科学的視点で観光を捉える
大学工学系の新しい取り組み
観光情報学会沖縄大会 33の研究発表、180人参加

(「観光とけいざい」第678号05年5月合併号。WEB公開05年6月24日)

沖縄観光速報社・渡久地 明

 観光を科学的視点から捉え直そうと北大や琉球大工学部の研究者ら全国八カ所の研究会で構成する観光情報学会の第二回全国大会が、五月十六日、リザンシーパークホテル谷茶ベイで開かれた。会員・一般百八十人(県外五十六人)が会場に詰めかけ、「観光と地域経済」「風評被害」「電子マネー」をテーマに三つのパネルディスカッション、「経済産業省の観光産業への取り組み」「複雑系で観光産業を研究する指針」の二つの特別講演、三十三本の研究発表と展示があり、大会は大成功。晴天に恵まれビーチサイドでの懇親会も喜ばれた。

 大会は観光情報学会主催、オリオンビール株式会社、株式会社HBA、NPO法人沖縄観光連盟が特別協賛、内閣府沖縄総合事務局、総務省沖縄総合通信事務所、沖縄県、沖縄観光コンベンションビューロー、沖縄振興開発金融公庫、沖縄県産業振興公社が後援した。

沖縄ベンチャースタジオの映像(05年7月7日)

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パネル1 観光と地域経済
パネル2 風評被害と対策
パネル3 電子マネー
特別講演<1>観光は複雑系の学問<2>経産省、観光産業に本腰
学会誌『観光と情報』を創刊
予算と担当理事
観光情報学会全国大会・沖縄大会写真特集


パネル1 観光と地域経済

2013年800万人予想

 パネルセッション1「観光と地域経済―データで見る観光」(写真)では、沖縄公庫融資第一部の譜久山當則部長、沖縄観光速報社の渡久地明編集長、琉球大学の大城肇教授が登壇。琉球大学の遠藤聡志教授が「沖縄観光の定量的な分析を行うと、きれいなトレンドがあることが分かり、このことが工学部で観光に取り組むきっかけになっている。定性的な分析と成長の法則に関する定量的な分析、マクロ経済モデルでの短期の見通しが成長法則と好く一致することを立体的に解明したい」とパネルの目的を説明。

 譜久山氏は、八重山地域の域内GDPに対する観光収入が三五%に及んでおり、離島にとって観光産業が地域の雇用を生みだし、決定的に重要な産業になっていることを数値で示した。

 その上で、沖縄観光が好調なのは運賃自由化による低価格化、ドラマ「ちゅらさん」による露出効果を指摘。沖縄の文化が注目され、文化に根ざした県民性や特産品なども注目される好循環を生んでいると述べた。

 渡久地氏は過去三十年間の観光客数のデータを、事実を踏まえ説明。ホテルの客室数の増減にしたがって観光客数も増減した、と分析した。過去の観光客数の推移がセミログのグラフ上できれいな右肩上がりの直線になり、世界の観光地でも同じことが起こっていることから二〇一三年に八百万人、二〇一八年に千万人に達する。この間、空港拡張が必要になる、と述べた。

 大城氏は、沖縄のGDPを予測する「琉大経済予測モデル」を使って、観光客数を割り出した。客室数の増加が観光客の引き込み要因になることが昨年渡久地氏によって示されたとし、外性変数に客室数を追加。これをもとに方程式を組み、〇五年度の観光客数を予測したところ五百四十九万人なるとした。また、有効な観光施策を作るためには、基礎データの正確な取得が求められ、そ れによって精密な予測が可能になると述べた。

 フロアから観光収入が減少したグラフを示して「観光客数の追求ではなく、観光消費の拡大が全国的課題であり、人数を議論すべきでない」との発言があった。これに対し渡久地氏は「観光収入は統計の取り方を変えてから落ち込んで表現されているもの。また、売上の拡大は個々の企業が追求すべき」と応じた。さらにフロアから「数を追求することがマーケティングの常道」との発言があり、遠藤氏も「おきなわ観研では量と質の問題は掘りさげて議論され、数の追求が重要であるという結論になっている」と述べた。


パネル2 風評被害と対策

学会のテーマとして取り組む

 パネルセッション2「風評被害―実際とその対策」(写真)では、二〇〇一年の米同時多発テロ後の対策を担当した県観光商工部の下地芳郎商工振興課班長、昨年の新潟中越地震で落ち込んだゆざわ観研の岸野裕主査、沖縄県旅行業協同組合の東良和理事長が報告。

 司会の大内東観光情報学会会長は「風評は情報工学が扱う大きなテーマであり、学会として継続的に取り組む」と述べた。

 テロ直後の観光対策について下地氏は、当初、米国の県人の被害を調査していたが、数日後からキャンセルが入り始め方向転換した。マスコミの過剰反応、文部科学省が基地のある地域への修学旅行の注意喚起があり、二十五万人のキャンセルが出た。観光収入も二百九億円減少するなど、先行きが見えない状況だったと述べた。その後は、特別誘客対策班を設置して国や関連業界との連携を深め、キャンペーンで急回復したと説明。教訓として@平時から観光危機管理システムを構築しておくことA風評の内容を分析し、より効果的な対策を実施B市場の多様化を図り、リスク分散に努めることなどを挙げた。

