連載 ガンバレ県内企業 勝ち組への挑戦(20)
大嶺正行(タナベ経営沖縄支社長)


偉大なる素人集団

 二日の深夜、NHKの番組「プロジェクトX」で日本のコンビニエンス・ストアの草分け的存在である東京都江東区のセブンイレブン一号店出店までのドキュメンタリーを見て大変な感銘を受けた。その主人公は、断崖絶壁に追い込まれながらも誠実、ひた向き、一心不乱に仕事へ打込む「偉大なる素人集団」だ。その中心メンバーが、今では著明な経営者のイトーヨーカ堂会長の鈴木敏文と副会長の清水秀雄の二人である。

1、新規事業への夢

 昭和四十七年当時、スーパー業界十七位企業の窓際族に甘んじていた鈴木敏文、清水秀雄は、流通先進国のアメリカへあてのない旅へと出発し、二人が捜したニュービジネスが「コンビニエンスストア」である。アメリカ・セブンイレブンは、日本など眼中になく、ましてや劣勢企業など相手にしなかった。それでもどうにか頼み込んで契約にこぎつけることができたが、足元を見られ膨大な契約料と八年以内に千五百店舗という大変厳しい条件となった。早速、会社へ戻り役員会に新規事業を提案するのだ が、そこでも相手にされなかった。結局、資本金の半分は会社が、なんと残りは二人が有り金全てを吐き出しての事業立ち上げとなった。そして、社内に新規事業プロジェクトへの参加を呼びかけるが、誰も相手にしてくれない。仕方なく会社から睨まれていた労働組合党首の岩國修一を仲間にいれた。残りの十二名は新聞広告で呼びかけ、自衛官、パン屋の営業マン、商社マン…と見事なまでの流通の素人十五名が顔を揃えた。

2、命運をかけた一号店

 それでも彼らの頼みの綱は、アメリカ・セブンイレブンから届いた「魔法の経営マニュアル」。期待に胸を膨らませ、膨大な経営マニュアルを翻訳したが、内容を見て彼らは呆然となった。そこに書かれていたのは、レジの打ち方、つり銭の渡し方……なんとアルバイトの研修マニュアルでしかなかったのだ。そんな折、新聞記事を見た山本さんからコンビニエンスをやって見たいとの申し出があり、勇んで店舗を見に行くと、その酒屋の周辺は工場と空き地だらけの最悪の立地。店主の中山さんは当時二十三 歳、父を亡くし、年老いた母と高校生の妹、中学生の弟、身ごもった妻がいて、断崖絶壁まで追い込まれた状況であり、鈴木らには同じ境遇に映ったのであろう。なんと最悪の立地にもかかわらず出店に踏み切ったのである。

3、現実、現品、現場主義

 一号店は、酒屋時代の二倍の売上になったが、アルバイトの人件費、ロイヤルティを差し引くと利益は以前と変わらないものであった。このままでは出店費用の二千五百万円の支払が重くのしかかり、借金返済で火だるまになるのはありあり、全員が窮地に追い込まれた。

 意外にも労組党首だった岩國がその窮地を救ったのである。具体的にやることがない岩國は、せめて体だけでもと出店から半年間、店に通いづめて朝から晩まで床の掃除、つり銭の交換、荷物の搬入等をひた向きに続けた。そしてあることに気づくのである。何ヶ月も売れない商品があるかたわら、飲み物などの品切れ商品がある。そして店主に「なぜ品切れ商品を仕入れないのですか」と聞くと、店主は黙って二階の倉庫に案内した。欠品を無くそうとするとケース仕入のため在庫の山になるのだ。

4、素人集団の快進撃

 報告を聞いた鈴木は即座にいくつかの提案をする。

(1) 日々の商品売上をすべて集計すれば、回転率のいい商品がわかり、売れ筋商品のみに絞れば店舗効率が飛躍的にアップするはずだ。なんとコンピュータのない時代に手作業で三千種類もある商品の売上伝票を一日十五時間深夜までかかって集計したのである。それが今では有名なセブンイレブンの「単品管理システム」だ。

(2) また、少量で配送してもらえばいいのではないか。問屋に交渉するが全滅、そこで考えたのが地域を限定した集中出店。それが今では当然となった「ドミナント出店戦略」であり「小分け配送システム」だ。

 その甲斐あって、山本さんの店は息を吹き返し繁盛店となった。その噂を聞きつけコンビニエンスストアが一騎に広がる流通革命がスタートしたのである。

 右記の店舗運営手法は、今ではセオリーとなっており、当然のことのように思われているが、当時からすると非常識な経営手法だったのである。その意味でも固定観念を持たない誠実でひた向きで一心不乱に仕事に立ち向かう素人こそ、新時代を切り開くパワーを概して持ち得ているのかもしれない。承知のとおり、セブンイレブン・ジャパンは十五年でアメリカ本家を追い抜き、その後は売上高二兆円の日本最大の流通企業に成長したのである。

 この歴史的ドキュメントに学ぶことは、企業を変え、時代を変えることができる人々とは、一見華やかで話し上手の政治家タイプではなく、むしろ何事にも誠実、ひた向きに一つの事に侵食を忘れて打込むことのできる一見不器用な生き方をする人ではないだろうか。このことは、セブンイレブンを世界一のコンビニエンスストアにした「偉大なる素人集団」に共通する特徴ではないか。常に忘れてはならないことは「夢を見、夢を追い、夢を食う」前向きな気概だ。今の贅沢や安定のみを追いかける夢の小さい人に本物は 築けないことの証であろう。

5、戸籍年齢、肉体年齢、精神年齢

 六十代半ばになった流通の風雲児達は二十世紀最後の二〇〇〇年、今度は「金融革命」を起こそうとしているのだ。イトーヨーカ堂とセブンイレブン・ジャパンは十一月六日、新銀行の免許を金融再生委員会・金融監督庁に予備申請した。銀行名は「アイワイバンク銀行」(IYバンク)で、コンビニエンスストアなどに設置した二十四時間稼動の現金自動預け払い機(ATM)による預金や振り込みなどの決済を業務の中心とするものである。 加えて邦銀で初めてIC搭載のキャッシュカードも発行するという。 いずれにしても、小売業で蓄積したノウハウを活用し、消費者の利便性に的を絞ったサービスの展開を目指しており、既存銀行のリテール(小口金融取引)のあり方を根底から覆すことになろう。

 人は戸籍年齢、肉体年齢、精神年齢の三つの年齢を持っているといわれるが、いくつになっても常に挑戦を忘れない彼らの姿を見るにつけ、精神面の若さに心から感服する。

 人も羨む成功を手中にしながら高齢になった今でも、消費者に利便性(コンビニエンス)を提供したいと願う経営姿勢をもってすれば。かつての「流通の素人達」が流通革命を起こしたように、四半世紀たった彼らは「金融の素人達」となって金融革命を必ずや成功させると思う。(「観光とけいざい」2000年11月15日)


 |  連載21 |  HOME |
本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は沖縄観光速報社に帰属します。
Copyright (c) 1996 Okinawa Kankou Sokuhousya. No reproduction or republication without permission.