連載 ガンバレ県内企業 勝ち組への挑戦(41)
大嶺正行(タナベ経営沖縄支社長)


顧客のモラル

 北海道西友の元町店が外国産の輸入肉を国産と虚偽表示して販売していた問題で、返金を求める客が殺到した。一人で三十万から四十万円を請求した主婦もいて、偽装期間中の返金対象商品販売額約一千四百万円の三・五倍に当たる、約四千九百万円を客に支払った。

 同店によると、昨年九月から今年九月までの一年間に、カナダ産豚ロースと米国産牛タンを国産と偽装。豚ロースなどの合計販売額一千四百万円のうち、約二百八十キロ分の約九十四万円が偽装品だったと説明している。一人当たりの返金額を最高三万円と想定、豚ロースなどを購入した客に返金していた。しかし、レシートがなくても返金に応じたため、携帯電話で連絡を取り合ったり、インターネットの掲示板に「今日だけで百三十万円返金したそうだ」などと書き込まれたことから、若者が大勢集まって返金を求め、店内は混乱した。返金額の最高は一件当たり十八万円、中には二回返金を受けた人もいた。

 また、返金を求めてきた人の七割以上が、元町店の商圏外から来ていたとみられている。

 札幌市のほか、埼玉県の店舗でも返金を行ったが、特にトラブルは起きていなかった。しかし、テレビ報道などを見て影響が出始め、埼玉県の店舗でも騒動になる前に返金の打ち切りを決めた。

1、店舗側の誠意

 西友では顧客対応として、「商品券の配布」や「謝罪セール」も検討していたが、不祥事を商売にしているとの批判につながることを懸念。平成十年十月以降、顧客から受けた商品の返品や返金の要請には原則的に応じることを会社の方針にしていたこともあり、「同じ考え方で今回、対応することに踏み切った」という。

 だが、情報化時代を反映して、インターネットや携帯電話を介して「金がもらえる」といった悪意のある情報が流され、店から遠い地域に住む人や、普段、食品売り場で買い物をしているとは思えないような若者までもが返金を求めに殺到した。

 ここ数カ月だけでも、イオングループやイトーヨーカ堂などが偽物の疑いがあるバーバリー製のマフラーの自主回収を実施。東急ストアも松阪牛の偽装で返金するなどの事例がある。

 今回の問題は、一義的には西友側に非があるものの、その後の出来事については、小売業の各社にとって、決して他人事ではない。顧客の信頼を確保するためには、「返金」以外に対応の選択肢が見つからないとの見方が支配的で、「対応の難しさを痛感させられた」という声が上がっていると聞く。加えて、「やみくもに返金せずに店に近いところに住む購入者に限定するなど、きめ細かい対応が必要だったのでは」などと、甘さを批判する声もあるが、現実的には極めて難しいだろう。

2、顧客のモラルも問われる

 雪印乳業、日本ハム、三井商事、東京電力…と大手企業の不祥事が問題視される中、「顧客からの信用失墜が会社を衰退させ、場合によっては倒産までにも追い込む」という発想が広がることは、消費者優先、保護の観点としては、総じて良い傾向であろう。

 しかし、顧客が企業側の弱みに付け込むという「モラル喪失客」を生む危険性をはらんでいることも事実だ。今回の「返金騒動」は、「皆で渡れば怖くない」「もらわなきゃ損! 損!」などの「悪ふざけ集団心理」もベースにあろう。例えば、全国報道となった那覇市の成人式での不祥事の場面とイメージが重なって見える。

 今回の場合、北海道では騒動となり、埼玉では特別問題になっていない。もしも、沖縄県で同様の問題が発生した場合に、若者を中心とした消費者はどのような反応を見せるのか。単に「県外での特別な不祥事だよ」と簡単に片づけられる問題ではない。企業モラルの悪化が問われる状況の中で、消費者のモラル悪化も同時に問われる時代なのだ。いずれにしても、企業も所詮「人」、もちろん顧客も「人」であり、今回の騒動は、人間の浅はかさが如実に出た事例だといえる。

 いずれにしても、企業側、顧客側と極悪人はいない。昔から「貧すれば鈍する=人は貧しくなると、かしこい人も、ついおろかなことをする」と言われるが、人間の本質はいつの時代も変わらないもの。過当競争が熾烈化することで、顧客は学習し「出来るだけ安く、出来るだけ良い商品」を要求するようになる。その要求に対しライバルよりも少しでも高いレベルで対応したいという思いから、虚偽表示に手を染める。そして、内部告発で表面化し、社会問題へと発展する。まさしく悪循環構造だ。そろそろ悪循環の輪の中から抜け出すタイムリミットが総じて来ているのではないか。どんな業種、業態でも差別化できる要素は必ずある。問題は実行できるだけの「企業体力」と「その勇気」が残っているかであろう。 (「観光とけいざい」2002年10月1日号)


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