連載コラム視点特別版620
渡久地明(沖縄観光速報社)


滑走路は独自に建設すべきである
今後10年で観光収入は3,100億円の減収となる

図1

 観光業界の不振はテロ後加速され、先行きに暗い影を落としている。しかし、本当の問題は、2007年頃から始まる滑走路限界による観光客の頭打ち現象である。滑走路がなく11年まで県計画を進めると観光収入は3,100億円の減収となり、これを最小限にくい止めるために業界は独自の判断による観光産業の運営が求められる。しかし、減収を放置するのではなく、独自に滑走路を建設し、その後、着陸料や自衛隊からの使用料で、建設費を回収するなら一石二鳥の効果を生む。(本紙・渡久地明)

<1>11年に650万人は悲観的 損失を最小限にすべきだ

 沖縄観光はテロ後の落ち込みから人数ベースで回復を見せているが、ホテル運営の撤退や閉鎖などが相次ぎ、業界からは悲鳴が聞こえている。デフレの影響で旅行商品の価格は下がり、全国一律一万円運賃など航空会社は需要創出に懸命の努力を続けている。

図2

 一方、沖縄県は二〇一一年までの沖縄観光振興計画で観光客数の目標を六百五十万人とした。これは滑走路が限界になるという制限要因を前提としたもので、本来、滑走路が整っていれば六百五十万人どころか七百万人台半ば、八百万人に手が届いてもおかしくないはずであった(図1、図2)。このような低い伸びを設定した背景にはデフレ経済もある。観光審議会のある委員は「今後景気が回復することはあり得ないから七百万人は無理、六百万人だ」と述べたが、この発言には滑走路沖展が間に合わないという意味に加え先行き への絶望感も含まれている。ところが、これまでの沖縄観光のトレンドは国内景気とは無関係に伸びてきていることが分かっている。超長期を見る場合、景気変動は除外して考えるべきである。短期の変動はあってトレンドの周辺で好調と伸び悩みを経験してきているのは事実である。

        図4 A:県政策では2008年に650万人を達成後
            頭打ちの場合に比べ1,700億円の損失
        図5 B:県政策では滑走路がある場合に比べ収益
            は3,100億円の損失

 しかし、滑走路が先に存在しており、沖縄観光が伸びたいように伸びれば八百万人前後に届くことは間違いない。それを六百五十万人で頭打ちにし、沖縄県の計画通りに十年かけて徐々にこの数値を達成したとした場合、この間の観光産業の損失は三千百億円にも達する(図5、表)。すなわち、滑走路一本分の建設費くらいの損が出るのである。

 このことが観光産業全体に暗い影を落としている。どんなに集客しても制限条件によって県内業界は三千百億円の損を出す、とすればいま厳しい経営が好転するとは思えない。撤退、という判断も出てくる。ここで県内業界と限定したのは従来、観光収入の計算に県外からの沖縄発着の航空運賃が入っていないためである。これを含めると損失はさらに膨れ上がり、全体では四千億円の規模に達する。滑走路二本分である。以下、業界と記した場合、従来通り県外での売上を含まない観光収入に限定することとする。

 これが最近の有力ホテルの撤退や売却の大きな要因となっていることに気づかねばならない。

 しかし、その損を最小限にくい止める方法もまた検討されるべきであるのに、これまでだれもその方法を示していない。実際は業界人は本能的に損を最小限にする方法を知っていて、独自の方針に従って頑張るだけである。

 その方法は簡単で、わざわざ十年かけて六百五十万人を達成するのではなく、伸びるように伸ばして五、六年で六百五十万人を達成、以後、滑走路の開設まで六百五十万人の頭打ちで推移させるのである(図3)。

 これまで通りの伸びを今後も続けるとして、今年の四百八十万人を基準に計算すると六百五十万人達成は〇八年か〇九年になる。〇九年以後一一年まで頭打ちなら損失は千七百億円程度にまで圧縮できる(図4、表)。それでも滑走路一本分に近い損失には違いないが、業界いや県民の手元には千四百億円が残るのである。

 結論として六百五十万人の頭打ちには違いない。しかし、なるべく早く目標を達成することによって損失を抑えることが出きるのだ。当然、業界はこのように動くと見るべきだ。つまり、業界は県の計画通りに動いたらやっていけないから、個々の企業が熾烈な競争に入り、自動的に現実は県の計画よりも上方にずれることになる。

