連載 Tourism Informatics (TI) の試み
(番外1)
おきなわ観光情報研究会


ITが旅行市場に与えたインパクト

渡久地明(おきなわ観光情報学会・主査)

 ITの普及で観光産業はどのように変化したのかだろうか。観光の流通面で大きな変化が起こったのは事実であるが、旅行需要そのものは増えておらず、本質はまだ何も変わっていないと筆者は見ている。しかし、ITが市場に本質的な変化を与える方法はあり、市場を成長させることもできると考えている。それについて述べる。

 観光の現場で使われているITの代表的なものは航空会社やホテルががHPで予約を受けるようにしたことだ。すると、インターネットの普及に伴い消費者がどんどんITで予約を取るようになったので一挙に観光産業にITが普及した。

 消費者は旅行社や航空会社の店舗に出向く必要がなくなり、手間が省けた。航空会社やホテルなどは直販による手数料の削減や軽減に成功した。

 しかし、この変化は単に手間を省く、経費を節約したというだけで、旅行に出かけるという行為そのものには何も変化を与えなかった可能性が高い。

 というのもITの普及によって日本の旅行需要が増えたり、減ったりしたかというと、その形跡がないのである。インターネット元年といわれた1995年の前から昨年までの旅行需要の変化を見ると、旅行需要は戦争などの影響はあったが、ITの普及で市場が活発化した証拠はないと見るべきだろう(グラフ参照)。

 1991年以降13年間で、日本の旅行の総需要はわずか5%しか伸びなかった。では、沖縄はどうか。沖縄への観光客数は同じ期間に301万人から508万人へと1.7倍に拡大した。

 ITは日本の旅行市場の拡大にあまり影響を与えなかったと述べた。沖縄ではどうなっているだろうか。結論から言えば沖縄を訪れる観光客数にも影響は何もなかったといえる。

 沖縄への観光客数の増減を見ると、1976年以来およそ30年間、ずーっと毎年平均4.8%の伸び率を継続していて、横に時間、縦軸に観光客数をプロットしたセミログのグラフはキレイな直線になる。95年のインターネット元年を挟んで伸び率に変化はない。ITの普及と観光客数の拡大の間に因果関係はなさそうである。しかし、観光客の増加に加えてIT予約は業種によってはそれを上回る伸びが体感されるところがあるため、ITが旅客を増やしていると感じられる事業所もあるだろう。

 実際には沖縄観光は非常に単純に言えば受入施設である客室の増加とともに伸びてきた。供給が増えることによって航空、旅行会社がキャンペーンを行って需要を掘り起こし、実際に需要が拡大、それを見て供給がまた増えるという相互作用で伸びたのである。

 つまり、日本全体の動向や沖縄の実績からも、旅行そのものの拡大・縮小とITの影響はほとんど関係がなかったと考えられる。これが筆者が変わらなかったというものの正体である。

 一方、航空、旅行社、ホテルなどの個別企業はIT経由の取引が激増しているが、これは消費者と供給の側の双方にとって互いに手間を省くという流通面での大きな変化の実態である。

 この変化をよく見ると、本来ホスピタリティー産業である観光産業からは遠ざかるものである。ケータイで道順を調べる旅行の方が煩わしさがなく便利だとなる方向であり、情報のやり取りの無人化の方向である。実際、沖縄に来た人が道に迷って、地元の人ではなく機械に問合わせるという場面を想像すると滑稽である。

 しかし、実際の旅行は地元の人にものを尋ねて親切にしてもらった、思わぬハプニングに発展したという経験を楽しむというのが自然である。トラブルとトラベルの語源は同じだといわれるくらいだ。沖縄に人気があるのは面白い個性がたくさんあるからである。

 沖縄ではいま、県内のあらゆる施設をカバーするデータベースサイトをつくって「旅客を増やす」というプロジェクトがスタートしている。それによって旅客がこれまでのトレンド以上に伸びたという実証的な結果がでたら、これまでの成長のメカニズムを変更する画期的な成果になろう。しかし、単に情報を集めただけのサイトで現実社会に本当に影響を与えることができるだろうか、筆者は大いに疑問を持っている(市場の拡大とは別にサービスとして情報量を増やすといった意味はある)。

 むしろITを使えば旅行先でも東京と同じように仕事が出来る、学校なら出席扱いになる、といった環境や仕組みをつくり出すことの方が現実社会に大きな影響を与える。休暇が家族でなかなか一致しなくて、夏休みや連休など価格が上がる時期にしか、みんなで旅行ができないという問題が解決される。それによって国民の旅行機会が拡大し、市場に直接変化を与えたことになる。

 ITが持つ力は大きいが、まだまだ充分に活用されていない。このアイデアはITをもっと活用することのほんの一例に過ぎない。ITの力をフルに引き出すことが、観光産業の成長に現実にインパクトを与えることになる。

(本稿は「観光情報学会Mail NEWS」04年2月14日、3月9日(http://www.sti-jpn.org)に掲載されたものに加筆しました)(「観光とけいざい」第651号04年2月15日号、第653号04年3月15日号)


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