連載コラム視点すぺしゃる626
渡久地明(沖縄観光速報社)


<不況・滑走路限界をどう乗り越えるか>

観光業界から観光産業へ TV取材を案内しながら考えたこと

 ■観光行政が変わる兆し 国が観光政策に新機軸

 沖縄観光の来年のテーマは何だろうと考えているとき、大阪のよみうりテレビのディレクターから「国土交通省が来年から観光に力を入れる方針であり、日本の観光地がそれと連動してどのように変わっていくのかレポートしたい。まずは昨年のテロで落ち込んで回復しつつある沖縄を取材したい」という電話が十二月十一日に入った。その時「東京がそのように動くなら確かに地域の観光政策は大きく転換するべきだと思う。暮れに国の予算が決まる頃、動きが顕在化するかも知れない」と ぼんやり応えていた。

 私は持論の「二〇一一年観光客八百万人論」の取材過程で業界の諸先輩方の発言から考えるものがあった。一一年の八百万人は制限がなければ達成可能だが、それには空港が拡張されなければムリ。拡張は間に合わないことが分かっているから、観光産業を維持するにはどうしてもこれまでとは変わった取り組みが必要になる。

 暮れになってエコツーリズム国際大会での沖縄ツーリスト副社長の東良和さん、JTB会長の舩山龍二さんらの発言、自立経済に関するシンポジウムでの物産企業連合社長の宮城弘岩さん、琉球大学江上能義教授とのやりとり、おきなわ観光情報学研究会での北大・大内東教授、商工会連合会での観光に関する取り組みなど、私自身が取材したり、参加した会議の内容などから今後の大きなテーマとして観光の「産業化」というキーワードが浮かんでいた。

 九六年には私自身が「総合産業への変容が求められる五百万人時代の沖縄観光」という原稿をまとめて沖縄公庫調査部から公庫レポートとして発行されている。長くその内容を忘れていたが、滑走路が間に合わないと分かってから、その実現がいまこそ必要であると考えていたところだった。

 そこで十二月十七日の二度目の「動きはないか」というディレクター氏の電話に対し「観光の産業化が大きなテーマになると思う。明日、商工会連合会でその会議があって十人くらいが集まる」と電話で応えたところから、私の年末の予定は大幅に変更されることになってしまった。「その会議から撮りたい。今から沖縄に向かう」「では空港で迎える」と急遽テレビの取材が入ることになり、私が必要なところを案内するという約束をした。

■波及効果を高めるべき 消費を引き出す工夫

 観光の産業化というが、ではこれまでの観光は産業ではなかったかというとそうではない。波及効果をもっと高めることが産業化であると思う。日本国内では経済波及効果は直接投資の二倍以上になる。百億円の投資や消費は少なくとも二倍の二百億円の取引になる。ところが沖縄の場合、域内の波及効果は二倍まで届かず、県の調査では観光の経済波及効果は一・六倍前後と低い。低く留まる大きな理由は県外への支払いがロスとなって現れるからで、なるべく県内でモノを調達すれば流出 が減り、波及効果は高まる。とはいえ、家電製品、車など大型の消費財のほとんどが県内で生産されているわけでなく、県外への支払いの発生は致し方ないと考えられている。

 しかし、波及効果を高めようと実践しているのが県内製造業の方々で、県産品愛用運動はまさに県外への投資や消費の流出を最小限にとどめようとする運動である。また、建設業界が公共事業の県内企業優先発注をうったえるのも投資の流出を最小限にしようという考えに他ならない。もちろん、地元に金を落とせという意味もある。しかし、もし県外大手が公共事業を多く受注し、資材などを県外から持ち込むなら、沖縄での波及効果は少なくなり、投資は県外に大きく流出する。残るのは 下請け企業の人足代だけということになる。また、前号から始めた沖縄デジタルアーカイブに関するおかしな金の流れも損失が大きすぎるという点で同じ問題である。これではいつまで経っても県内にストックが生まれず(金はたまらず)、常に県外からの公共投資が必要という状態になる。これは良い状態ではない。