<2>わずかな伸びでは衰退する 業種別に予想される諸問題

 この間、どんなことが起こるか細かくシミュレーションしてみよう。

 最も県の計画に乗れない業種は航空産業である。この業種はまさに観光客数によって成績が左右されるからである。リピーター率とか観光地の質の議論につきあっているヒマはあまりない。観光客数を押し上げる最大のエンジンが航空産業である。大局的には沖縄の質が向上し、需要がどんどん創出されることは航空産業の力の入れ方にとって重要な要素である。しかし、不況で投資がひかえられ、新たな施設がもし増えない状態が続くなら、航空会社はとにかく旅客を運ぶために様々なキャンペーンを打つであろう。それが効果を現さなくなったり、コスト割れとなれば、供給の削減などに踏み込まざるを得なくなる。

 同様に観光施設もまた観光客数によって経営が左右される。リピーターの割合が増えることによって、観光施設の多くは客単価を減らすことになる。つまり、初めての観光客は首里城を見学して感動するかも知れないが、二度目には首里城ではない別の施設を訪れたいと思うようになる。

 観光施設が入場客数を増やす方法の第一は初めての観光客を増やすことである。第二の方法は、常に新しいアトラクションをつくっていき、二度目のお客も、三度目に訪れても新鮮な驚きがある、というものにしていかなければならない。そのためには絶え間ない設備投資が必要だ。海洋博記念公園の水族館が世界一となる施設を新設するのはまさにこの理由である。

 第三にホテルは航空産業や観光施設とは別の動きになる。観光客数が伸びなくても、滞在期間が増えれば客室は埋まる。このため、ホテルの収益の拡大方法は、旅客数を増やすこととは別に滞在日数を増やすという方法が可能である。しかし、滞在日数を増やすのはそれほど簡単なことではない。一部のホテルは独自に滞在期間を伸ばす努力をしているが、滞在を延ばすには町全体が楽しいとか、沖縄でやることがあってどうしても四日かかる、というような大がかりな仕掛けが必要である。それにはホテル単体では対応できない恐れがある。

 一方、ホテルは毎年新たな競争者の参入を受け入れなければならない業種でもある。一般に新設ホテルは集客力が高いから、ホテルができれば旅客はそちらに流れる。不況下、大がかりな新設ホテルの動きが少ないため、まだ元気はあるが、いま、那覇市内に五百室クラスのホテルができれば影響は大きい。一流を自認するクラスでも面子を捨てて撤退ということが起こりうる。

 しかし、ホテルを新設する側にとってこの時期はチャンスでもある。不動産価格や工事代金が下がっており、少ない投資額で質の高いホテルを造ることが出きる。同時に新設ホテルには旅客が集まるからスタート時から好調な入込が期待できるのである。この新設ホテルは観光客数の底上げに貢献する。出来るだけ早く六百五十万人を達成すべきであるという観点からみれば、沖縄全体のパイを広げることになる。しかし、〇九年の頭打ちを迎えると、県内中小ホテルの整理が進むことになる。

 県内中小ホテルはまた最近のドミトリーの隆盛にも影響を受ける。ワンベッド千五百円〜二千円のドミトリーは価格が安いだけで集客しているのではない。たくさんの仲間がいて、そこで生活することが楽しい、という若者で賑わっている。ドミトリーの正確な数は分からないが、この四、五年で既に四百ベッド以上に達しているものと見られ、中堅ホテル一つ分以上の影響がある。

 このような見えにくい競争相手が宿泊業界では今後も増える。県民の住宅環境が改善するのに伴い、これまでホテルに泊まっていた観光客のうち、友達の家に泊まる、という層が出てくる。すでに十年以上前から欧米の観光地はホテルに泊まるよりも、友人・知人、親族の家に泊まるという状態になっているが、沖縄も徐々にこの方向に向かうであろう。

