連載 ガンバレ県内企業 勝ち組への挑戦(29)
大嶺正行(タナベ経営沖縄支社長)


人材育成に対する経営姿勢

 先月十二日の朝は、台風十五号の風の音で四時三十分に起床。テレビのスイッチを入れると信じ難い映像が飛び込んで来た。世界経済の象徴であるマンハッタンの摩天楼「世界貿易センタービル」に一般旅客機二機が次々と衝突し炎上、そして跡形も無く崩壊。さらに軍事の象徴であるペンタゴンが続いて炎上した。まるで映画の一場面を観ているようだ。人は、不思議なもので理解できる領域を越えると目の前で繰り広げられている光景をなかなか理解できない。九月十一日は過去最悪のテロ惨事となり、アメリカは「第二のパールハーバー」と呼んだ。同時多発テロは、軍事問題であると同時に経済問題だ。まず思ったことは、「戦争が勃発するかもしれない」「世界恐慌の引き金になる」のニ点。アメリカ及び日本の世界経済トップ二カ国の経済環境が急激に悪化している局面で決定的な事態が発生したことには間違えない。いずれにしても今回の同時多発テロは、世界恐慌の引き金になる可能性が大きいと判断されるのではないか。

1、実質成長率と名目成長率

 先月七日に政府が発表した四月〜六月のGDP(国内総生産)成長率が実質成長率でマイナス〇・八%、名目成長率でマイナス二・七%となり日本経済の悪化が改めて露呈した結果となった。承知のことと思うが「実質成長率」とは販売量(生産量)の増減を意味し、「名目成長率」とは販売単価(生産単価)を意味する。そこで重要なことは、実質成長率、名目成長率ともにマイナスになったのは、関東大震災が発生した年と終戦の年の過去二回しかないと言われており、今回が三回目。加えて、四月〜六月のGDP成長率を年間で換算すると、一〇%前後の販売金額の減少となる大変な数値なのだ。単純に言って売上が前年比で一割ほど下がることを意味する。そこで重要になるのが「損益分岐点操業度」と言う考え方だ。簡単に説明すれば、赤字も儲けも出ない収支トントンの売上金額は現状の売上高のどの程度かを現す指標である。例えば、「損益分岐点操業度九〇%」と言えば、売上が一割下がれば赤字に転換すると考えればよい。実際のところ損益分岐点操業度が九〇%を下回る企業は二割も無い。企業の七割は赤字であると言われており、「コストダウン」と「新規の売上創造」をしなければ八〜九割の企業が赤字に転落することを意味する。

2、関西優秀企業視察

 そんな中、先月十六日〜十九日の四日間の日程で大阪、京都の「関西優秀企業視察」と弊社主催の「ソリューション・フォーラム」に県内経営者と連れ立って初秋を感じる関西に行った。その中の一部を紹介したい。手打ちうどん専門店「杵屋(きねや)」とサンドイッチ専門店「グルメ」が合併してできた「グルメ杵屋」という飲食チェーン企業を訪問した。店舗数全国五百四十八店舗、年商三百五十億円、経常利益二十六億円、自己資本比率五六%、社員数一千人、パートアルバイト数一万人のパフォーマンスを持つ東証一部企業。県内では、那覇空港内にサンドイッチ専門店「グルメ」があり、食された方も多いのではないか。大阪市住之江区にある本社に訪問し、椋本(むくもと)社長の話しを聞いた。特徴的なのは、「社員教育」と「徹底したシステム化」のバランスが極めて充実していること。トップは明快な経営ビジョンを持ち将来像を語り、幹部陣がビジョン達成のためのシステムづくりに余念がない。厳しい経営環境下でも、一貫して増収増益を続けられる本質を垣間見たような気がする。ついては、特徴的でユニークな点を上げれば以下の内容だ。

(1) 徹底した社員教育の実施

 本社ビルの一階には、「研修室」と称した出店店舗をそのまま再現した模擬店舗があり、実践さながらのロールプレイングができる研修施設がある。ちなみに、新入社員の事例で言えば、入社後、半年間に渡り本社と各店舗での社員教育がプログラムされており、教育レベルは極めて高い。

(2) 仕入先とのEDI化

 仕入先とのデータ交換による材料原価のコスト管理と事務処理の合理化が徹底されている。七百社あった仕入先を二百社まで絞り込み、購買の中心となる四十社にEDIを導入。材料仕入に占めるEDI比率が八五〜九〇%程度というから驚異的な数値。

(3) ブロック長のモバイル活用

 十店舗程度を巡回管理するブロック長は、ノートパソコンを利用してどこにいようとも店舗業績が瞬時に把握できるシステムを構築している。加えてPHSの端末を利用し、現在地が常時、本社で把握できる位置確認システムを導入。

(4) ベンチャー事業制度の導入

 新規事業のアイデアを公募し、将来の資本金を五千万円と設定。六〇%の三千万円のうち二千五百万円を会社が、残りは部長以上の幹部が個人出資して新規事業がスタート。そして子会社の利益が一割配当の目処がついたら残りの四〇%に当る二千万円を、汗を流した社員が出資して資本金五千万円の会社が誕生する。加えて、事業立ち上げに必要な事業資金は、二億円を限度として親会社から低利で融資が受けられる。

(5)役員見習い制度

 役員になれるまでに社員が成長すれば、株主総会に推薦する。そして、一年間の仕事ぶりを見てもらい株主に承認してもらう方式。対象者は一年間、「常務補」「取締役補」と呼ばれ、株主に対し徹底したオープン役員人事。

 いずれにしても、厳しい経営環境下になればなるほど、企業の自助努力を惜しまない企業とそうでない企業の差はますます広がる一方であろう。今回、紹介した「グルメ杵屋」においても人材育成に対する経営姿勢はライバルの追随を許さない。勝ち組企業になるためにはそれなりの理由があることを改めて教えられた。 (「観光とけいざい」2001年10月1日)


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