『ドミトリー沖縄』開設への道
入江信一


滑り出し好調、立地条件よい那覇

 「ドミトリー(DORMITORY)」という言葉をご存じだろうか。バックパックを背負った世界中の貧乏旅行者などには半ば常識なのだが、一般に格安旅行者向けのベッド利用による相部屋タイプの宿泊施設を指す。日本国内ではどういうわけか、ユースホステルのそれがほとんどすべてと言ってよく、世界標準のドミトリーは東京や京都などごくわずか。そんなわけで沖縄初の本格的なドミトリーを小規模ながらも怒涛のごとく自分でこのほど開設してみた。誕生までの簡単なストーリーを紹介したい。

 (注)経営は好調な滑り出しだが、何しろ7月31日の開設後間もないため、いわゆる企業秘密(大袈裟か…)的なことは基本的に伏せさせていただきます。

■日本には少ない本格的ドミ

 ドミトリーみたいな国際的なバックパッカー向けの楽しい安宿をいつかやってみたいな、とは昔から何となく思っていた。ただ“会社員時代”などは幸か不幸か、やってみたいな、で終わっていた。今回開設の直接のきっかけは今春、中東方面からの旅の帰り、ソウルのあるドミトリーへ立ち寄ったことかもしれない。

 そこは何と普通の自宅がドミトリーになっていた。単純だが、びっくりした。これなら空き店舗を使えばより一層快適になるだろうな、などと思った。しかもそこのスタッフのように、ほかの仕事ができてしまう時間的余裕も持てそうだ。さらに日本では世界標準のドミトリーはごくわずかである。ソウルから友人に会おうと沖縄へ飛んだが、もうそのときは沖縄か、あるいは外国人がメインとなる成田のどちらかでやろうと決めていたような気がする。

 「ドミトリーのつくり方」などという本はなかった。旅館業のあまり当てにならない実用書とかを読み、役所に相談、物件探しでそれから那覇の街を歩いたのもそんなに日は経っていなかった。かつて少し暮らしていた那覇シティ…だが、おーあったぞー。すぐに不動産業界もびっくり格安家賃で、旅行者に魅力的な壷屋エリアの店舗事務所(17坪)を借りられた。成田を見ないでの那覇即決だった。街自体の魅力からいってもやはり当然のことだ、と強引に結論付けた。

 もともと沖縄の宿については某雑誌で発表したこともあるが、自分の定宿を除き、中級以下の宿が大いに不満だった。中級ビジネスホテルの不足と、安宿の不衛生などだ。おまけにエネルギーが自動的に蓄積される飲食と異なり、宿泊(超高級リゾートなどを除く)はお金を払っても結局やる(寝る)のは自分の努力(?)、ドミトリーで十分、などといった独特の貧乏根性もあった。JTA深夜便で那覇入りした際はせんべい布団の汚い民宿へは泊まらず、農連市場などを徘徊、翌日、ほんの少し割高な定宿で“寝ため”するのが常だった。

■若者向けに内装重視

 よし那覇で頑張ろうb。最初はがらんとした店舗事務所の床に寝て、トイレで水浴びしながら開設準備を進めた。シャワー室をつくる簡単なリフォームはそう簡単ではなかった。沖縄ではあまり細かいことにこだわらないが、それは県外や外国人相手の場合、デザイン、機能面などでまさに経営の命取りになるなと思った。

 格安の見積もりとはいえ、おじぃ、おばぁ向けの宿になってしまっては大変だと、素朴な某リフォーム業者ヘデザインの重要性を偉そうに説いて、共に楽しく作業。ペンキ塗りなど自分でできそうなところは自分でやった。失敗もあったが、旅好きの自分にはこのリフォーム、建築の奥の深さを体感できた、まさに別の意味で、楽しいいわば「旅」だった気がする。

 2段ベッドは若者向けのまともで適価なものは県内になく通販で取り寄せるなど、広範囲にわたり、かなり一つひとつのアイテムについて価格、見栄えなどにこだわった。友人の協力でベッドの組み立てなどが終わり、少し早いかなと思いながらも消防の検査へ。今思えば、最大のヤマバが待ち受けていた。

 保険所への旅館業(簡易宿所)開設申請書類の一つに消防法令適合通知書がある。簡単に自分の物件はパスできると思った。借りる前に消防へ相談していたからだ。ところが相談した相手は“新人”だったようで、実際の検査段階ではベテランの署員にかなり細かな消防上の規定を教えられ驚いた。建物によってはこの段階で消防設備の多額な投資が必要となり事業を断念するケースもあるという。事前相談もベテランに徹底的に聞いておくのが役所関係では鉄則だと認識。また那覇で近年目立つウィークリーマンションは事実上、一種のビジネスホテルだが、やはり消防上、様々な問題を抱えながら営業している歪な現状も朧げながら見えた。

 ラッキーだった。もともとあった誘導灯への新しいバッテリー取り付けなど、のんきな消防設備業者のせいか、所要日数はかかったものの、結果的に二段階の消防検査をクリア。輸送業みたいに、宿泊業も安全がすべてなんだな、と自戒した。ただこの段階から街中の誘導灯や消化器などが妙に視界に入り、親近感を抱くようになったと言っては言い過ぎか。

■開設1カ月、学生・フリーター、外国人も

 “最終コーナー”の保健所関連は同じベテランでも検査の厳しさがかなり違うようで、自分の場合、多少あせったが、担当のその厳しい方から旅館業許可証をいただいたときは本当にうれしかった。全般に予定をかなり遅れたが、7月31日昼にオープン、大してPRもしていなかった(というか、あまりできなかった)にもかかわらず、8月はハイシーズンのせいか、かなり好調だった。沖縄観光速報社のホームページやメールマガジンを見てきた旅行者もいる。

 「ドミトリー沖縄」(〒902−0065 那覇市壷屋1-1-10 2F、TEL[携帯]090-7159-8741、地図)を改めて紹介すると、1泊1ベッド1800円(US$16)。エアコン無料、FREE TEA、旅情報充実、それにトイレ、シャワー、ロッカー、テレビ、ラジオなどが完備。リネンサプライを利用。2段ベッド3つで、定員5人プラス予備1人分。開設して1ヵ月、外国人利用もしばしばで、男女を問わず主に旅が大好きな学生、フリーターらで賑わう。延泊や帰路での再泊が目立つのも特徴。今後の営業展開は…色々と模索中なのだ。 (「観光とけいざい」第553号、99年9月1日付け)


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