 東氏は、大きく落ち込んだ修学旅行は流通の振る舞いに構造的な問題があったと初めて言及。「沖縄への修学旅行は、どこも赤字で入札しており、落札してから出発までに現地と価格を調整して何とか採算ベースに載せるように苦労している時期。そこでテロが起こると、他の地域に振り向けるだけで一人当たり五千円を返した上で、利益がでる。このことが大量キャンセルの一因になった」と述べた。その一方でダイビング客はショップの呼びかけに応じて来県しており、密接な人間関係が情報の信頼性を高めたと分析、風評に影響されなかったとした。

 「ダイビング業者の一言で沖縄に来たリピーターがいた。密接な人間関係によって情報に信頼性があったからだ」と強調。「沖縄在住の県人会の人にPRしてもらうなど、(安全だという)情報の信頼性を上げないと、マスコミの影響力に負けてしまう」と述べた。

 新潟中越地震の被災地に隣接し、風評による被害を受けた越後湯沢の岸野氏は「観光客は直後に七〜九割減少し、年を越せずに倒産した施設もでた」と証言。「テレビで連日、悲惨な現場が映し出され、湯沢までは新幹線も通っているのに、新潟行きの新幹線が不通というイメージを与えた。正確な情報発信ができなかったことが風評被害につながった」と述べた。その後、町ぐるみで徹底的に被災地を支援し、そのことが湯沢に行こうというムーブメントにつながったと述べた。メディアやインターネットで徹底的に情報発信、JTBと東急観光は「やりましょう」と要請に応じてキャンペーンを積極的に張り、観光客数はV字形に回復、前年比三〇%増にまで転じたと紹介。振り返ると普段からこのような強力な誘客が必要で、実行可能であることに気が付いたと述べた。


パネル3 電子マネー

マーケティングへの活用有望

 パネルセッション3は「電子マネー〜観光シーンでの活用〜」(写真)。国内で最も普及している電子マネー「edy」をめぐりedyの決済会社で開発者のビットワレット宮沢和正システム本部長、最大のユーザーとなっている全日空の内田昌夫顧客マーケティング部長、県内でedyを使ったICカード関連の周辺ソフトを開発するレイメイコンピュータの比嘉徹社長が観光の利便性やマーケティング機能を高める方策について考えを述べた。県産業振興公社の島田勝也マネジャーが司会。同氏はパネリストの出演交渉からパネルの組立まで行った。

 宮沢氏は、edy普及の背景として@社会的A事業者B消費者に受け入れられるスピードが速いことを挙げ、偽造できないことや決済がスピーディーに簡素化できること、edyを使い始めると現金を利用したくなくなるほど便利であると述べた。

 また、支払い機能以外にedyの流通経路や利用頻度を追跡することでマーケティングに役立つことを強調。観光シーンでは観光地の利便性を高めルことができると述べた

 内田氏はedyがついたマイレージ会員の伸び率が二けた台のスピードで伸びている様子をグラフで説明。アメリカで生まれたマイレージ制度の歴史は他社との差別化を図ることだったが、次第に航空機以外でもポイントが貯まるように内容が大きく変質、edyの導入によって航空座席とのポイント交換が他のあらゆる商品との交換が可能になり利便性が飛躍的に高まっていると述べ た。

 比嘉氏はedy機能を持った携帯電話の登場で観光客に必要な情報を知らせたり、電子クーポンを送ることも可能になると紹介。edy付きの会員カードや社員証がすでに発行されており、漢那タラソでの使用例などを紹介した。携帯電話の搭載が普及するに連れ、特に若者に有効なツールになると予測した。


特別講演

<1>観光は複雑系の学問

 特別講演1では嘉数侑昇・北海道情報大副学長が「観光学〜複雑系工学からの視点〜」として講演した。

 旅行者(クライアント)に対して広義の観光産業者(サーバー)は顧客満足度を最大化するモデルを構築するために工学的接近法を探求すべきであろうと方向性を示した。その上で、旅行者の文化的、心理的、物理的特性、行為の動機付は多種多様であり、観光産業者から見て変動する環境の中で持続的、発展的に生き残れるかが主命題となる。この観光学は人工生命系に含まれるあるクラスの複雑系をなすと指摘。この解決にはエージェント群の導入やIBMが提唱するオンデマンドビジネスを実現するためのSOAのコンセプトが参考になると述べた。

<2>経産省、観光産業に本腰

 橋本正洋・経産省サービス産業課長は「サービス産業における新産業創造戦略」と題して特別講演2を担当。

 今年から経済産業省は観光産業に本格的に取り組んでいくと述べた。国土交通省が観光のハード面を担当し、連携して経済産業省はソフト面で貢献していくとの考え。「地域再生のためにサービス産業の革新が必要だ」とし、国が進める「集客交流サービスの事業化」について説明した。

