連載コラム視点722
渡久地明(沖縄観光速報社)


低温核融合、実用化まであと一歩

 八九年三月、マーチン・フライシュマンとスタンレー・ポンスが簡単な実験装置で常温核融合が起きたと発表した。もし本当にビーカーに重水を入れて電気を通すだけで核融合が起こるなら、家庭で水から電力を取り出せることになり、石油は要らなくなる。これは面白いと思った。

 核融合の分野では真空容器にプラズマをつくってこれを磁気容器に閉じ込め、密度を高め、数億度の超高温にすると核融合が起こり、エネルギーが取り出せるというのが、常識だった。その場合、高温・高密度のプラズマを長時間保持しなければならないわけだが、これが非常に難しい。

 しかし、重水をビーカーに入れて電気を流すだけで、常温で核融合が起こったというのだから、ニュースを読んで本当にビックリした。

 しかし、同じ頃、マイナス二百七十度くらいでしか起こらないとされていた超伝導が液体窒素温度程度で実現していた。特殊なセラミックスで、高温の超伝導が起こっていた。高温超伝導は新発見はもうないだろうと思われた二十世紀最大の発見に見えた。

 そこに低温核融合のニュースだ。世の中にはまだまだ分からないことがたくさんあるものだと思った。

 ところが、その後、世界中で低温核融合の追試が行われると、ほとんどが再現できず、最初の発表はインチキだった、ということにされてしまった。理論的にあり得ないとされた。そればかりか、常温核融合を話題にしただけで、何を勉強してきたのだ、と疑われる雰囲気だった。

 十年くらい前に、確か「文芸春秋」に高温超伝導はインチキだったという長文の記事が出て、そのまま、なるほどインチキだったのか、わたしも修行が全然足りなかったなあ、とひどく落ち込んだことを覚えている。

 ところが、だ。その後、常温核融合の研究者らは文字通りの迫害を受けながらも研究を継続しており、熱核反応とは異なる新しい現象が起こっていたことを突き止めていた。常識ではあり得ない低温での核変換という現象が続々と実験で確かめられ、再現性もほぼ一〇〇%になっている。

 われわれは中学や高校の物理・化学の教科書で、元素は化学反応で別の元素にはならない(鉄が化学作用で金にはならない)ということを知っている。しかし、核分裂や核融合が起こればウランがナマリになったり、水素がヘリウムになる。だが、それには莫大なエネルギーが必要だったはずだ。

 いったい何が起こっているのか。研究者らはさまざまな理論を提唱しているが、高度になりすぎて、もはやわたしには理解できない。しかし、冒頭に述べたようにこの技術が確立されると、ホントに石油など要らなくなる。車や飛行機は水素で動き、われわれの生活は一変する。月や火星にも気軽に出かけるようになるだろう。あと一歩、この十年に目が離せない。(明)(2007年5月合併号(15日)掲載)


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