沖縄県におけるタラソテラピー事業可能性の検討
(フランス・タラソテラピー業界視察報告)
沖縄振興開発金融公庫調査部、公庫レポート54号から
沖縄公庫融資制度説明会でタラソレポートを
解説する高良氏(1996年7月26日)

沖縄公庫・高良和夫

目次

はじめに
1.フランスにおけるタラソテラピー業界のプロフィール
2.フランスにおけるタラソテラピー施設及び事業概観
3. フランスにおけるタラソテラピー市場動向及び医療保険制度等
4. フランスにおけるタラソテラピー事業の先進事例
5. フランスにおけるタラソテラピー事業成立のための留意点


はじめに

 タラソテラピー「thalassotherapie」は、ギリシャ語のタラサ「海」とフランス語のセラピー「治療」を組み合わせた造語で、1876年にフランス人の医師によって命名され、日本では「海洋療法」と訳されている。1961年には、フランス厚生省により「海水、海藻、海洋性気候、景観の治療効果を治療目的に利用する自然療法」と定義づけられ、海水、海藻、海泥や海辺の自然環境を活用しながら、医師の指導のもとに、リューマチ疾患、骨折等の外科治療のサポート療法等の治療行為を行うことに加えて、最近では、予防医学的な精神と肉体のリラクゼーションやダイエット等の美容目的での利用も増えている。

 タラソテラピーの起源は紀元前500年以上遡るといわれ、紀元前420年以前にはヒポクラテスが温海水浴を提唱する等、ギリシャ、ローマに古くからあったことがわかっている。ローマ帝国の衰退とともにタラソテラピーも衰退していったが、16世紀ごろフランスの国王の皮膚病を海水で治療したことから再び注目されるようになり、19世紀末にフランス初のタラソテラピーセンターがロスコフに建設されたことで現在の基礎が築かれた。

 現在、フランスには大小54の施設がある。その市場規模は約10億フラン(230億円)といわれ、上位の7施設でその70%の売上シェアを占めるといわれる。本報告は、平成8年2月12日から22日にかけて実施したフランスにおけるタラソテラピー業界視察調査の報告であり、本視察調査を踏まえて沖縄県におけるタラソテラピー事業の成立の可能性を検討したものである。

 本視察調査は、フランスのタラソテラピー発祥の地であり、十数カ所の代表的な施設が立地するフランス北西部の大西洋に面するブルターニュ地方を中心として実施した。その内容はブルターニュ地方貿易振興会、ブルターニュ地方観光協会、ブルターニュ地方開発銀行、パリ在の地中海クラブ本部へのヒアリング調査と5つのタラソテラピー施設の視察調査(うち2つは地中海側のモンテカルロの施設とニースの施設を含む)に加えて、2泊3日のタラソ体験と当該施設での広報担当部長によるタラソテラピー事業全般についての2時間余にわたるスクーリングを含む。


1.フランスにおけるタラソテラピー業界のプロフィール

 フランスのタラソテラピー施設は、1980年後半から建設が相次ぎ、現在では全国で54カ所を数える。フランス以外では、イタリア、スペイン、モロッコなどがあり、ドイツとオーストリアはタラソテラピーに似た温泉療法が盛んである。イタリアは英語が通じることもありドイツ人にも人気があり、スペインでは南部のマラガやフランス国境地域に施設が増えている。

 フランス国内では、タラソ発祥地であるブルターニュ地方に多く立地し、スペインと接するバスク地方、そして地中海沿岸のコート・ダジュール等にも立地している。

 近代のタラソ施設は1899年にブルターニュ地方北西部のロスコフで開設されたのが最初である。その後、20世紀前半は戦争等社会の激動期にあってあまり広まらないでいたが、1960年代にはいり再び脚光を浴びるようになった。それは、フランスの有名な自転車競技選手が競技中に事故に遇い、そのケガをロスコフのタラソ施設で治療し、その目ざましい治療効果により、その選手自らがブルターニュ地方の港町ギブロンに施設を建設し、タラソ療法の普及にあたったことがきっかけとなった。とはいえ、国民一般を対象に普及促進・プロモーションに着手したのは1980年代の後半からである。これは、従来の治療目的に加えて、美容、フィットネス、ダイエット、ストレス解消、健康増進、禁煙、出産後の美容などの効能が見直されたことによる。ここ数年は建設ブームである。