 これらの潮流を見極めれば、今後有望なのは海岸沿いのリゾートホテルということになる。都市型ホテルはますます立地条件が経営を左右するようになってくる。

 第四にお土産品の動向である。お土産品という実態はますますなくなり、むしろ普通の県産品がおみやげとして購入されるようになる。すでに那覇空港などでは県産和牛に代表されるような農水産品がよく売れており、観光客が最も重視する買い物が県産品になっている。テビチのレトルト食品などはこれまでスーパーで売られていたが、那覇空港でも土産品としてよく売れている。このように従来のお土産品に普通の県産品が取って代わろうとしている。いわゆる土産品を製造販売してきた企業は新たな視点から製品を開発しなければならず、価格競争はスーパー並みを強いられる。もはやかつてのような五カケ、四カケ、三カケといった土産品価格は通用しないようになった。

 しかし、製造業の立場からいえば、観光施設やホテルに製品の販路が広がり、価格交渉もスーパーと同じということになれば、収益の拡大につながり、観光客の増加がそのまま製造業にとってもプラスに作用することになる。観光産業は県内製造業のジャンプ台の役割を果たすことになり、製造業と観光産業の相互作用が働き始める。経済は相互作用で成り立ち、これがうまく作動することによって産業間の連携が確立され地域は活性化するのである。

 第五にレストランなどの飲食業も競争は激化している。ホテルの飲食部門が厳しいと言われるが、市中の食堂に観光客がどんどん出かけるようになったからである。筆者がよく昼飯を食べるでいご食堂には最近観光客が増えてきた。聞くとガイドブックに紹介されていたり、タクシーの運転手が自分がいつも食事をしているからと一緒に観光客も連れてきている。この流れも今後大きくなって行き、農業と観光産業の相互作用はこの延長線で生まれる。

 第六にこれらの旅行の自由化、多様化、大衆化の潮流を最もよく理解しているのが旅行社である。ある県内旅行社の営業マンによると、「募集でハワイがあまり売れなくなった。最近はチャーター便も出していないのではないか。沖縄からハワイに行く人はみんな自分で飛行機・ホテルを手配している」というほどだ。沖縄が同じ状態になる可能性は高い。リピーターが増えれば旅行社を通じて沖縄旅行を買う人の割合はますます小さくなり、リピーターは自分でバーゲンタイプの航空券を買い、ホテルは最新のビジネスホテルかドミトリーというパターンが増えるであろう。

 第七に県内の交通手段の変化である。バス・タクシーよりも自由に行動できるレンタカーに人気が集まっているのは周知の通りだ。一方で、レンタカーが旅行商品に付いているからホテルに行くまでは使うが、滞在中は駐車場に置きっぱなしという状態も顕著になってきた。レンタカー一台からの収益は大幅に減少し、一台当たりの収益はピーク時の半分以下とされる。この業種も車の回転を高めて収益を増やすのが至上命題である。

 第八にエコツアーやグリーンツーリズム、ブルーツーリズムを展望しよう。これらは現在のところ需要はそれほど大きくはない。というよりも本来このようなツアーは旅行社がビジネスとして取り組みにくい側面を持っている。大量に旅客を送り込めば沖縄の自然に影響を与えるのは当たり前であって、それでは自然を守ろうとする本来の思想に反する。この旅行形態は徐々に伸ばすべきで、しかも自然との関係から充分にコントロールすべきである。

 エコツアーやグリーンツーリズム、ブルーツーリズムは新振計のなかでは今後の沖縄観光の主流になるように記述されているが、現実には沖縄観光全体に占めるシェアは五%程度を越えてはならない。一〇%がエコツアーの旅客となれば、自然は破壊される。というわけで、大きくなる要素は少ないと見ておくべきだ。沖縄観光の主流はリゾートであり、今後もこの方向に間違いはない。

 第九に沖縄の歴史や文化を売る観光は非常に取り組みは難しいが、売れる要素がある。三十代以下の観光客が海を中心にした沖縄を楽しんでいるのに対し、四十代以上は明らかに沖縄での行動パターンが異なり、夏を避けて来沖している。この傾向はますます高まり、高齢化社会にはどんなに勉強してもまだ足りない、と思わせる歴史や文化をベースにした観光が極めて有望になる。

 ついでに、高齢化社会での老後の住処としての沖縄というアイデアがあるが、高齢者医療の専門家によると、人は年をとるに従って自分が生まれ育ったところから動きたくなくなる、という傾向がある。医学的なデータもあるといい、老後、リゾート地に住みたいと思うのは若いうちだけだという。その場合は体が動くうちの避寒地として数ヶ月程度の滞在の繰り返しということになろう。

