。二十年以上前、私が学生の頃の最も進んだコンセプトの一つだった。その後、パソコンができ、インターネットが生まれ情報通信の分野は相当に進歩した。

 高度情報通信社会はニューメディア社会とかマルチメディア社会、IT社会といわれるようになって、いま、成長する産業分野として大いに注目されているのだが、問題点も次第に明らかになってきた。問題点とは特にIT化によるコスト削減の風潮とそれに伴う失業・不況の関わりである。

 ITによって現実に人件費の大幅なコスト削減が可能になってきた。特に印刷出版の分野では職人技と言われた部分がドシロウトでも簡単にできるようになり、熟練工が職を失ない、別の部門に転身した。

 同じことは企業内でも徐々に進行している。会計や帳簿を付けるという作業は、最もコンピュータ化しやすい分野である。所得税の申告などはインターネットで自宅からできるようにすべきである。これだけでも余計な作業時間が不要になり、国民の負担は減る。

 コンピュータがもっと使いやすくなってこれまで百人の人間が必要だった仕事が、一人でできるようになる。今の風潮から会社は九十九人の首を切れば人件費が削減できる。

 IT産業そのものも人材が必要である。しかしITで必要とされる人の数が百人なのに、IT化によって失職する人材が千人出て五百人が転職できないという状況が予想される。

 ではクビになった人は何をするのか。技術系の発想では人間にしかできない創造的な仕事をする、という解答であった。ところが、今の日本を見れば分かるように、真に創造的な仕事に就ける人はそれほどいないのである。多くの人が失業者となってしまった。

 これではIT化を進めて無駄な出費を企業も個人もなくそうとすると失業がでて世の中は不況になる一方である。それに追い打ちをかけて政府までが出費を減らすことに専念している。

 IT化の主要な目的が余計な出費を減らすことにあるとして、いま述べたような状況が進展した場合、IT化による失業や不況をIT産業そのものは解決できないということになる。

 解決にはIT以外の産業で大きな人材の需要があり、IT化によって解放された人材をその産業に回すというところまで社会構造を変えていくべきであり、そうしないと不況は恐慌に進む恐れがある。沖縄の場合、人材がいなければ成り立たない観光産業があり、このことが他の地域に比べて不況の進展を防ぎ、IT特区が成り立つ要件になっている。

 IT化を進める技術者は人の手間を省く、無駄をなくすという方向に限りなく突き進む。IT化が進展する過程で人は職を失う。しかし職を提供するのはIT産業ではなく別の産業や社会全体である。その準備をしなければならない。(明)(「観光とけいざい」第614号02年6月15日号)  


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