 多様化したこれらの効能・機能を反映し、最近ではこれらの各種の効能・機能を組み合わせた施設コンセプトをもつ多様な施設がある。これらの施設コンセプトを大きく分類すると以下の4つのタイプに分かれる。.織薀愁謄薀圈蕊賊 辛袖ぜN鼎鯡榲。▲螢魯咼螢札鵐拭次シルバーセンター/障害者の機能回復訓練及び機能改善を目的。7鮃増進センター/保養・健康回復、体力向上、ストレス解消などを目的。ぅΕД襯優后フィットネスセンター/体力向上、健康維持などを目的とし、予防医学的な面から人問ドック、健康チェック、フィットネス、ストレス解消などの機能を備え、成人病対策やダイエットなどの総合的なプログラムが提供され、エステティックを併設するところもある。

 タラソテラピー施設利用者は通常1〜2週間滞在し、医師の診断のもとに1日4種類の療法・トリートメントを受ける。タラソテラピー治療にはかなりのエネルギーを必要とし、最初の2〜3日は疲労感があり、その効果がでるのはそれ以降になるため、長期に療養が必要とされている。タラソテラピーの効果については諸説あるが、海藻に含まれているヨードの吸収が新陳代謝を調整しながら脂肪の分解を促進し、痩身にもよい効果をもたらすとともに、アミノ酸が皮膚組織を再生構成することから、より多量な酸素の吸収が細胞を活性化させ、栄養を吸収させると言われている。そもそも、人間の羊水中の塩分、ヨード、微量元素が海水と同じと言われ、そのことが治療効果に加えて精神的なリラクゼーションにも効果があり、現代のストレス社会での心身のバランスの崩れからくる各種の疾患を未然に予防する予防医学的な面でもタラソテラピーが注目されている。人口5万人のブルターニュ地方の中心都市レンヌにある都市型のタラソ施設は上記の施設コンセプトの,鉢△良袖ぜN典’修箋’讐麌訓練機能を切り離し、とい侶鮃増進、健康維持等の予防医学的な機能とフィットネスやダイエット等の美容分野にその機能を限定しているが、運営的にも極めて順調な立ち上がりを見せており、タラソテラピーの新規の業態として注目されている。


2.フランスにおけるタラソテラピー施設及び事業概観

 表1(GIF画像51K)はフランス政府観光局が「フランスにおけるタラソテラピー・リゾート」と題し、日本におけるプロモーションのために作成したセールスマニュアルで紹介されている13カ所の代表的な施設・事業の概要を一覧したものである。同表の内容を手掛かりに、ブルターニュ地方の関係各機関でのヒアリング内容を加味し、その施設及び事業の特徴を整理した。

 (1)規模、施設内容について

 フランスのタラソテラピー施設54カ所の施設規模は様々である。主に付帯しているホテルのグレード(星の数)によるが、その他に施設面積、従業員数、提供している療法の数、1日の療法可能人数、開業期間等で分類できる。

 それらのメルクマールを小規模施設(一つ星)と大規模施設(デラックス)について整理すると以下のようになり、その両者の間に中規模の施設がある。

           小規模施設           大規模施設
          (一つ星)          (デラックス)

施設面積    800〜1,000平方m      4,000〜8,500平方m

従業員数        20〜30名          70〜120名

療法の種類      10〜15療法          26〜30療法

1日の療法人数        N.A.          400〜600名

開業期間        8〜9カ月  2〜3週問の補修期間を除き年中

 このように規模の異なる多様な施設があるが、共通しているのはそれぞれの施設がそれぞれの施設コンセプト・グレードに合った各種の宿泊施設を付帯していることである。これは、後述するように経営的な面でも非収益部門であるタラソ部門の赤字を収益部門であるホテル部門が補完するような収支構造となっていることから、タラソ部門とホテル部門は不離一体なものとして運営されている。