 観光に関しても同様のことがいえる。もし、お土産品や食事の食材の多くが県外産ならそれらを購入するための金が県外に流出するということになる。しかし、世界のブランド品が豊富に安く手に入ることなどは観光地の魅力を高め、集客する有力な手段であり、一概に県産品以外は良くないとは言えない。しかし、工夫はできる。

 今年度から始まった沖縄振興計画は観光産業をリーディング産業として第一に掲げ、それを受けて県がつくった観光振興計画には「産業間の連携の強化」という施策がある。その具体例に観光土産品対策と県産食材の安定供給、観光関連サービス業の育成と連携の強化の二つを挙げている。しかし、これだけでは足りない。この部分を強化することによって本来の目的である波及効果が高まるはずである。記述は少ないが一定の方向性はすでに出ている。

 その具体化の手始めが商工会連合会の取り組みであり、ここでは絶妙なタイミングで〇二年度事業として「商工会における観光産業の振興」という調査研究を進めている。この研究会のワーキンググループの委員長はエコツーリズムを実践して海や山に入っている平井和也さん、私は副委員長をつとめている。

 会合では観光協会と商工会の役割分担について議論され、観光協会は基本的に地域のPRやセールスに特化しているのに対し、商工会は起業家支援策、経営診断などを通じて地域の企業そのものの態勢を整える役割があり、地場産業をリードする機能があることが再確認された。観光客へ提供できる産品の提案や実際に商品の供給体制を整える役割も担うであろう。観光を通じた地場産業づくりに商工会のリーダーシップが有効であるという方針が出てきている。

 その議論の場所にTVカメラが入って沖縄の地域商工会の新たな取り組みを取材したわけである。

■観光の産業政策とは 北大工学部が取り組み

 面白い動きも連動している。〇二年八月一日、北大工学部情報系の大内東教授らが来沖し、「おきなわ観光情報学研究会」の設立に強い影響を与えた。すでに「さっぽろ観光情報学研究会」がスタートしており、観光を科学するという大目標を掲げていた。情報工学の分野から新しい観光学をつくろうという試みである。情報工学の専門的な観点からこれまでの観光に関するデータを洗い直し、観光でものづくりを進め、観光を産業ととらえ直すという。また北海道観光が旅行会社への依存が強 すぎるという旅行会社OBの提言を研究のなかに活かしていく方針が伝えられた。具体的な取り組みも始まっており、北海道では共通カードの開発予算が継続になった。

 沖縄での第二回会合が十二月十七日、琉球大学で開催され、大内教授が北海道の取り組みを、沖縄は情報工学の遠藤聡志助教授が座長になって沖縄での取り組みを説明。七人が最近の研究を講演。北大チームは大内先生の概略説明ののち、山本雅人さん、川村秀憲さん、長尾光悦さんがそれぞれGPSを使ったパーソントリップデータ取得とその応用例とインターネット上の北海道観光に関するオーソリティースコアとハブスコアの分析結果を発表した。沖縄側は遠藤さんがパーソントリップ データの収集実験計画を説明、堤純一郎さんは観光地と温熱感覚に関して講演した。その中で私も「プラズマとじ込めと沖縄観光のアナロジー」という短いレポートを発表した。工学部の学生だった頃、生体情報科学やプラズマをテーマに研究していたことがあり、特にプラズマとじ込めと観光の構造に似ている点があるのに気づいていて、それを初めて人に伝えた。

 基本的には沖縄経済がザル経済といわれていること、十数年前に宮城弘岩さんが「入口論出口論」で沖縄経済の構造を指摘した点がヒントになっている。同じことをプラズマとじ込めという別のもので説明し、論点を整理したわけだが(別項参照)、観光そのものをあまり知らない工学部の人達にとって、このようなモデルがあった方が観光のイメージがつくりやすいだろうと思ったのである。もっとも、工学部の研究者が必ずプラズマが分かるかというとそうでもない。工学部の人達にとっても、よく分からないモデルを使って、全く専門外である観光と似ているという理論を展開していること、観光や経済は分かるのにプラズマは分からないという人が大多数であるところが、私のレポートの難点である。発表しながらそれに気づいたのだが、もう遅い。大内さんは「これは世界中で渡久地さんしか分かりませんね。アハハ」。それでも遠藤さんは「ぜひインターネットでも公開して下さい」というので、その通り(PDF)にしてある。

