連載 ガンバレ県内企業 勝ち組への挑戦(24)
大嶺正行(タナベ経営沖縄支社長)


成熟産業の中の高成長企業

 成熟産業といわれるレストラン業界にあって、驚異的な成長を続けるユニークな企業がある。東京都港区南青山に本社を置き、従業員数百二十二人、アルバイト一千二百人、平均年齢二十八歳、店舗数二十七、売上高九十三億円、経常利益十億円、東証二部上場というパフォーマンスを持つ、グローバル・ダイニングである。長谷川耕造氏という経営者が、一九七三年に弱冠二十五歳で「有限会社長谷川実業」を設立し、喫茶「北欧館」を高田馬場に開業したのがスタート。その後、さまざまな タイプのレストランを展開する。

 初めに、アメリカ西部の陽気な酒場をイメージしたパブレストラン「ゼスト」を開業。次いで、中世のヨーロッパをイメージした、パスタ料理中心のイタリアン・レストラン「ラ・ボエム」を開業。その後、エスニック料理ブームの火付け役となった「モンスーンカフェ」、カルフォルニア料理でヘルシーをメインテーマにした「ステラート」、日本の民家をイメージし、手打ちそばと焼き物と地酒をメインとした「権八」とさまざまな分野を開発した。さらには、一九九一年にアメリカ進出第 一号店となる「ロサンジェルス・ラ・ボエム」をオープン、一九九六にアメリカ第二号店となる「サンタモニカ・モンスーンカフェ」をオープンさせている。

 その後、一九九九年十二月に東京証券取引所第二部上場を果たしたのである。

 

1、業態特性の捉え方

 この企業のユニークな点は、外食産業を料理や飲み物を提供するサービス業と単純な捉え方はしないことである。長谷川氏は「すべての店舗にブロードウェイの舞台のような空間をつくり上げ、その舞台の主人公であるお客様に最高の満足をしてもらう。そのために各スタッフがマニュアルを超えた最高のサービスを提供し、うまいワイン、洒落た料理、シックなインテリア、雰囲気たっぷりのライティング、活気のある店内など……都市生活者にとってレストランとは、もはやただ食事をす るだけの空間ではなく、そこに身をゆだね、サービスを受けることが、一つのエンタテイメントとなっている空間である」と発言している。

 一つの事例で説明すれば、一度、来店された客の顔と名前、注文した飲み物を、なんと二年間は覚える人もいるというから驚きだ。仮に、私が今月入店してカクテルを注文したとして、その後、二〇〇三年の四月に再び立ち寄ったとしよう。そして、その店の店長から「大嶺様、以前飲まれたソルティードックにしますか」といわれたら、これ以上のサービスはないと思う。

 もちろん、全従業員ができるかというとそれは不可能であろうが、総じて、人は、できる人の真似をするものだ。長谷川耕造氏の言う「マニュアルを超えたサービス」に、本当の付加価値があるのかもしれない。

 デフレ時代の今、ファーストフードのような外食産業、観光産業のホテル業の価格競争も例外ではない。むしろ加速度を増しているのが現状だ。ところが、業態特性の捉え方いかんによっては、価格競争を横目にオンリーワン路線で成長路線まっしぐらということもあり得るのだ。着眼点が違えば、得られる成果が大きく違うといえる事例であろう。

2、インセンティブ・システム

 さらにグローバル・ダイニングの経営システムのユニークな点は、徹底したインセンティブ・システムを導入した人事処遇制度にある。厳しさを増す日本経済にあって大企業のトップでも年収三千万円が難しい時代。この企業は、店長クラスで年収二千万円を超える人がざらにいるというから驚異的である。さらに、アルバイトの時給も最高三千二百円と破格だ。

 弊社も上場飲食業を数多くお手伝いしているが、右記の給与水準は、おそらく全国唯一といっても過言ではない。加えて、この企業では、昇進、昇給、異動は会社が決めないというから面白い。

 では、どうしているのか。各社員、アルバイトが「私は、これだけの業績をだしますから、これだけの給与を下さい、この仕事を下さい」と自己申告するのである。そしてすべてのことは、店長会議の協議で決定する。言わば社内議員制なのだ。つまり、トップ、役員はその中の一員であって決定権のすべてを持っているのではない。むしろ一票を投じる議員の一人なのである。一人のカリスマ経営者の基に集まった精鋭集団で、徹底した民主主義経営をおこなっているのだ。

 まとめになるが、皆さんが恐らく疑問を持つことは、「これだけ高い給与水準であれば軍資金ができ、独立する人が次々と出るのではないか」ということであろう。たしかに、サービス業の特性の一つに、多少の資金とノウハウさえあれば独立可能業態であることも事実である。ただし、人はカネのためだけに仕事をするものでもないことも事実だ。今回、紹介したグローバル・ダイニングの企業ビジョンは、「サービス業でグローバル企業になる」ことである。一人で多少の金儲けはできても グローバル企業になることは、そうたやすいことではない。

 その意味で、企業の価値観と個々人の価値観が一致した経営の一例として、多大なる賞賛に値すると思う。いずれにしても、企業経営におけるあるべき姿は「高生産、低分配率」である。一番悲しいのは、「低生産性で、高分配率で、賃金水準は低い」であろう。つまり、企業、社員、誰も幸せでないことが問題なのだ。(「観光とけいざい」2001年4月1日)


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