 投資規模については、古い建物を改造したり、増築があったりしてはっきりした額はつかめない。ただし、施設の保険料はその年間売上の3倍と評価されているという。ちなみに、都市型タラソテラピーとしてレンヌ市に94年11月にオープンしたアクアトニック施設の場合、総延べ床面積1,500平方m(海水プールと各種の水流プール、フィットネスや美容のための各種器具、サウナ等を備えている)で投資規模21百万フラン(483百万円)、1平方m当たり投資単価14千フラン(322千円/平方m、1,063千円/坪)である。フランスと日本の建築単価の単純比較はできないが、基本的には海水を利用することから、ボイラーや配管、機械が塩分耐性の強いものとなることから高額の初期投資となる。

 (2)立地環境、立地要件について

 表1(GIF画像51K)にみるように、タラソテラピー施設のある地域は、すべて観光リゾート地である。城壁に代表される歴史的な観光地、ホテルの林立するリゾート地、ヨットハーバーに面した大規模保養基地等である。ゴルフ場やヨット施設等と同様に、それらの観光保養地域のリゾート関連施設の一つとしてあり、それらの観光保養地の魅力を演出する重要な自玉施設となっている。

 フランス観光委員会の援助を受け、ブルターニュ地方のタラソ事業者とブルターニュ地方観光委員会は、同業者協会として「ブルターニュ地方タラソテラピー協会」を全国ではじめて結成した。その協会では施設に関する憲章を策定し、次の5つの基準を満たすものを協会への加入条件としている。

 ヽご澆ら300m以内に設置し、海を望む景観を持つこと。

 ▲侫薀鵐晃生省の基準を満たす清潔な海水を確保すること。

 十分な量の海水を確保し、頻繁に交換させ新鮮な海水を使うこと。

 せ楡澆砲郎把1箇所の海水プールを設けること。

 ズ把4種類のケアが受けられるプログラムを準備すること。

 図1(略)は同協会に加盟しているブルターニュ地方の10箇所の施設の立地図である。ブルターニュ地方は大西洋に面する半島でメキシコ湾流の影響で比較的温暖な気候と美しい海岸を持つことから、古くからフランス有数の観光リゾート地であり年間1,000万人余の観光入域客があり、980箇所のホテル(約25,000室)の他に貸別荘等が立地している。タラソテラピー施設の立地している他の地域、バスク地方や南フランスのコート・ダジュール等も同様の大規模観光保養地域である。

 (3)サービスの内容について

 ブルターニュ地方の協会に加盟している11施設のうち、医療療法を専門としている施設は2施設で、残りの9施設については、医療治療に加えて健康増進や美容等のサービスを提供している。

 表1(GIF画像51K)にみるように、フランスの代表的な夕ラソ施設13施設のサービスの内容も従来の医療を専門とする施設は少なく、痩身・美容、予防医学、心身のバランス調整、産後回復等の新しいサービス分野を施設コンセプトとしている施設が多い。これらの新しいサービス分野が広く国民一般に支持されたことが、ここ数年のタラソ施設の建設ブームの背景となっていることは先述したが、中でも例えば、ポルニシェのように自然基礎化粧品研究の草分け的存在と言われている大手化粧品会社直営の施設で、オリジナルの化粧品を便ったエステコースをその施設の目玉商品としている施設や、シャン・ジャン・モンのように予防医学を重視し、心身のバランス調整に東洋のヨガ等をとりいれている施設もある。

 表2(GIF画像26K)は具体的なサービスプログラムの内容を一覧したものである。一般的には手順として、チェックインのあと問診表を提出し、センター専属医師の診断を受ける。その問診表の内容は、病歴、ストレス、内分泌と栄養、癌、家族の病歴、特に受けたい検査等である。専門医師の診断に基づいて療法カルテが作成される。通常1日4つの療法(それ以上になると疲労となり効果が薄れる)が施され、1つの療法の所要時間は約20分、待ち時間はプールで泳いだり読書したりして過ごす。ほぼ半日で治療が終わることから、残りの半日は観光等で過ごす。

