連載 ガンバレ県内企業 勝ち組への挑戦(17)
大嶺正行(タナベ経営沖縄支社長)


「小さな欲」と「大きな欲」

 NHKの特集番組「プロジェクトX」でプロペラ旅客機の名機と誉れ高い「YS-11機」の構想から完成までの歴史的経緯が二週に渡って放送された。その内容には、心揺さぶられる説得力と経営に役立つヒントが多いにあった。簡単に説明すれば以下の内容である。

 第二次世界大戦前の日本の航空機製造技術は、零戦で知られるように世界から恐れられるほど抜きん出ていた。しかし、敗戦した日本は、十年間に及ぶ製造禁止期間を迎える。その状況の中、日本の誇る技術力を絶やしてはいけないという使命感に燃えた若き官僚が一人立ち上がる。彼は、戦前に「五人の侍」とまで称され航空技術の世界的エキスパートの老いた航空技術者達に日本初の飛行旅客機の製作を依頼するのである。

1、素人集団

 当時、すでに引退し、生きる気力を無くし、明日の飯にも事欠く、どん底生活まで落ち込んでいた世界最高の技術者達は、「生きている間に技術を後世に伝えたい」との思いで全員が一致し、二つ返事で了解したのである。富とか名声は論外、使命感だけで老体に鞭打って、その後、十年以上に及ぶ激務を引き受けたのである。

 当時の日本には、航空機製造を経験した技術者は存在していなかったのである。そこであらゆる民間企業に技術者の要請をすることとなる。しかし、民間企業から派遣された技術者達は、入社したてのひよっこばかりで、本気で航空機を製造したいと思う企業など皆無であったのだ。それでも頭数だけは、どうにか揃ったのである。

2、仕事は趣味化するまで磨け

 その後、五人の侍達は、必死で素人集団に全身全霊で技術を伝授するのである。開発会議は、決まって夕方の五時から始まり、延々、朝の四時まで続いた。そして朝の八時から通常勤務という激務が三年間も続くのである。それでも若き技術者達は、めげずに耐え抜き、いつしか自ら飛行機の魅力に取り付かれて行くのである。

 それを見て感じたことは、「仕事は趣味化するまで磨け」とよく言われるが、「やらされ仕事」では到達できない境地があることだ。あえて表現するなら「欲を超えて、人がひた向きに打ち込む仕事の美しさ」である。その後は承知のように日本初の航空旅客機「YS-11機」が完成、世界一のプロペラ旅客機と称されるのである。

3、ルーツ農法に教えられた人材育成

 ここで問題なのは、どうすれば「自ら望んで取組む姿勢」を醸成できるかである。ある経営者から、「ルーツ農法」といわれるトマト栽培方法の話を聴き、示唆に富んでいたので紹介したい。その内容を簡単に説明すると以下のことである。

 トマトの原種はアンデスの山の中である。土地は痩せ、雨も少なく気候条件もトマトにとっては、大変厳しい所である。その厳しい条件下で育成したトマトが熟成する直前に養分を与える農法を「ルーツ農法」と呼ばれているとのこと。それとは逆に、ビニール・ハウスで十分に肥料を与え育てたものが、普通我々が手にする「ハウス・トマト」である。育成方法の違った二種類のトマトを同じ水槽に落とすと「ハウス・トマト」は水に浮き、「ルーツ農法育成トマト」は底に沈むという。つま り、「ハウス・トマト」と「ルーツ農法育成トマト」では、その中身の密度に格段の差があるのだ。アンデスの山奥の痩せた土地で枯れる寸前まで厳しい環境で育ったトマトは、ギリギリでもらった養分をありったけの生命力で吸収し中身が充実するのだ。

4、「小さな欲」と「大きな欲」

 このことを人に喩えて考えた場合、温室育ちの社員と厳しい職場環境で育った社員とでは、その成長スピードと密度において格段の差がでるのは人も植物も同じなのである。

 人は断崖絶壁に追い込まれると、その潜在能力が開花し著しい成長を遂げるといわれる。以前に比較して、義務よりも権利を優先する風潮が一段と高まりつつある現代。「ルーツ農法」的論理で考えれば、時が経つにつれ人が育ちにくくなったというのもうなずける気がする。どんなに厳しい経済環境、時価主義賃金時代を力説しても、聞く側がビニール・ハウスにいたのでは本当の理解はできないと考えるべきである。今後の人材環境を考えると、「大きな欲」を持ち、真の実力を培って限りな い成長をなし得る人と「小さな欲」に甘んじて一向に成長しない人に、大きく二分されるであろう。

 ITの発達した競争社会では、一流企業のビジネスマン、公務員、学校の教師、その他安定しているといわれる職業の持ち主でもこのことは例外ではない。例えば、ITを使えば一流の教師陣数人で全国の授業を受け持つことも可能かもしれない。ITの発達する社会とは、聖域をつくらない本当の自由競争の時代と言える。どこに属しているかよりも、何が出来るかが問われる時代なのである。(「観光とけいざい」2000年8月15日)


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