 大学教授や旅行社の幹部がメンバーとなっている「集客交流サービス研究会」で観光を研究。観光産業のベストプラクティスの選抜や、事業化に向けて財政的な支援を行う「集客サービス産業創出支援事業」、経営の専門家を育てる「集客サービス産業人材育成事業」などがある。


学会誌『観光と情報』を創刊

 観光情報学会は学会誌『観光と情報』の創刊号を発行した(写真)。全国大会会場で会員に配布、一般にも販売された。

 A4判124ページ、大内東会長の学会設立にいきさつ、北海道と沖縄知事の寄稿、学術研究論文、産業化研究論文、各地の観光情報学研究会の活動報告などがある。目次を紹介する。

<巻頭言>観光情報学会誌発刊にあたって
  世界に通用する新しい学問と実践の場を創出
    b観光情報学会設立の経緯とその活動
観光情報学会会長・大内東(北海道大学大学院情報科学研究科教授)

<寄稿>観光情報学の研究通じレベルアップ
    b観光情報学会に期待すること
         高橋はるみ(北海道知事)

<寄稿>観光立国に向けた産官学の連携強化を希望
    b観光情報学会に期待すること
         稲嶺恵一(沖縄県知事)

<特別寄稿>Growth and Impact of Information Technology on Global Tourism
       Pauline Sheldon(ハワイ大学観光産業マネジメント学部教授)

<寄稿>強力にリカバリーを求めることが重要である
    b中越地震風評被害に対する沖縄の経験と対策
         渡久地明(沖縄観光速報社編集長)

<学術研究論文>
GPSログマイニングに基づく観光動態情報の獲得
         長尾光悦、川村秀憲、山本雅人、大内東

Web検索による北海道観光情報の分析
         三田村保、大町清隆、大堀隆文

ルートマップ自動生成に向けたデフォーメーション技術の検討
         鈴木恵二、小山健也

<産業化研究論文>
顧客主導型予約調整メカニズムによる新電子予約システムの開発
         佐藤博信、村上仁、川村秀憲、山本雅人、大内東

<学会便り>
第1会全国大会報告
   実行委員長・関口恭毅(北海道大学大学院経済学研究科教授)

観光情報学研究会報告(さっぽろ、スノーリゾート、ゆざわ、おきなわ、はこだて、ほくだいがくせい、ニセコ、かが・のと)

会告(学会設立趣意書、学会規約、入会について、学会公式サイト・Mail News について、平成15年度会計報告、平成16年度役員・企業団体会員リスト)

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論文投稿のお願い


予算と担当理事

 観光情報学会全国大会にあわせて理事会と総会が開かれ、次回全国大会を函館で開催すること、活動方針や予算(五百九十四万円)、理事の追加、役員体制を決めた。新たに国際関係担当理事、将来構想担当理事を選出、副会長に松原仁、渡久地明の両氏を選出した。新体制は次の通り。

会長(一名)大内東(北海道大学)▽副会長(一名以上)北山憲武((株)ツアーネット)、渡久地明(新)((有)沖縄観光速報社)、松原仁(新)(はこだて未来大学)▽全国大会担当理事・鈴木恵二(はこだて未来大学)、遠藤聡志(琉球大学)、大藪多可志(金沢星陵大学)、岸野裕(エイチ・アイ・シー(株))、剣持勝(イー・リゾート)、杉山幹夫(シビックメディア)、辺見吉克((株) 日立東日本ソリューションズ)▽編集担当理事・関口恭毅(北海道大学)、伊東充(新)(日本ユニシス(株))、大堀隆文(北海道工業大学)、呉敦((株)ノーステクノロジー)、山本雅人(北海道大学)▽メールニュース担当理事・斎藤一(北海道情報大学)、大嶋義清(北海道日本電気ソフトウエア(株))、脇山潤(ニセコレルヒホテル)▽広報担当理事・孫田茂樹((有)ソリューション テクノロジー)、木原くみこ((株)らむれす)、後藤田美幸((株)JALセールス北海道支社)、土屋敦司(北海道新聞社)、樋泉実(北海道テレビ放送(株))▽国際関係担当理事・伊藤直哉(新)(北海道大学)、高野伸栄(新)(北海道大学)▽将来構想担当理事・嘉数侑昇(北海道情報大学)、高柳浩(新)(株式会社情報科学センター)、平本一雄(東京工科大学)、森本伸夫(日立ビジ ネスソリューション(株))▽総務担当理事・川村秀憲(北海道大学)、岡部康彦(北陽ビジネスフォーム(株))、金村直俊(札幌総合情報センター(株))▽会計担当理事・長尾光悦(北海道大学)、馬場俊(株式会社HBA)▽監事(一名以上)・田中瑞宏(札幌総合情報センター(株))▽事務局長(一名)川村秀憲(北海道大学)


観光情報学会全国大会・沖縄大会写真特集

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