連載コラム視点619
渡久地明(沖縄観光速報社)


成功した世界遺産セミナー

 大阪で開かれた沖縄の世界遺産セミナーが話題になっている。作家の陳舜臣さん、京都大学の竹内実さんと日本・中国・琉球の歴史に詳しいお二人が対談するだけでも人は集まる。この分野の巨頭が沖縄を語るとあってセミナー参加者もどっと詰めかけた。OCVB大阪事務所によると、当初四百人前後の入場者を予定していたが、申込がアッという間に千通を越え、締切までに千二百通に達したという。

 会場の大阪国際会議場の中ホールから千人収容の大ホールに急遽会場を変更し、当日、来れない人を見込んで八百五十席を用意した。私も大変興味があったので取材したが、当日は午後一時半からの開場なのに大阪駅のシャトルバス乗り場は十一時頃から列が出来、十二時を過ぎると四、五分おきのバスに乗るのに三十分以上またされる状態になった。

 会場には十二時前から人が集まり始め、始まる頃にはほとんど席が埋まり、遅れてくる人で満席になった。

 見たところ八割以上が六十代のシルバー層だった。

 陳舜臣さんは脳を患って体が自由に動かないが、沖縄へののめり込み方は大変で、早口で文章を二、三行おきにしゃべるような話し方をした。全部を理解するのは難しかったが、近著の「沖縄の歴史と旅」(PHPエル新書)を読むといま陳舜臣さんが沖縄をどう思っているかがよく分かる。沖縄の記録が中国や日本の文献に現れる頃から現代までを愛情を込めて描いている。

 一方の竹内教授は開口一番「漢文を素読します」といって「若くして学べば壮にして成すあり。壮にして学べば老いて衰えず。老いて学べば死すとも朽ちず」といきなり会場に集まった人達と一緒に大きな声で合唱した。受講者の多くがかなり高齢の方々で、「死すとも朽ちず」というフレーズには力がこもった。うまい講演の導入の一つであろう。

 高梨敬一郎さんという元NHKアナウンサーの舞台回しも上手で、二時間弱のトークは終わったが、途中で席を立つ人はなく、会場は一様に満足した様子である。

 実はこの企画、成功するかしないかでずいぶん見方が別れた。このような企画は必要ではあるが人は集まるだろうか、というのが私の印象だった。おそらく主催者側もやきもきしたに違いない。ところが前述のような大盛況で、これには大阪の旅行各社もビックリした。会場で世界遺産をめぐるツアーのパンフレットを配りたいという旅行大手も出てきたくらいだ。

 これまで文化を売るのは非常に難しいといわれた。かなり長文の説明を要するからでもある。見れば分かる「海」より、上手な説明を受けなければ分からない「歴史」や「文化」は相手を説得するのが大変である。しかし、それが売れる時期が来たと思わせる盛り上がりをわれわれは見た。同様な企画が東京や福岡あるいは他の地方都市でどのように受け入れられるのか、県やOCVBにはぜひチャレンジして 欲しい。

 同時に受け入れる側も基礎的な知識が欲しい。沖縄の自然や海の生態系、社会情勢に関する知識や経験もまた目的を持ったツアー客を受け入れる際に求められる。(明) (「観光とけいざい」第618号02年9月1日号)  


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