連載コラム視点648
渡久地明(沖縄観光速報社)


不況脱出のための経済政策とは

 小泉政権に強い影響力を与えたアメリカの論文がある。三年前の総裁選のとき、小泉候補はアーミテージ・レポート(〇〇年十月)に出てくるフレーズを何度も使っていた。「痛みを伴う改革」「無駄な橋やトンエルをつくるのはやよう」というフレーズはその中に出てくるものである。

 総裁就任後、打ち出した政策もその通りのものとなった。特に軍事面ではミサイル防衛の開発に参加したり、イラクへの自衛隊派遣を決め、集団的自衛権行使にもまっしぐらである。

 レポートは日米同盟に関する指針としてアーミテージが中心になってまとめたものである。安全保障、経済、外交、沖縄など七つの項目を論じ、次期米政権にくさびを打ち込むものであった。すでにテロとの戦いが織り込まれており、沖縄についてはSACO合意以上の基地負担削減を提言しているので、注目に値すると思っていた。ごたごたの末、ブッシュ政権が誕生、アーミテージは国務副長官になった。

 小泉首相は経済政策も忠実にレポートの内容をなぞる。日本が成長しなければ同盟にも活気がなくなるとして「自立的な経済成長を回復できるかどうかは、ひとえに市場の開放と、私企業がグローバリゼーションの勢いに乗るのが解決策と悟ることにかかっている」とけしかけられ、米国の利益を受け入れた。「経済回復への邪魔者がまだある。特に銀行に関しては、未だに適切な取り組みがなされていない」というのは竹中平蔵のセリフではなくアーミテージ・レポートの中に出てくるのである。

 経済学者たちはレポートの経済部分はかなり変だと結論づけている。しかし、首相が金科玉条のようにこれを実現しようとするものだから、日本は世界が七十年ぶりに経験するデフレ不況へと落ち込んでしまった。

 日本は流動性の罠にはまっている、と論じたのはアメリカの経済学者クルーグマンだった(一九七七年)。論文ではデフレからの脱却には、国民にインフレ期待を持たせることであると明快に解決策も述べていた。この論文は黒船上陸とまでいわれ強い影響を日本の経済学者に与えた。もちろん日本の経済学者の中にも同じ論調はあったが、そのような現象は七十年前に地球上から一掃されており、現代に蘇るとはだれも信じていなかったから正統派の経済学者が見向きもされなかったのである。最近でこそ『経済学者たちの闘い』(若田部 昌澄著、東洋経済新報社)などが経済人五十人が選んだ『二〇〇三年ベスト経済書100』のトップに躍り出るなど売れているが、その間、トンデモ経済を論じる人達がマスコミでは重宝されてしまった。しかし、いま世界中のまともな経済学者は日本のはまった罠について精密に分析して、二〜三%程度のインフレを実現すべきだと正しい処方箋を示している。この政策はカネを持っている層にとって、毛嫌いされる政策でもある。しかし、困っているのはカネを持っていない大多数の国民なのである。

 大手建設会社が潰れたとき「構造改革が進んでいるということだ」といっている小泉首相をTVで見て、筆者は心底こいつは馬鹿なんだ思った。どんな政治家(政治家以外でも)も国民に痛みを押し付けてはならない。世界中の経済学者は国民を豊かにするための経済学をすでにうち立ててある。ごく当たり前の経済政策がいま求められている。(明)(「観光とけいざい」第648号04年1月1日号)

 


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