連載 マルチメディア&リゾート〜沖縄との相性〜(7)
島田勝也(NTT西日本沖縄支店勤務)


子供達とコンピューター

 情報産業の分野では日本はここ十年でアメリカに大きく遅れを取ってしまった。インターネットの普及率で三〜四年遅れているようだ。その大きな要因の一つに子供達がコンピューターに触れて慣れ親しむ機会の差がある。タイプライターという道具が昔から普及していたアメリカ社会と、ワープロでさえ八〇年代に入ってからの普及であった日本の違いとも言えるのだが、現在の小学校でのコンピューター教育の違いが大きく影響しているのは事実である。

 その一端を探るべく知人の協力を得て沖縄にある「アメリカ」、嘉手納米軍基地内の小学校を訪ねて授業に参加してきた。聞いてはいたし、想像もしていたが、それ以上の教育現場を目の当たりにしてきた。今月はその模様を紹介しながら我々の子供達ためのパソコン教育について考えてみる。

 私が小学校二年生の娘を伴って嘉手納基地内小学校を訪ねたのは昨年末であった。知人を通して予てから「小学校のバソコン教育」の様子を見学させて欲しいと依頼していた。快く承諾いただき色々と見せてもらつた。

 はじめに小学校のホームルーム(教室)を見学した。各教室の後ろには何気なくパソコンが二台づつ設置されていた。パソコンはもちろんインターネットに接続されている。それを使って子供達は休み時間にはゲームをしたり絵を書いたりあるいは本国の祖父母にEメールを送ったりしているという。

 次にパソコン教室を覗いた。そこには四十台程のパソコンが設置されていた。この小学校では三年生以上には毎日一時間のパソコンを使ったカリキュラムが組まれているというのだ。訪ねた時は小学校四年生三十名がそれぞれ一生懸命にパソコンに向かっていた。テーマはそれぞれがばらばらでよく、各自が自身で考えるといい、実にアメリカ的である。生徒の一人(女の子)に聞いてみると、「植物の成長についてのレポート」をパワーポイントというソフトを使って作っていた。日本では企 業等でビジネスマンが企画書作りに使うソフトだ。絵を貼り付けたり色々と工夫と発想によって楽しめるソフトだが、なるほどこんな使い方があるのかと感心させられた。この小学校では、二年生、遅くても三年生までにブラインドタッチ(キーボードを見なくても打てるテクニック)を身につけさせるという。その事によって、生徒達はパソコンのキーボードを鉛筆でも使うように抵抗なく使いこなしている。

 次に図書館を訪ねた。そこには書庫と並んで五台程のパソコンが置かれていた。何やら子供達が調べものをしている。そのうちの一人で五年生の子に何をしているのか聞いてみると、今日の宿題に出てきたある国際機関のことをインターネツトで調べているというのだ。

 同小学校では、本国の公立小学校と同レベルのパソコン教育を施しているということであった。アメリカではこのように小学校生の頃からバソコンに親しめる仕組みになっている訳である。

 さて、沖縄の小学校と比べて如何であろう? 同行していた私の八歳(小二)の娘に聞いてみた。学校にバソコン教室はあるが未だ触れさせてもらってはいないとのこと。各教室や図書館にパソコンは設置されていない。パソコン教室はあるが、そのパソコンにも勝手に触れてはいけないという指導がされているとのこと。どうやらそれは指導出来る先生が限られているため、上級生に優先的に使用の時間が与えられていということのようである。これは那覇市内の小学校の事例であるが、概ね平均的な沖縄の小学校のパソコン教育の実態であろう。皆さんのご子息あるいは身近な小学生に状況を聞いてみて頂きたい。具体的な数値での比較は差し控えるが、小学校のパソコン教育には日米間でかくも大きな開きがある訳だ。想像はしていたが、小学校低学年の子供達がパソコンを道具として使いこなすアメリカの小学校。そして我が娘達が通う沖縄の小学校の現状。この子達の将来への影響を想像・心配せずにはいられない。

 沖縄の将来の発展を考える時に、空港や港や光ファイバー等の「インフラ」や規制緩和等による「制度」は確かに必要である。しかし最も重要なのは「人材」であろう。情報通信産業においては特に「人材」という事は声高に叫ばれてきている。国や県も精力的に人材育成策を打ち出しているのは事実である。しかし、小学校教育を含めた教育システム全体での情報化社会に対応した取組みは非常に遅れている。沖縄に進出してきた情報通信企業への人材供給という短期的な視点も大切である が、二十一世紀の情報化社会を見据えると、より低年齢時からの教育という長期的な視点が非常に大切なことになってくる。沖縄が全国より一歩先んじて先進的に改革・取組を行うことで裾野の広い人材ストックを構築し、ひいてはそれが産業の面からも他地域との比較優位性になると考える。このような広い裾野があってはじめて本当に優秀な人材が生まれてくるというものである。

 今までの遅れを早期にあるいは一気に取り返す方法がある。唐突ではあるが「県内の小中学生全員にパソコンを無料配布」してはどうか? とにかく早期に全員がパソコンに触れる機会を提供する必要がある。そうすることで子供達は勝手に遊びの中でパソコン活用術を学ぶ。パソコンに触れさせる機会を平等に与えることが情報弱者を出さないためにも大切である。

 いろいろ問題はあると思うが、十万円のパソコンを県内十万人の子供達に配ったとしても百億円、十年続く北部振興策の特別調整費一年分で済むのである。これは一国二制度をも視野に入れた沖縄側の覚悟があれば可能であると思う。その事は沖縄の将来には間違いなく大きなインパクトをもたらす。従来型の公共工事のばら撒きよりはましである。

 話は外れるが、終戦後の米国統治時代に学校での英語教育の実施が真剣に議論された時期があった。当時の教育界の反対により実現されなかったと私は認識している。しかし、もし実現していたならば現在の沖縄は既に国際都市が実現し、今より活力がある魅力的な土地になっていたに違いない。学校では英語と日本語、家庭では島言葉、そんな多様な言語文化をもつ地域が誕生していたはずである。経済面からも他地域に比べ大きな比較優位となっていたことであろう。現在のパソコン教育の問題もある意味ではその頃の状況と似ているのかもしれない。先生・教育界がその導入を遅らせたり阻んだりするようなことがあってはならない。今こそ大胆な取組みで他の全国四十六都道府県には出来ないような二歩も三歩も先んじた施策を打ち出していく時が来ている。(「観光とけいざい」2000年3月15日号)


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