連載コラム視点625
渡久地明(沖縄観光速報社)


エコツーリズムはマナーだ

 エコツーリズム国際大会・沖縄で各国の報告を聞いていると、ヨーロッパ、アメリカは当然として、アジア各国でもエコツーリズムの取り組みが予想以上に進んでいるらしい。報告ではネパール、マレーシアでエコツーリズムの理念や手法が取り入れられており、特にネパールでは欧米の経験者が入って地元と協力して新たな観光のあり方を構築しているようだ。

 一九九二年のPATA(アジア太平洋観光協会)総会のテーマは「エンリッチ・ザ・エンバイロンメント」(環境を豊かにする)というテーマで世界各国から二千人以上の観光関連業者がバリ島に集まって開催された。アジア太平洋観光協会という名前から、アジアの人達が多いと誤解されがちだが、本部はサンフランシスコにあり、メンバーはヨーロッパから米国までの世界をカバーしている。インドネシア大統領が開会にあたって挨拶。スピーカーに最先端の環境保護、環境再生の権威が集まった。エジンバラ公らも討論に参加。

私も取材した。

 十年前すでに「環境を破壊して作られたような観光地には行くべきではない」とパネリストが発言すると会場から盛大な拍手が沸いたものだ。つまり、欧米の旅行観光産業はすでに環境に関して相当に神経質になっていたのである。このことから自動的に泡瀬の干潟を埋め立ててつくられるような観光地は成り立たないことが導き出せる。

 観光とは別の観点からこれは当たり前のことだと私は思っていた。例えば試験管のなかの四〇度くらいの液体の温度を測ろうとして、二〇ミリリットルしか入っていない試験管に小指の先ほどもある温度計を入れたら、温度計そのもの温度をはかることになってしまうだろう。環境には許容範囲というものがあり、それを越える刺激を与えると環境を変化させてしまう。観光地を訪れる者はそれらの影響を最小限にしなければならない。これは温度計に限った話しではなく、計測工学という学問があるように、自然科学の分野の古くからのテーマなのである。

 人口十人しかいない島に百人の観光客が訪れて、一ヶ月も滞在したら地域コミュニティに相当大きな影響を及ぼすというように言い換えることができる。あるいはランボーのように田舎町ではたった一人のストレンジャーが通りかかっただけで、地元住民がよってたかって追い出そうとする物語ができる。

 エコツーリズムは今回の大会ではこのような捉え方になった。山を案内することだけがエコツーリズムではない。地域にマイナスの影響をいかに与えないようにすべきか。「そのことはセンスであり、マナーである」とJTBの舩山龍二会長が総括セッションで発言したが、その通りである。

 これが今回の大会で最大の収穫であり、大成功と評価すべきキーワードである。

 一方、日本側の大会参加者の多くが旅行業者よりも、山を歩くタイプのエコツーリズムの実践者が多く、ひょっとしたら旅行大手のトップがこのような発言をしたことの真の意味があまり通じなかったかも知れない。当然のことを言ったように見えるからだ。しかし、この種の発言が旅行大手のトップから出るのは極めて少なく、歴史的な発言といってよい。十数年ぶりに会場で再開したJTBの五月女貞四郎先輩は「大成功じゃないか、渡久地君。沖縄というステージがあのような発言を引き出したんだ」といった。(明)(「観光とけいざい」第625号02年12月合併号)  


 |  視点626 |  HOME |
本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は沖縄観光速報社に帰属します。
Copyright (c) 1996 Okinawa Kankou Sokuhousya. No reproduction or republication without permission.