 通常1〜2週問の滞在をもとにプログラムが設定されているが、最近では「ウィークエンドタラソ」、「体験タラソ」、「ゴルフタラソ」等のメニューも増えている。

 (4)運営体制について

 表2(GIF画像26K)の具体的なサービス内容に見るように、タラソテラピーは基本的には客へのマンツーマンのサービスが基本である。加えて医師のセラピーに基づく個別的な処方を行うことから、専門的な技術を有する多くのスタッフを必要とする高度でかつ労働集約的な事業である。

 30年の業歴を有し、フランスのタラソ施設を代表するサン・マロのセンターを例に、その運営体制を概観すると以下のようになっている。サン・マロの施設の年間の利用者は約11,000名、1日の最大利用人数450名に対し、現在、以下の内容のスタッフ66名で運営している。

 医師4名(この内、専門医2名、一般医2名)。

 運動療法士12名(3年間の専門学校卒業後国家資格取得)。

 海洋療法士30名(16日間の研修期間、国家資格なし)

 看護婦1名、栄養士1名、受付・企画・一般事務等7名、医療事務5名、機械・設備補修等6名。

 その主な人件費(月額)は社長を除いて一番高級のスタッフで3万フラン(69万円)で最低は6,400フラン(14万7千円)、最高と最低の格差は約5倍。運動療法士は1.1万フラン(25万円)となっており、海洋療法士は初任給6,400フランで6年後に8,000〜11,000フランになる。なお、海洋療法士は国家資格がなく基本的には施設内の研修で育成している。現在、商工会議所と協力して公的な資格付与を検討しているが、運動療法士の資格との関連で難しい間題があるという。また、機械、設備補修要員には船舶の補修技術の応用が容易なことから海軍の出身者が多い。

 タラソテラピーセンター運営のポイントは次の点にあるという。

 その第一は、その道のプロが経営していること。場所の選定、マーケッティング調査、保険の活用の仕方等に精通していることが必要である。

 第二は、従業員がかなり高度な訓練を受けていることがこの事業の成否を大きく左右する。

 第三は、固定客、とりわけ高級客層を多く抱えていることが必要である。タラソテラピーはかなり高いものと認識されているので、下支えするシステムを確保することが必要である。例えば、相互補助制度や会社の中の従業員補助制度等。

 第四は、設備については医療とともに余暇の面も重要であり、設備水準を維持するために更新投資を怠らないことが肝要である。

 第五は、タラソの周りに高級ホテル、安いホテルを同時に確保し、バリエーションのある宿泊施設を確保することが必要である。最後に、タラソははじめから完璧でなければペイしない。オープンしてすぐ稼働率が高くなければダメになる。

 (5)営業状況について

 (4)と同じくサン・マロの施設を例に、タラソテラピー事業の営業状況を概観すると以下のようになる。

 〕用者数は年間11,000〜12,000人で、フランスでも有数の利用者数である。1人当たり平均6.2泊しており、成績の良い年には80,000人泊の延宿泊者がいる。1人当たりの平均ケア数は3.35回/日である。10年前はタラソ利用者の70%が治療目的で、30%が医療以外のフィットネスやリラクゼーションが目的の利用者であったが、現在ではその比率が逆転している。現在でも医者が4名常駐しており、タラソテラピーの医療センターとしてはフランスでも最も充実している施設であるが、上記の客層の変化に対応しマーケッティングの重点も医療以外の分野に移してきている。

 ▲侫薀鵐垢任魯織薀修蝋駝韻侶鮃問題で特別な役割があると位置づけられ、例えば、生活パターン、ストレス解消、食事療法、体力増進、睡眠等健康に関する生活全般のアドバイザーとして役割を期待されるようになっている。その結果、サン・マロのセンターでは45%の利用者がリピーターである。(2年くらいは別のタラソにいくが、6〜8年の間に4回ほど同センターに戻ってくる。)

 表1(GIF画像51K)に見るように1人1日当たりのケア料金(宿泊は含まない)はどのセンターも概ね同額であり、3ケア/1日440〜460フラン(10〜10.5千円)、4ケア/1日490〜510フラン(10.7〜11.7千円)である(6日間利用するとその6倍となる)。但し、タラソ施設のグレードは付帯するホテルの星の数によっている。

