社会資本整備が観光振興にもたらした功績

(「観光とけいざい」第716号07年02月01日。WEB公開07年05月19日)

 社団法人沖縄県建設弘済会情報誌『しまたてぃ』第40号(07年1月発行)より、同誌の許可を得て加筆・転載 渡久地明(本紙編集長)

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沖縄ブームというのは本当か

 沖縄観光に注目が集まっている。復帰後の観光客数は、低成長や落ち込みも経験したが、30年間を均してみれば毎年平均4.5%成長を達成し(図)、外資が続々と進出し、開発計画も目白押しで、今後もこの成長が続くと見込める。外部的な要因に左右されやすい観光産業は、不安定な産業だと思われた時期もあったが、振り返ってみればこれほど安定して成長した分野は少ない。

 県内需要への供給が第一である農水産品の生産量が、県外への出荷が伸びない限り、横ばい傾向となっているのは、当然のことだ。

 しかし、観光産業は最初から国内の1億2,000万人を対象にし、日本の最大手の旅行・航空企業がしのぎを削る分野であり、そのことによって、増え続ける県内の受け入れ施設と協調・協力しあって大きく伸びてきた。国内航空乗客のおよそ18%が沖縄関連路線の利用者である。

 また、海外観光客を日本に呼び込もうというVJC(ビジットジャパンキャンペーン)も奏効して、沖縄を訪れる外国人客も増えている。昨年は台湾のクルーズ船が運休したために半減したが、ゴルフやリゾートを楽しむ国際線航空乗客は前年比約7%増と着実に増えている。

 この成長要因にはさまざまな理由が挙げられ、NHKの「ちゅらさん」の放映後は沖縄ブームといわれるが、その正体はよく分からない。図で分かるとおり、「ちゅらさん」で観光客が増えたという因果関係はない。むしろ、復帰、海洋博という大イベントで観光産業が産声をあげ、海洋博後の一時的な落ち込みがあった1977年までの黎明期を除いて、1978年以降、観光客数が毎年着実に伸びていることをみると、沖縄ブームは30年前から継続しているといったほうがよいと思われる。

 そしてこの30年間、一貫して沖縄観光につぎ込まれたのは、受入体制充実のための投資である。受入体制とは第一に宿泊施設というハード部門である。これがなければ、基本的に沖縄への旅行客は増えようがない。

 観光客が増えるにしたがって、ホテルが増え、客室が増えるとまた観光客が増えたという繰り返しが沖縄観光の仕組みだったといえる。調べてみると、同じことがハワイやラスベガスなど世界の有力観光地で起こっている。

 沖縄の場合、増えたホテルに観光客をどんどん呼び込んだのは、キャンペーンを張ったり、販売を強化した旅行社と航空会社だった。旅行社と航空会社は地域の魅力を市場に訴求したり、イベントをつくり出すなど流通ソフト面を受け持ち、それによって利益を得た。

 もちろん、ホスピタリティーやサービスは県民が提供して、大きな役割を果たし、引き換えに所得を得た。

 観光客は珍しい風景を見たり、文化に触れたりして心身共にリフレッシュし、癒しや満足を得た。

 その結果、観光産業は県内だけで年間4,000億円を売り上げる沖縄のリーディング産業になった。つまり30年来のブームというよりも、素直に、伸びるための努力を民間セクターと公共セクターがともに継続的につぎ込んだ結果、その通りに伸びてきた、と考えるのが正しいと思う。TVドラマや映画は長期的な観光産業の取り組みに対して、一時的なブームを造り、観光産業の追い風になったのだ。 

土台となった社会資本の充実

 県民や県内企業、旅行・航空会社は社会的な発言力も大きく、華やかだ。しかし、民間セクターの受入体制を推進・充実させたのは、本当は声も出さず、それらの土台になった社会資本の充実であると思う。空港がなければ観光客はここまで増えなかった。道路がなければ海岸沿いにリゾートを造ることができなかった。社会資本が充実することによって、それを活用して民間企業がホテルやテーマパークを造り、域内交通が便利になり、観光客の受入体制が整ったのだ。

 最近では観光立国によって、また国際観光の推進で、美しい国造りのための社会資本整備を推進すべきだという識者の意見がだいぶ増えてきた。外国人客にとって魅力がある国とは、自国民にとっても魅力的な国であるはずだという主張である。

 観光分野で一足先をいっている沖縄の実例を見れば、社会資本の充実が観光産業にとって特に有効であることが分かると思う。国道58号での世界一の大綱挽き、観光客の人気ナンバー1の海洋博公園、世界遺産となった首里城、伊計島にかかる海中道路などは観光社会資本として、魅力ある国土づくりの見本として、その功績が特筆されるべきだろう。

完全雇用まであと一歩

 観光産業は大きくなったが、まだまだ伸びると筆者は考えている。JTBが毎年はじめに公表する旅行市場の年間見通しによると、1泊以上の旅行に出かける日本人は延べ3億5,000万人の規模である。この中には海外旅行、ビジネスや公務なども含まれるが、沖縄の観光客数もビジネスや公務を含んでいて、比較可能な数値である。すると沖縄観光565万人というのは全体のわずか1.6%のシェアしかない。

 観光立県というからには5%程度、2,000万人前後のシェアをとってもおかしくないと思われる。さらに気候が異なり、観光需要が大幅に拡大している台湾、韓国、中国と結べば…。

 実際には観光客が増大する過程でこれ以上受け入れられないという限界が来るものと予想される。その状態になったのが、全米最低の失業率を実現した現在のハワイだと筆者は見ている。ハワイの例から観光産業が限界になった状態とは、これ以上開発する場所がない、という自然保護派の人たちが心配する状態ではなく、労働力不足となった状態ではないかと考えている。

 沖縄観光が限界になる時期は観光客1,000万人を迎え、現在の観光消費の波及効果がもたらす雇用7万人が倍増する頃だろう。10年で観光客1,000万人を公約にした知事が登場したが、公約が実現する2016年頃には観光産業は、失業の解消という最終目的を達するのではないか。もし、観光客が1,000万人に達してもまだ完全雇用とならないなら、次の1,500万人を目指すことになる。その間に完全雇用に達したなら、もはや観光産業は所期の大きな目的を達成し、それ以上伸ばす必要はあまりなくなるわけだ。

 しかし、県内観光事業者の中に10年後の1,000万人実現は困難だと見る有力者は多い。その根拠もまた、空港や主要道路の渋滞対策などインフラの整備が間に合いそうにないから、というものがほとんどだ。現実に那覇空港の混雑は激しいものとなっており、道路の渋滞にも観光客からのクレームが多く寄せられている。つまり、観光事業者も観光の発展には社会資本整備が最も重要であると明快に認識している。このような不安を払拭し、観光産業を停滞や後退といった損失が発生しないよう効率よく伸ばすた めにも開発スピードを加速する必要がある。

 10年後の観光客1,000万人到達までに普天間飛行場を含む嘉手納以南の米軍基地1,500ヘクタールが返還される予定だ。返還予定地の多くが観光産業を取り入れた再開発プロジェクトを計画するものと見込まれており、観光産業の受入能力はどんどん高まると予想される。

 沖縄はまだまだ開発途上であり、民間セクターも公共セクターもこれからやるべきことは山積している。観光産業はそれらの充実した社会資本を最大限に活用して発展する極めて有望な産業なのだ。

社団法人沖縄建設弘済会のHP『しまたてぃ』のバックナンバー(PDF)があります。) 


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