 このように見ていくと、観光産業を構成する様々な業種は観光客数の増加によらなければ、売上を拡大できない業種と、滞在日数が増えることによって観光客数の増加を補うことができる業種が入り交じっている。

 すなわちホテル、レストランは滞在期間が伸びれば観光客が増えるのと同じ効果を得るが、航空会社、旅行社、観光施設、土産品、陸上交通などの業種は観光客が増えなければ、収益が拡大できないのである。また、観光客が増えてもリピーターが中心になれば売上が増えない業種に観光施設があり、最近のIT化で旅行社も徐々にそうなる可能性がある。

 沖縄の観光業界は、特に行政はこれまで観光は量を追求するのか質を高めるべきなのかで、不毛な議論を続けすぎた。ホテルなどは質を高めるには新設(投資)しなければならず、この行為は必然的に量の拡大につながる。同時に量が増えなければ質の高いサービスは提供できないのである。

 観光客は常に増加しなければ、現在進行しているようにホテルや観光施設の撤退、売却は今後も続く。沖縄観光は衰退の道を突き進むことになる。

 この解決にはどうしても伸びを制限している空港を何とかしなければならない。

<3>滑走路は09年の完成必要 業界の資金拠出が最善策

 那覇空港は千歳、福岡とともに国の拠点地方空港という位置づけであり、〇三年からの八次空整に整備が盛り込まれるかどうかに注目が集まっている。八月末の概算要求には那覇空港の整備に関する記述はない。沖縄知事は最近国土交通省に沖展明記を要請しているが、体よくことわられている。しかし、この問題は、早くしなければ地域経済と国内観光産業、自由に旅行をしたいという国民に大きな損失を与える問題であり、本来は責任問題である。

 また、八次空整に取り入れられたとしても、供用開始には十年かかると見られることから、繰り返し述べたように、観光客は六百五十万人で頭打ちとなる。しかし、その時には航空産業と県内観光産業の損失は最大四千億円、損失を最小限にくい止めても二千五百億円は下らない。いよいよ苦しいとなれば、現在、シェア二割といわれる航空自衛隊の訓練を中止してもらう他はない。それによって、民間航空機の発着回数を増やし、多少は息を継ぐことができる。では、そこから先は万策尽きるのかといえばそうでもない。

 そこで提案である。空港が出来ないことによって県内業界すなわち沖縄県民と航空産業、旅行会社全体で数千億円の損失を被るのが分かっているのであるから、この際、滑走路の建設費用を業界が負担し、失うはずの観光収入を回収した上で、負担した工事費は航空機の着陸料、自衛隊への滑走路の賃貸料として時間をかけて回収するという取り組みが欲しい。これなら損は発生しない。工事期間も国際入札によって滑走路限界となる〇九年までに完成できる企業を募集すべきである。千八百mを〇九年頃までに完成し、一時的に小型機に限定して供用した上で、その後、三千m級まで拡張してもよい。

 しかし、今年十二月には国の予算が決まる。そこで那覇空港に予算が付いた場合にも、それを証券化してやはり国際入札にし、安く、早くつくれるところに発注したらよろしい。つまり、今後、毎年二百億円ずつ、十年で二千億円投資するという計画ができれば、その計画を売却し、工事は六年くらいで出きるというところに発注する。受注企業が千八百億円で完成させれば二百億円の利益が出る。早くつくればつくるほど、工事会社は利益を生むことになり、大きなインセンティブとなるのである。県民の中にも確実なファンドであるから参加するところが出てくるだろう。

 十年以内の滑走路沖展は物理的に無理、といわれているが、これは従来工法を想定しているためであり、本当は大いに検討の余地があると見るべきである。

 筆者はかつて沖縄NBC会の人達と仕事をした際、世界最大の海運会社である米国NBC社は世界最大の浚渫船を持っており、この船を使えば日本では三年がかりの埋め立てがわずか三カ月で出来た、というエピソードを聞いたことがある。空港の埋め立てに十年かかるというのは迷信に過ぎないと思う。 (「観光とけいざい」第620号02年9月15日号)  


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