連載コラム視点718
渡久地明(沖縄観光速報社)


観光産業の生産性を上げるには

 安倍政権では生産性を上げて景気を回復させるという。ところが、生産性を上げたらホントに景気は回復するのかという疑問がある。国会でもその話が出てきて論戦があった(民主党の大塚耕平さんが取り上げた)。基本的に需要不足のデフレ不況の時に生産性を上げても、モノは売れず、景気は回復しない。やっと国会でもまともな議論が出てきた。

 沖縄の観光産業に置き換えて考えてみよう。

 生産性を上げるには、たとえばホテルなら百人の従業員で年間百万人を受け入れているとして、二倍の生産性を実現するには従業員が二倍働いて、二百万人を受け入れればよいということになる。この場合は、観光客が増えれば生産性が高まるということになる。

 一方、百人で百万人を受け入れていたホテルが、従業員を五十人に減らして同じ百万人を受け入れたとしても、生産性は二倍になる。観光客が減っている場合はこのようなリストラが行われるだろう。しかし、生産性を上げたおかげで従業員の半分が仕事を失うことになる。ホテルにとっては収入は同じだが、支出が半減するので利益が出るかもしれない。

 つまり、生産性を上げるといった場合、観光客が増えているなら売上も増え、生産性も高まる。逆に観光客が減少する局面で生産性を上げると、失業が増え、世の中は不景気になる。いまの国会ではこのような議論が行われている。

 生産性を上げるには、リストラなのか、総需要の拡大なのかで話の内容はまったく異なってくる。それが当たり前の結論だと思うが、不況下の日本で、生産性を上げると、個別企業の利益は増えるだろうが、世の中には失業が増え、ますます不況になるということだ。

 では生産性を上げないでいいかというと、そういうわけでもない。どんな従業員でも経験を積んで毎年能力が高まっていくから、それに見合う賃金が必要だと思われる。

 そこで生産性を上げるために本当に必要なのは観光客をもっとどんどん増す、景気を良くすることだと分かる。

 沖縄観光の場合、低迷の時期はあったが、常に観光客を増やしてきた。この結果、企業はどんどん大きくなった。ところが、それを大きく上回る労働力があるため、若い人の賃金はなかなか上がらないと言う現状がある。

 観光客数は毎年拡大しているが、一方で客室数もまた毎年拡大しており、雇用機会も増えている。それでも失業率が顕著に改善しないと言うことは、まだまだ全然観光産業の規模が小さいということだ。

 観光の質と量の問題がときどき話題になるが、それぞれ次元が別の話で、同時に追求でき、あちらを立てればこちらが立たないという関係にはない。だから量の追求より質を高めるべきという理屈は観光産業全体には今のところ適用できない。(明)(2007年3月1日号掲載)


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