連載 ガンバレ県内企業 勝ち組への挑戦(39)
大嶺正行(タナベ経営沖縄支社長)


理性消費

 毎日、タクシーに乗る関係上、運転手さんから話しを聞く機会が多い。よく聞かれるのが「この不況はいつまで続きますかね」だ。政府は「底を打った」と発表しているが、正直なところ実感はない。百九十日以上にも及ぶ長期国会も終了し、先送り日本体質に変化は見られなかった。経済環境は、「不況」が「普況」となりL字型の長底状況になると判断するのが妥当。十年以上にも及ぶ不況のなかで、日本の生活者は変わった。

 そこで今回は、朝日新聞が連載している「経済気象台」というコラムを参考に消費者心理を考えてみたい。消費者心理調査で、節約したいものトップ5は、衣料費、外食費、通信費、お中元・お歳暮、日常の食費。

 一方、苦しいなかでもお金をかけたいもののトップ3は、貯金、旅行、趣味。同調査で、「欲しいものを手に入れるためには、今の生活の何かを削れる」と答えた人が、過半数を超えた。バブル時代のように何にでもお金をかけるのではなく、欲しいものだけにお金を集中させ生活の満足感を下げない工夫をする人が増えたといえよう。加えて、単なる好き嫌いではなく、きちんと商品情報をつかみ、性能や品質の良い悪いで判断する「理性 消費」が増えている。如実に現しているのが、日本にやって来た外国人の印象だ。街には着飾った人たちが行き交い、海外高級ブランド店は多くの客でにぎわっている。一見、街のどこを見ても不況の影も形も見当たらないという。彼らは、予想外の光景に驚くという。

 

1、中流生活

 中流の生活を求めて、日本人の誰もが高度成長時代をひたすら走り続けた。その間に、アメリカ映画でしかお目にかかれなかった家電製品は、ほとんどの日本の家庭に揃うようになった。電子レンジの普及率が九四%、エアコンの普及率が八六%まで伸びたのは、夢の中流生活実現の象徴だ。加えて、テクノロジーの進歩は、誰もが携帯電話でコミュニケーションを身近なものにし、インターネットで国内外の情報通になった。

 モノという一面では、日本人の生活の豊かさは、欲望のピークに近づいたと言う人もいるぐらいだ。このことは、日本人の幸福度が不況にもかかわらず七五%という数字を示していることの理由だと考えられる。この状況は、わが県においても同様である。企業経営の実態を見ると総じて不況なのだが、我々県民の生活状況からすると、特段の悲壮感は感じられない。つまり、企業は苦しいが、生活者はそこそこの幸福感は感じているのが 現実なのであろう。少なくとも、モノの面だけで言えば、「今よりも昔がいい」と答える人は少ないのではないだろうか。

2、理性消費

 結果として、中流生活の実現によって、日本人の心から、かつてのモノに対する貪欲さが消え、六四%の人が「以前よりも物欲が低下している」と答えている。モノに対して、今あるもので十分だという意識が芽生えたことを意味する。さらに、四割の女性が「今、どうしても欲しいものが、これといって思いあたらない」と答えている。つまり、中流生活の実現が、日本人のモノに対する消費心理に飽和状態を生んだのであろう。ついて は、総じて満腹状態にあると判断できる。

 結果として、現状の不況は「満腹不況」なのだ。「旅行、趣味、健康、セキュリティー、環境、情報…」などの「心の充実、安心、快適」のキーワードを提供してくれる商品、サービスに消費が集中する傾向はますます進むと考えられるであろう。

 性格が人それぞれであるように、各自の判断基準も多様性をましており、ますます「理性消費」が複雑さを増すことが想定される。例えば、県の入域観光客数が伸びても一人当りの消費金額が下がる傾向は、消費者心理から判断すれば当然のこととなる。

 いずれにしても、消費者はますます複雑で賢くなっており、「満腹不況」の見極めが企業経営の明暗を分けることになる。その意味でも、県内観光産業において、「総じてエンターテイメント性が弱い」とよく聞くが、成熟期に入り衰退期に突入する決定的要因になろう。いったん、数の減少期に入れば、そう簡単に止められるものではないことは確実だ。よく「量より質」と聞くが、まずもって量が増えないことには質も上がらないのが現 実。「量が増えることで付加価値が付けられる」が順当な考え方であろう。 (「観光とけいざい」2002年8月1日号)


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