 で箴綛睫100百万フラン(23億円)の内訳は、タラソテラピー部門40%、ホテル部門60%である。タラソテラピー部門の内25〜28%がケア料金のみの売上であり、残りはタラソテラピー商品(オリジナル商品を開発)及びショップでの売上である。

 ソ抄醗はハイシーズン(5月〜1月)はパートを含め360人(部屋数187室で1.93人/室)で、オフシーズンは同330人(1.76人/室)である。60%がホテル、レストラン部門の従業員で、タラソ部門は25〜28%である。一般にタラソ部門はマンツーマンのサービスであることから、同部門の売上の40〜43%が人件費であり、最近の不況時にあってサン・マロの場合46〜51%を人件費が占めている。従って、タラソ部門は部門別の収支計算ではとても採算のとれる部門ではなく、あくまでも収益部門であるホテル、レストラン部門の集客を図るための施設である。フランスの他のタラソテラピーセンターも同じ収支構造にあり、それぞれがホテル部門を付帯しているのはそのためである。


3.フランスにおけるタラソテラピー市場動向及び医療保健制度等

 水を使った療法には大きく分けて2つの種類がある。一つは温海水を便用して行うタラソテラピーであり、他の一つが真水・温泉を活用して行う温泉療法である。歴史的には温泉療法の方が古く、1600年代に当時の王様がその効力について認識し広く領民にその活用を勧めたのがはじまりといわれ、以来400年の歴史があるのに対し、海洋療法が一般化したのはほんの10数年前である。

 また、海洋療法と温泉療法はその市場規模が大きく異なる。海洋療法のフランス全土の利用者数が15〜18万人にとどまっているのに対し、温泉療法は68〜75万人と海洋療法の約4.5倍の市場規模を有する。その両者の市場規模が大きく異なる理由は何なのか。我が国でフランスのタラソテラピーを語る場合、そのタラソ市場を育成する制度的な大きな柱として、フランスの医療保健制度の制度基盤が整備されていることが日本の保健制度との比較において話題とされることが多い。しかし、今回の視察調査で明らかになったのは、フランスの健康保健制度が手厚く保護しているのはタラソテラピー(海洋療法)事業ではなく、もう一つの温泉療法であり、このことが両者の市場規模の大きな格差となっているということである。その両者の市場環境の相違を整理すると以下のようになる。

 まず第一は、医療保健の対象となる費用項目の違いである。タラソの場合はその対象となるのは1日1治療に限られ、1日4ケア490〜510フランの料金のうち医療保健から補填されるのは60〜110フランであり、しかも、その治療項目も運動療法士によるリハビリに限られている。他方、温泉療法については、治療日数は21日と長期問を必要とするが、治療費のみならず宿泊、食事、交通費など(金額の制限はある)が対象となる。その結果、タラソの場合、利用者の30〜40%だけが保健請求を行い、金額的な補填の対象となるのが治療費の3〜4%に止まるのに対し、温泉療法の場合相当広い費用項目が医療保健の対象となり、温泉療法に補填される医療保健の金額は年間で10億フラン(230億円)にもなる。これは、フランスの54箇所のタラソテラピーセンターの全売上額に匹敵する額である。

 第二は、両者にかかる消費税率の違いである。タラソにかかる消費税率が20.6%に対し、温泉療法は5.5%であり、大きな格差がある。タラソの業界は、最近になってこの消費税の格差の是正について、政府へ要請を強化しているという。この両者の市場環境の違い、いわゆる制度的・政治的な保護育成環境の違いは何処からきているのか。温泉療法の立地する地域はその殆どが山村地域であり、産業振興上の低開発地域である。温泉療法は400年間の古い業歴をもち当該地域産業の目玉として保護護育成されてきた歴史があり、経営の実体も地域の市長や町長等の有力者が出資者であることから、当該業界をバックとする圧力団体としての全国的な組織化が図られ、政府へのロビー活動等活発である。まだ10数年の業歴のタラソとの制度的・政治的な環境の違いが、両者の市場規模の違いの背景にあるといわれている。


4.我が国におけるタラソテラピー事業の先進事例

 国内での先進事例としては三重県鳥羽市浦村町に平成4年8月にオープンした「タラサ志摩」が代表的な施設である。その事業概要は当公庫調査部調査資料等によれば以下のとおりである。

