連載 ガンバレ県内企業 勝ち組への挑戦(44)
大嶺正行(タナベ経営沖縄支社長)


牛丼の吉野家

  新年明けましておめでとうございます。さて、昨年末に報じられビックリしたことがあった。常に時代をリードして来た「日本マクドナルド」が、大幅赤字となり国内百四十三店舗を閉めることとなったというのだ。どんな企業であれデフレ圧力による無理な値下げ展開は厳しいことを物語る一幕であろう。そんな中、デフレを見方に頑張っている企業を紹介したい。

 牛丼チェーンで有名な「吉野家ディー・アンド・シー」は、国内外で展開する牛丼の「吉野家」事業を主軸に、新業態および新規事業の開発や商品開発、店舗開発等を積極的に推進している。また、業態ごとの分社独立を進め、企業グループの形成を図り、時代のニーズに応じたフードビジネスに取り組み、創業百年を超えた今でも成長を続けているのだ。そのチェーン展開は昨年二月現在で国内八百四十五店舗、海外百七十一店舗と順調に拡大し、外食産業においてトップクラスの規模を維 持しているだけでなく、グローバルな事業展開に取り組む企業グループなのである。

 二〇〇一年には、価格の再設計を行い、牛丼並盛の価格を四百円から二百八十円に値下げして、新規客の開拓に成功している。また、一九九七年を起点に策定した長期経営ビジョン「YDC」では、三つのテーマを掲げ着実な成果を上げている。

 まず「吉野家の進化」に関して、店舗のインテリアなど環境デザインを含めて消費者ニーズに適応しようという新しい価値の再設計が進んでいる。また「多角化を含めた国内新規事業の促進および展開」については、M&Aやベンチャーキャピタルなどへの支援を推進し、企業グループとしてのスケールアップを図っている。

 さらに「海外事業の展開」では、米国・ニューヨークや中国・上海への出店など、新たな動きが本格化しており、その展開は今後さらにスピードアップするであろう。吉野家グループは「社会との共生を積極的に図り、食に関するビジネスを通じて豊かな人間社会の創造に貢献する」という経営理念を忠実に実行し、「グローバル・アドマイアブル・カンパニー(真に世界から賞賛される企業)」を目指す超優良外食企業なのである。

 

1、合理的値下げ

 ところで、消費者のデフレ志向に対応すべく大胆な価格値下げを実施したのだが業績面においてはどうなのか興味の湧くところだ。今年の決算データを見ると、既存店では客数が前年対比一二六・三%、客単価では八二%、結果として売上高では一〇三・八%と伸びている。

 さらに、新規店を含めた全店売上高では一一三・七%と二桁台の伸びを達成している。この動向は今でも続いており、総じて右肩上がりの傾向を示している。加えて、三〇%の大幅値下げを実行しながらも、業績面では売上高千五百億円、経常利益百七十二億円を稼ぎ出し売上高経常利益率一一・五%を達成しているというから驚く。

 つまり、吉野家にとって大胆な値下げによる価格設計は、単なる安売りではなく、合理性のある価格戦略と言えるのだ。

2、こだわり

 加えて、吉野家の「こだわり」は味と価格面だけではない。むしろ「うまい、早い、安い」のキャッチフレーズの中で、とりわけ「早い」に見せるこだわりは並々ならぬものだ。日経ビジネス社の調査によれば、吉野家の利用客が、来店してから店を出るまでの平均滞店時間は約九分。その中で、食事に費やす時間は平均七分四十秒という。

 それ以外は、注文を聞いてから料理するまでが約四十五秒、会計が二十秒などで、滞店時間の八五%を「食べる」という飲食店本来の目的に使っていることになる。

 そのポイントは、三つある。一つは、頑固なまでに券売機を置かないこと。一見、効率がいいように思えるが、込み合った場合には、むしろ遅くなる弊害が出るという。また、もう一つは、メニューの絞込みの徹底である。通常、集客力を上げようとカレーなど他のメニューを増やそうとするのが一般的だが、まったくやらないのである。また、同じ分量で如何に早く、綺麗に丼を盛れるかを社内コンテストしている。いずれにしても、「早さ」へのこだわりは大変なものがある。

 一般的に「食事ぐらいはゆっくり」と考えるのがフード・サービスのあるべき姿と考えがちだが、忙しい現代人にとって「うまい、早い、安い」は最大公約数のニーズなのである。

 吉野家に学ぶべきは、自社の売りは何であるのかを明確にすること。また、徹底して「こだわる」ことである。そこに妥協の許す余地はない。結果として、一杯二百八十円が千五百億円の売上高になるから、まさしく牛丼恐るべしである。今年もデフレ環境が終わることは無い。むしろ、デフレを見方に付ける考え方に切り替えるべき時なのであろう。 (「観光とけいざい」2003年1月1日号)


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