連載コラム視点630
渡久地明(沖縄観光速報社)


構造改革か財政出動か

 小泉首相の構造改革は失敗している。このまま不良債権処理を進めていくと日本は本当に沈没してしまう。いまは小泉さんとは全く逆の政策が正しい方向である。

 私も含め国民の多くが小泉首相の登場を大いに期待した時期があった。痛みを伴う改革、苦労した人が報われる社会をつくるといって骨太の案を出してきたが「痛みを伴う○×」とはアメリカでよく口に出される言葉である。例えば、基地を閉鎖して、再開発を進めようとすると、そこで働いていた人達が職を失うから「痛みを伴う」開発になる。しかし地域社会全体としては基地がなくなって新たな町ができるのだから、基本的には歓迎される。

 痛みを伴うとはこのようなものであり、痛むのは改革によって職を失う官僚たちであり、国民全体としては豊かになると思われた。

 ところがどっこい。国民全体に痛みを押し付けたのが小泉改革であった。大手建設会社が破綻したら「構造改革が進んでいる証拠」とほざいたが、この前後から私は小泉さんは早く引っ込むべきであると思うようになっていた。

 赤字が膨らむから予算を縮小したのでは、その予算で雇われていた人は職を失うばかりである。新たに介護などで職が生まれるから失業はカバーできるということであったが、現実にはそうはなっていない。IT関連で人材が必要になるということであったが、IT化が進めば人手は要らなくなり、かえって失業者は増えるのである。少なくともいまの日本のIT化は無駄を省くという点にフォーカスしていて、この方向性は間違っている。

 例えば、古い団地を壊して新しい団地をつくろうとしたら、最初に新しい団地をつくっておいて、古い団地から引っ越すのが順序だろう。最初に古いものを壊したのでは、人々は住処を失い、新しいものができるまで困ってしまう。

 これと同じで現実には景気が順調で働く場所がいくらでもあるというときに限って構造改革は実現するのである。そして日本は昔から構造改革をやってきている。私が生まれた一九五七年には日本の労働人口の三七%は農業に従事していた。いまでは五%以下である。この間、一時的な不況はあったにしても一貫して好況が続き、仕事がたくさんあったから、構造改革が進んだのである。

 いまは逆である。デフレだ、不況だ、倒産だ、というときに構造改革はできない。五十人で出来る仕事を百人でやろうとすれば、あまり工夫はいらないが、百人でやっている仕事を五十人でやろうとしたときには個人の得意、不得意を考えたり、IT化や他の効率化を進めなければならず、本当に構造改革が必要になる。つまり、好況になって人手不足になったときに初めて構造改革が実現するのである。

 沖縄観光は最初に財政拡大ありき、という実例を身をもって体験している。改革すべき点はあったにせよ、米同時多発テロ後、とにかく落ち込んだ客足を回復させることが先決であるとして、出血しながらもV字形の回復を選んだ。この結果、最悪の事態を回避したのである。これとは逆に「改革が進めば送客を回復させよう」という手法を採っていたら、今ごろ観光業界は壊滅していたであろう。

 いまやるべきは財政の拡大であり、景気回復が最優先である。無駄はその後、適当になくせばよい。(明) (「観光とけいざい」第630号03年3月1日号)

 


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