 難しくなったが、ここでの結論は持続的に発展する観光を実現するには投入したエネルギーを上回る出力が常時得られる状態を作り上げることであるという点であり、そのためには波及効果の一層の拡大が必要であることが予想される。これを観光の産業化ということにする。産業化という視点を得ると、例えば前号と前々号で紹介した産業まつりでのベンチャースタジオや産業振興公社が行っている起業家支援策などが観光業界でも広範囲に取り入れることができる。そのようなことができそうだと産業振興公社の島田勝也さんたちと話し合っていた。なお、北大の先生方を沖縄に引っ張り込んだのは島田氏である。また、複数の観光業界の友人たちに産業振興公社にはいろいろなメニューがあり、観光分野に特化して個々の企業への支援策を強力に展開してもらうと効果がある、と話し合っていた。

 たまたまTVディレクター氏を迎えた夜に琉球大学での会合があり、それも面白いというので那覇市内でまだ飲んでいる先生方に島田勝也氏を通じて連絡をとって会うことができ、翌日の取材の打ち合わせをした。翌日、商工会連合会の会議のあと大内教授のインタビューが撮れた。また、国土交通大臣表彰にノミネートされている恩納村商工会の平田克裕さんが「体験学習で農道にバスを乗り付けるケースが問題になってすぐに乗り入れをやめた。地域住民の生活環境が損なわれてはならない」というインタビューを収録し、その日、午後二時から始まるというサトウキビ収穫の体験学習の様子の取材に向かった。

■地域主導の観光とは OTSはすでに取り組み

 ディレクター氏は単身で沖縄に乗り込んできた。カメラクルーは沖縄のフリーのチームを調達していた。大型のバンに機材一式を積み、二人一組でさまざまな取材を経験しているという。私も取材先で顔を合わせたことがあるような気がする。プロ根性のあるいい連中だった。このような職種がかなり前から沖縄でも成り立っている。

 サトウキビ体験学習を取材した夜、再びディレクター氏が本社を訪れ、今度は渡久地明自身が何を考えているかインタビューするというので、観光の産業化とはどのようなことか話した。翌日は平井さんに案内してもらって読谷村の海、午後には沖縄ツーリストの東良和さんがエコツーリズム国際大会で発言した「地域主導の観光」についてインタビューすることになった。

 ところが翌朝は雨。海は撮れない。早速電話で「渡久地さん、そちらにボクの財布が落ちてませんでしたか」「見当たらないよ」「じゃ、今から行きます」と不思議な会話をして、本社で打ち合わせ、那覇市内の様子を撮影することになった。財布は昨日の飲み屋に落としたに違いないということになったが、店はまだ開いていない。

 テロ後の沖縄の典型的な映像としてオーシャンビューホテルとその隣に建設中のビジネスホテルが並んだ様子を撮影(写真)。

 「閉鎖ホテルはテロ後、旅行商品の価格が下がり、コスト割れの状態になり、所有者との間で家賃の値下げ交渉を続けたが決裂して閉鎖を決めた。一方のビジネスホテルは観光客五百万人が目前になり、コストの安いデフレになってからの建設である点がこれまでの観光ホテルより有利。旅行会社に大きく頼らない集客で客単価の下落の影響を受けにくい経営になる」と私が解説した。

 ここでディレクター氏は「客室の価格を旅行会社がコントロールし、ホテルが自分で決められない点がこの番組の肝じゃないですか」ということに気づいた。その通りであるが、さまざまなケースがあって必ずしもそうだと断言できないところがある。多くの沖縄のビジネスホテルや民宿は旅行社に全面的に依存してるというわけではない。

 「自分で販売価格を決めたいのなら、別の集客方法に転換すればよいのであって、それが資本主義だろう」と話し合った。「では、二つのホテルの前での渡久地さんの解説は間違いではないですか」「特殊なケースかも知れないが、間違いではない。もしホテル経営者が沖縄の人なら、多少の赤字が出ても来年、再来年には挽回できると踏んで経営は続けただろう。現に苦しいといいながら、地元が経営する観光ホテルの閉鎖はない」。その後、他の意見も取り入れた上でこんな結論になった。その結果この場面を放送に使うかどうかはディレクター氏に任せた。