 立地環境としては三重県のサンベルトゾーンの海水のきれいな海岸で、近くに川がなく人工水による汚染がない場所に立地している。施設内容は概観からは一般のリゾートホテルと同じで鉄筋コンクリート造、地上5階・地下2階、延床面積17,000平方m、うちホテル施設13,700平方m、タラソ施設が3,300平方mで総事業費150億円である。

 ホテル施設は122室で、飲食施設としてタラソレストラン90席、和食レストラン90席、バー・カフェ70席を有し多目的ホールも備え、売店やアートギャラリーもある。これらは全て一般的なリゾートホテルの施設内容であるが、「タラサ志摩」の特色は付帯する約1,000坪の本格的なタラソテラピー施設を有していることである。

 この施設の事業コンセプトは、フランスのエコール社が経営するブルターニュ地方のディナールのタラソセンターとの技術提携によって建設されたことから、サービスの内容及び施設内容は基本的にフランスの本格的なタラソセンターとほぼ同一である。そのサービスメニューは多種多様な内容があり、施設内容もバブルバス室、水中シャワーマッサージ室(6室)、ジェットシャワー室(4室)、アルゴテラピー室、アフュージョンシャワー室、手浴・足浴室、プレシオテラピー室、マッサージ室(8室)、リラクセーションプール、エアロゾル室、ジェットプール、ジムナジアム、ダイナミックプール、サウナ室、サンルーム・デッキ、レストルーム等多種多様である。沖合730メートルから海底ラインで施設まで海水を引き込み、タラソ客1人に約1トンの海水を使用するという。

 総事業費150億円の投資額は122室のリゾートホテルの1室当たりの投資額で1億2千万円になり、ホテル部門の投資の他に、タラソ部門の投資負担の大きいことがわかる。ちなみに、沖縄県で現在建築中の400室規模のリゾートホテルの総事業費が125億円で、1室当たりの投資額が3千万円程度であることと比較すれば、その投資負担の大きさがわかる。

 従業員についてもタラソ部門だけで50名、宿泊部門の従業員を加えると200名になり、1室当たり1.64人/室と沖縄のリゾートホテル1室当たり従業員数0.8〜1.0人/室と比較すると極めて人手のかかる施設運営となっている。

 利用料金については、東京発航空機利用の大阪着、シティホテル1泊、タラサ志摩2泊の3泊2朝食、2夕食付でオフシーズン83,600円、オンシーズン126,800円、フリーでの1泊2日の料金は29,000円〜33,000円と割高感がある。

 開業1年目の利用状況は客室稼働率が70%、タラソ利用者57,000人で宿泊客の80%が利用した。客層は女性が79%で、年齢的には20代が44%、30代19%、40代以上が37%を占めた。滞在日数は1泊2日が60%、2泊3日が29%、3泊以上が11%となっており、短期滞在体験型が主流を占めている。地域別の客層では関西40%、中部地域40%、関東15%、その他5%と近隣地域からの利用が主流となっている。

 今後の課題としては、ハード面については特にないが、ソフト面特に医療関係のソフト面の強化と、公的補助(健保、組合負担等)の拡充を各方面に働きかけていきたいとしている。


5.沖縄県におけるタラソテラピー事業成立のための留意点

 フランスのタラソテラピー業界を立地環境やコンセプト等のハード面、サービス内容や運営体制・事業採算等のソフト面、医療保険制度等の制度面からその内容を概観し、我が国の先進事例としての志摩のタラソテラピー施設の現状についてみてきた。

 これらの調査結果を踏まえ、沖縄県におけるタラソテラピー事業が成立するための留意点を整理すると以下のようになる。ただし、ここで想定しているのは現在沖縄県が施設建設にむけた可能性調査を行っている公的セクター運営による施設ではなく、民間セクターによって収益事業として運営される事業を前提にしている。

 (1)リゾートホテルの付帯事業としてのタラソ事業

 フランスのタラソセンターは単独で立地している施設はない。それは2つの面でいえる。第一に立地している地域の要件である。タラソ施設はすべてフランスの代表的な観光保養地域に立地し、地域全体のもつ観光保養地域としての入域客に依存した集客構造になっている。第二はタラソセンターはすべてホテルの付帯施設となっており、タラソ事業が収支面で自立した部門になってなく、収益部門であるホテル部門に依存した内容となっている。

