連載 Tourism Informatics (TI) の試み(20)
おきなわ観光情報学研究会


建造物は観光破壊か観光資源か?

堤 純一郎(琉球大学工学部環境建設工学科教授)

 歴史的な町並みや手付かずの自然の中に建造物を建設すれば、観光資源としての景観が破壊される可能性がある。逆に建造物自体が観光資源になる場合も多々見られる。観光施設としての機能も含めて建造物と観光の関係について考えてみる。

 建造物と景観の歴史的事例としてエッフェル塔が挙げられる。1889年のパリ万博の目玉パビリオンであったが、無骨な鉄細工がパリには似合わないと、計画当初から強い反対があった。ところが万博では空前の人気を博し、1年間の入場料で建設費用を償却したと言われる。エッフェル塔は万博の集客を目的としていたが、当時の最新技術を駆使した美しい建造物である点に注目したい。おそらく建造物そのものの美しさと存在感が周囲を圧倒し、景観として人々を納得させてしまったのである。一世紀以上経過した現在では歴史的建造物としてパリの重要観光資源になっている。

 その後、各地に建てられた多くの塔も観光を意識しているが、電波発信や内部の観光施設としての機能はともかく、都市の景観として人気を保つことができるか疑問に思われるものも少なくない。逆に、観光を意識せずに作られた長大橋などの景観が人気を集め、観光資源となる場合もある。町並みを観光地として売り出しているところも多いが、「○○村」のような異郷を模したテーマパークは苦戦が目立ち、歴史に根付いた建物などの保存や再現に魅力を感じる人が多いようである。これらの事例は単なる客寄せではない、本物の持つ迫力が為せる技である。

 自然景観が中心の観光地では、美しい稜線の山並に設置された送電線の鉄塔のような、明確に景観を破壊する建造物も見られる。一方、自然公園等のビジターセンターや岬の灯台などその場所に必然的な建造物は、景観破壊には見えないことが多い。グランドキャニオンのような自然景観以外に何もいらないような観光地においてさえ、観光客は一応、ビジターセンター等に到着することによって落ち着くことがある。これは自然環境の中でも、建造物が狭い意味での目的地になっているこいとを示唆する。ただし、建造物のデザインの持つ意味は非常に大きい。

 最近、日本では国立・国定公園における発電用風車の建設可否の問題が注目された。自然環境保全のための国立公園等は、海岸や山岳など風力発電の適地であることが多いが、通常のエネルギー供給が困難な所でもある。そのため公園の維持管理や環境教育、学術研究用の電力自給を主な目的として、現在、国立8公園、国定13公園に90基余、総出力約23MWの風力発電設備が設置されている。この数字には売電用も少し含まれるが、使用目的からすると概ね必然的な施設である。確かに発電用風車が珍しかった頃はシンボル性やクリーンエネルギーなど、肯定的な声が大きかったが、普及するに従い景観的な違和感や鳥類への影響等が懸念されるようになってきた。環境省は風力発電に関するガイドラインを設定しているが、最も重要な観点は発電用風車を含む景観に対する感覚である。100年後にはエッフェル塔のように違和感なく景観に溶け込んだ発電用風車を見られるのであろうか。

 建造物は景観に違和感を与え観光破壊につながる危険性も持つ反面、景観を創造し観光資源そのものになる可能性もある。それは建造物の技術レベルやデザインの評価でもある。建築や都市計画に関わる人間として深く自戒したいところである。(「観光とけいざい」第671号05年1月15日号)


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