連載 Tourism Informatics (TI) の試み(39)
おきなわ観光情報学研究会


観光は研究テーマの宝庫(上)

おきなわ観光情報学研究会・赤嶺有平(琉球大学工学部情報工学科・特別研究員PD)

■情報科学技術フォーラムで取り上げる

 9月5日、第5回情報科学技術フォーラムが福岡大学で開催された。その中で「ICTがもたらす観光産業の変貌」と題して行われたシンポジウムに参加する機会を頂いたのでその模様をレポートする。出井助教授(近畿大)の司会により、前半1時間ほど、大内教授(北大)による講演が行われ、その後2時間ほど麻生教授(奈良県大)、内田氏(ANA総研)、加藤氏(博多エクセルホテル東急)、関口氏(トップツアー)、山口氏(国土交通省九州運輸局)を交えてのパネルディスカッションが行われた。

 講演では、観光におけるITの位置付けについての解説があった。その中で、IT技術者はシーズ志向になりがちであるが、観光においては現場のニーズを調査しそれに対するソリューションを与えるべきであるとの指摘があった。続けて、大内教授が会長を務めている「観光情報学会」についての説明が行われた。同学会は、観光分野にITを適用した新しい学問領域の創出、観光ビジネスの創発、IT・観光分野における人材育成、地域の活性化などを目的として設立された。観光情報学においては、提供されてい る「地域」観光情報の収集と分析、必要とされている「地域」観光情報の調査と分析が必要となるため、地域毎に研究会を立ち上げ各地域の特性を生かした研究を行っている。

 さらに、観光情報学における研究事例として、「観光マルチエージェント・システム」の紹介がなされた。マルチエージェント・システムとは、分析対象とするシステム(社会現象など)をエージェントと呼ばれる要素の集合で表現し、エージェント同士の局所的な相互作用の定義により系全体の振る舞いを表現するモデルである。観光においては、観光資源、観光社会基盤(交通・情報・気象など)、人(サービス提供者・旅行者・行政)をエージェントとし、それぞれの関係を定義することでモデル化できる。

 続いて、現状のインターネットの宿泊施設予約サイトに代わる新しいビジネスモデルの提案が行われた。予約サイトの発達は個人旅行をより身近なものにしたが、一方で値段が主な情報となっているため、単なる価格の値下げ競争に陥っている点やコミッションチャージの値上げが問題になっている。観光情報学会として、ホテル分類(評価)手法、オフィシャルゲート、予約決済システムの研究・開発を行っているとの事である。

 講演の最後に、観光分野はIT技術者にとって研究テーマ・ビジネスチャンスの宝庫であり、多くのIT技術者が観光情報学に興味を持って欲しいとの呼びかけがあった。続いて、前述の5名を交えて「ICTが観光に及ぼした衝撃」と題してパネルディスカッションが行われた。

 9月5日に福岡大学で開催された第5回情報科学技術フォーラムでは、前述の5名を交えて「ICTが観光に及ぼした衝撃」と題してパネルディスカッションが行われた。

 博多エクセルホテル東急の加藤氏は、ホテル業界の視点としてサービスの向上について述べた。航空業界と同様、いかに顧客を囲い込むかが課題である。そのためには、利用頻度の高い顧客に対しては、より良いサービスを提供している。また、迅速にクレームに対応するよう心がけている。人との係わり合いの業務であるが故に、いかにサービスを向上させられるかが課題である。

 トップツアーの関口氏は、旅行会社業界の視点から予約システムについて述べた。従来の旅行会社の予約サイトは、窓口のやりとりを文字にしており、利用者とって予約しづらいシステムであった。パンフレットをそのまま載せているだけでは、利用者のニーズにこたえていない。アメリカでは主流となっている「ダイナミックパッケージ」を取り入れる事で、顧客をサポートすることを中心に考えるシステムが実現できる。ダイナミックパッケージとは、自由なパッケージ旅行(旅行業法上の募集型企画旅行)の 予約機能を提供するシステムで、欧米では割安な料金とワンストップの予約機能でオンライン旅行販売において幅広く利用されている。サイト上で、渡航先、日程等を入力すると様々なホテルと航空会社の組み合わせが表示され、その中から自由に選択し、24時間オンライン予約が可能というものである。

 ANA総研の内田氏は、エアライン業界におけるサービスの変化について述べた。航空会社間の価格競争がきっかけで新しいサービス(マイレージ制)が生まれた。しかし、トラベルマネージメントをしないと顧客獲得にならない。そこで、コストがかからないクローズドなマイレージサービスをオープンにした。ANAの場合、それがEdyである。ANAのマイルをEdyに換えることができる。しかし、ビットワレットに払うコストを考えるとどうか微妙なところである。また、これからはサービスの向上、マネー ジメント、顧客のニーズに対してどこまで対応するか、が課題である。特に、顧客のニーズに対するサービスとしては、マスマーケティングから1to1のサービスに変わってきている。例えば、飛行機に乗った回数に応じてサービスを変えており、顧客の好みまでもデータベース化し、異なるCAでも対応できるようにしている。ハード面(IT)では、既に多様な顧客ニーズに対応できるようになっている。しかしながら、CAのサービスの技量を向上させるためには、教育に時間がかかるうえ、時と場合によって同じ 顧客であってもニーズが異なる場合がある。したがって、ソフト面をどこまで向上させられるかが課題である。効率的かつ付加価値の高いサービスをいかに実現するか、それを考えているとのことである。

 国土交通省九州運輸局の山口氏は、行政の視点として九州独自の取組みである「旅の百科事典」を紹介した。団塊世代の退職に向けて、1週間以上の長期滞在型観光を提案しているとのことである。

 奈良県大の麻生教授は、研究者の視点から観光について述べた。観光は、マス・ツーリズム(大衆観光)から、個人が地域の個性ある生活や風景に価値を見出す行動へと多様化している。それだけでなく、環境保全、共生を考えたサスティナブル(持続可能型観光)へと移り変わっている。このような観光の変化において、各地域は観光をどのように取り入れるか、が課題となっている。つまり、地域の特性をどのように観光に生かせるか、が鍵となる。一方、観光地の状況把握のためのシステムとして、利用者 が観光地を事後評価するシステムが考えられる。各観光地のホスピタリティの高さをICTによってアピールすることで、リピータの増加を見込めるだけでなく、各地域のサービスの向上にも繋がる。ICTの活用事例として、尾道市の携帯電話による「どこでも博物館」がある。観光スポットの地域番号を入力すると、観光地の紹介を見る事ができる。

 パネル討論を通して、当然のことながら「サービスの向上」が観光業界における第一の課題であると感じた。しかしながら、サービスを提供するのは「人」であるが故に、教育等に時間がかかることと、利用者のニーズにどこまで対応できるのか、もしくはするべきなのか、が問題となるようである。また、ICTにおいては、インターネット・携帯電話を利用した情報提供に関しては、ある程度確立されているが、宿泊施設や観光地の評価をどう生かすか、また、評価する人の信頼性をどのように確立するかが課題となる。 (「観光とけいざい」第709号06年10月1日号)


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