 沖縄県は我が国で有数の観光保養地を形成しており、タラソ施設の地域的な立地環境としては沖縄県への入域客を対象とすることができ最適といえる。課題は収支採算面の課題である。タラソ事業が自立した事業でなく、ホテル事業に付帯しなければならない事業であることから、沖縄県においてタラソ事業が現実的に成立しうる事業形態としては、既存のリゾートホテル事業者がその付帯部門としてタラソ施設を建設するか、新規のリゾートホテル事業の中に目玉となる付帯施設としてタラソ施設を建設することである。

 (2)沖縄観光リゾートの市場特性にあった事業コンセプト

 沖縄観光リゾートの市場特性にあったサービスの内容及び施設内容はどうあるべきか。

 大きく2つのコンセプトが想定される。その一つは、三重県の志摩における我が国の先進的なタラソテラピー事業がフランスのディナールのタラソセンターとの技術提携によりフランスのサービス内容、施設内容をそのまま導入したように、医療部門をふくむ多種多様なサービス内容と多様な事業内容とすることである。二つめはまったく反対に、施設内容を必要最小限の整備にとどめ、サービス内容も医療部門を切り離し、美容やフィットネス分野のサービスについてもできるだけ客自身で行えるメニューにし、設備投資負担と人件費負担を少なくしたよりシンプルな事業コンセプトにすることである。

 沖縄のリゾートホテル業者が整備する施設を想定すれば、以下の理由により後者のシンプルな事業コンセプトが沖縄の市場特性にマッチしていると思われる。

 その理由の一つは、海外の類似リゾート地との競合により低迷している沖縄観光市場を活性化する一つの方策として、タラソを中核施設とした健康・美容分野の新規サービスの構築が課題となっていること。これを実現するために既存のリゾートホテル事業者が容易にタラソ事業に参入するには、投資負担を最小限に抑え、運営体制の確保が容易な事業コンセプトで参入することが事業採算上間題が少なく市場環境の変化に対応がしやすいこと。

 二つめは、沖縄の観光リゾート市場が旅行エージェントに大きく依存した集客構造になっており、基本的には3〜4日の短期滞在型の市場となっていることから、フランスのタラソテラピーのように本格的な効果を確認するのに1週間以上を要するような医療分野を含む本格的なサービスの内容では、沖縄県の短期滞在型の市場特性とのミスマッチをおこす可能性が大きいこと。

 三つめは、沖縄のビーチリゾートそのもが本土の温泉地にないファッショナブルでお洒落な空間であり、本来のタラソセンターに求められている多くの機能をすでにもっていることから、県内のリゾートホテルのもつこれらの施設資源にタラソのもつ幾つかのファッショナブルな機能を加えるだけで、沖縄リゾート市場の差別化が可能であること。もちろんそのためには温泉地の浴衣に宴会とは違う雰囲気づくりのためのフッション性の管理、グレードの維持のためのルールづくりが欠かせない要件になる。

 四つめは、運営体制確立にかかわる問題である。フランスのタラソ運営のポイントはその道のプロが経営し、かなり高度な訓練をうけた従業員を抱え、高級層の固定客を持つことがタラソテラピー事業成功の基本的な要件であるという。これは一朝一夕に確立されたノウハウではない。三重県の志摩のタラソ施設はフランスとの技術提携によってそのノウハウを導入した。その技術提携にはフランスのスタッフの派遣と日本のスタッフのフランスでの実施研修も含んでおり、フランスの施設及びサービス内容の100%のコピーを前提としている。そのための開業費負担を勘案すると沖縄のリゾート業者が付帯事業として行なうには負担が大きい。また、上記の二にみるように、フランスと沖縄の観光リゾート市場には構造的な違いがあり、フランスのような本格的なタラソのサービスとのミスマッチが懸念されることを勘案すれば、沖縄におけるタラソ事業の成功のためにはよりシンプルに、具体的には医療スタッフを切り離し、県内で十分確保できる美容やエステ、フィットネス等の最低限のスタッフの確保にとどめることが肝要であろう。