 沖縄ツーリストの東さん(写真)は地域主導の新しい観光を以前から提言している。具体的には旅行商品の企画の段階から地域の意見を採り入れると、自分が呼んだお客が来たというモチベーションになり、ホスピタリティーも自然に高まる、という。その試みを自社商品ですでに展開している。このような意見を提唱して実際に商品展開できるのは沖縄の旅行社くらいしかない、という映像が撮れたと思う。

 さて、私はディレクター氏とのつきあいは切り上げて早く自分の新聞をつくらなければならない状態に追い込まれているのであるが、「国際通りのお土産品店で店の人の声をとって下さい」という。

 観光の産業政策という点で論文を書こうと思っていたのに、これでは締切に間に合わない。「ではこの取材の様子を自分の新聞に使うぞ」といって、TV取材に専念することにした。守礼堂、わしたショップなどで最近の様子を聞いたら「テロ直後五割も六割も売上は落ち込んだが、翌年四月頃から回復に向かい、今は前年並みを取り戻しつつある」という声である。

 追い打ちをかけて「タクシーの運転手と観光客にも話しを聞きましょう」というので国際通りから空港に向かい、待機中のタクシー運転手二人に聞くと「景気は悪かったが最近もとに戻りつつある」との返事である。

 空港ビルのウェルカムラウンジで二組一緒の家族連れグループ、シュノーケリングを楽しんだというイタリアからの男性、新婚旅行でブセナに泊まったというカップルに話しを聞いた。三者とも満足したという応えであった。

 前から知り合いのお土産品店に行くと女性支店長は遠慮して隣の店の若いお姉さんのところへ連れていって「この子にインタビューしなさい」という。試供品を食べながら聞いたら、やはり「元に戻りつつある」という応えだ。「元に戻って一昨年以上になっていないか」と確認したが、「そこまで行かない」という返事である。

■沖縄はまだ加速必要 1000万人が巡航速度

 このことは最近の不況の影響が大きいと思われる。旅行の商品価格が下がり、沖縄での消費金額も減少しているからである。このことは沖縄県の調査でも明らかになっているが、私の説明不足かディレクター氏は「商品価格が下がったから、消費金額も下がるというのは直接つながらないと思う」と私の解説を受け入れなかった。私は「経験上それは分かっている」と述べたが、うまく伝わらなかったようだ。もう辺りは暗くなっていた。取材に伺いたいとあらかじめ連絡してあったJTAと首里城は行けなくなった。

 最後に「沖縄観光はまだ加速が必要な段階で、千万人を越えた頃から飛行機でいえば巡航スピードの水平飛行に移る。その状態が持続的発展といえる。最終的な目標は経済的な自立であり、そのためには物産と観光の二つのエンジンが沖縄全体を引っ張っていかなければならない。それを実現させるためにあらゆる手を打つべきだ」とコメントして、私の役目は終わった。

 ディレクター氏は以前に番組をつくったことがある喜納昌吉さんの主張も番組に取り入れたいと、夜の国際通りに消えた。翌日は東村のエコツアーを撮り、大阪へ帰るという。来年にかけて北海道や京都なども取材し、沖縄には年内にもう一度来て西表にも飛びたい、という。

 どんな放送になるのか見当も付かないが、放送日は一月二十五日(注・放送は1月25日から、1週ずれる)、番組はよみうりテレビ「ウェークアップ!」。朝、八時から一時間半の全国放送で沖縄だけカバーしないという。今回の取材部分は十五分でまとめ、それをもとにコメンテーターが批評する。ただし、アメリカのイラク攻撃次第では放送中止になる。しかし、冒頭私が予想した観光政策の転換に関する動きは十二月二十五日に県内業界が沖縄県副知事に会って観光予算の拡充に関して要請する、という動きで本当に顕在化した。この様子はフリーのカメラクルーがカバーすることになった。

 気になっていたディレクター氏の財布は昨日の飲み屋にちゃんとあった。(「観光とけいざい」第626号03年1月1日号)

 


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