 五つめは、事業のコンセプトの拡張性の問題である。フランスで確立された事業コンセプトはフランスの歴史・文化・風土の中から確立された事業コンセプトである。沖縄が今必要としているのは、健康・美容分野の新規サービスの構築による沖縄観光リゾート市場の再活性化であり、フランスで確立されたタラソ事業のコンセプトを100%コピーすることではなく、国民の健康・美容分野の潜在的なニーズをターゲットに、沖縄観光リゾートの基盤のうえに、沖縄のもつハード、ソフトの資源を活用し新規の産業分野として育成振興することである。これらの広がりのある多様なサービスを創造するためにも、その骨格となる施設やサービスはできるだけシンプルにし、試行錯誤の中から沖縄の市場にマッチしたサービスを充実していくことが、より広がりのある内容となるであろう。

 (3)沖縄県で成立可能なタラソ事業の施設イメージについて

 上記(1)及び(2)を踏まえて沖縄県で成立可能なタラソ事業の施設イメージを描くと以下のようになる。

 〜缶魅ラス張りの屋外型の海水プールが基本的な施設となる。沖縄海浜リゾートの開放的でファッショナブルな施設コンセプトを主張するには、海浜の景観を取り入れる必要があり、冬場も利用可能なようにガラス張りの空間があることが望ましい。その中にジャグジーや各種の水流システムを組み込めば、タラソの基本的なコンセプトは確保されたことになる。

 ▲侫薀鵐垢離織薀愁謄薀圈嫉楡澆砲蓮△修梁召法嵜綯罐献Д奪班侫廖璽襦廚筺屮献Д奪肇轡礇錙璽襦璽燹廖◆屮泪奪機璽献襦璽燹廖◆岾ち療法(アルゴテラピールーム)」、「足浴・腕浴ルーム」や「人工日光浴ルーム」等多種多様なサービスを行う施設を備えている。これらの施設に共通するのは、全て運動療法士や海洋療法士がマンツーマンで医師の診断に基づいて作成された療法カルテにそった木目細かいサービスを行っていることである。これらの本格的なサービスの提供の困難さについては前述したとおりであるが、沖縄におけるタラソ施設にあってはこれらの専門的な分野のサービスを切り離し、シンプルなサービスに限定するのが肝要であろう。

 なお、,了楡澆里澆鮴鞍し、△了楡澆鬚垢戮得擇衫イ垢肇織薀愁謄薀圈嫉業として手薄な施設イメージとなることは否めない。そこで、,了楡澆鵬辰┐騰△遼楹陛なタラソテラピーらしいマンツーマン的な木目細かいサービスを行う設備を加えることで、,了楡澆亮蠻な施設イメージをカバーできる設備がある。

 これは、「ウォーターマッサージ水流風呂」である。基本的にはマンツーマンのサービスではないが、箱型の水流風呂で相当強力な水流でマッサージのメニューにそってプログラムされた水流マッサージを行う設備である。コンピュータ制御された多種多様な強力な水流によるマッサージであり、コイン投入システムとし客自らがメニューを選択して利用できるようにし、海水プールの周辺に設置すれば、,了楡澆里澆亮蠻感がカバーできるであろう。

 また、海藻パック等のエステ部門については、独立採算的な部門として施設に併設することでより多様なサービスが可能となろう。

 ぐ幣紊澆討たように、沖縄県におけるタラソテラピー事業については、その先進地であるフランスの事業を100%コピーする必要はなく、沖縄の市場にあった多様な独自のサービスが創造されることが肝要である。海藻の活用に加えて、沖縄に豊富にある薬草を活用したサービスの創造や東洋医学的なサービスの提供等、沖縄のあらゆる資源やノウハウを活用し、広がりのある産業分野として育成することがより重要である。本場フランスにおいてもタラソのサービスは日々新しい分野の開拓がなされており、沖縄観光リゾートの基盤のうえにメンタルな面も含めたサービス技術を創造していくことがより重要である。(了、ヒアリング結果の概要(ヒアリング全記録を別掲)、調査スケジュール、調査企画書を省略しました。)