海外リゾートとの競合は変革の好機


週刊トラベルジャーナル94年3月14日号より

沖縄観光速報社・渡久地明


 首里城の朱塗りの建物と赤瓦が青空に映え、その中で繰り広げられる王朝の物語…異国情緒あふれる伝統と文化。これが昨年の沖縄のイメージであった。これまでのビーチリゾートに新しい切り口が加わり、沖縄需要全体を底上げしたといっても過言ではない。実際、国内旅行が低迷するなか、沖縄への旅行客は着実に増加したからである。

観光客数は微増ながら過去最高に

 九三年の沖縄への入域観光客数は過去最高の三百十八万六千八百人(前年比一・一%増)となった。内訳は国内客が二・〇%増の二百九十五万三千二百人、外国客が一二・五%減の十七万三千九百人で、外国客の落ち込みが全体の伸びにさらにブレーキをかけたかたちである。この二%増の要因はどこにあったのか。この分析を中心にして昨年の沖縄を振り返ってみたい。

 増加要因には第一に首里城の完成、第二にNHK「琉球の風」の放映が追い風となる状況であった。第三に関西方面で旅行社四社が合同で沖縄キャンペーンを張ったことが挙げられる。第四には大型ホテル開業による客室の供給力の増加があった。第五に沖縄商品の価格引き下げの効果が大きかった。

 これに反してマイナス要因としては、まず円高、航空座席の供給減による外国客の大幅な減少、第二に海外旅行の価格引き下げによる競争の激化が挙げられる。これらがどのように沖縄に影響したかを詳しく見よう。

93年のパンフ飾った首里城オープン

 国が三百億円をかけて建設した首里城が九二年十一月三日にオープンした。九三年十月末日までの一年間の入場者数は二百十七万八千三百二十八人を記録している。ただし、この実績のうち二割前後は県内客で占められるものと見られる。

 首里城の開業はマスコミ各社でニュースとして取り上げられ、沖縄の露出度を高めて大きなPR効果があったものと見てよい。写真集はもちろん、旅行社各社の沖縄パンフレットの表紙を飾った。商品化しやすい材料を旅行業界に提供したわけだ。旅行社各社の商品でも必ずといっていいほどコースの中に取り入れられ、一番人気となっている。たとえば、JTBエースは二十二点の旅行企画のうち十九点で首里城をコースに組んで他の観光施設を引き離しトップである。ちなみに二位以下は琉球村の十七点、琉球ガラス村の十六点、ひめゆりの塔の十四点と続く。

琉球の風で商品を造成

 首里城とセットで九三年は琉球文化が大きくクローズアップされた。NHKの大河ドラマ「琉球の風」が放映され、王朝文化に注目が集まった。

 しかし、視聴率は全編を通じて二割前後と振るわなかった。特に沖縄県内からは不評であったが、全国的にはそれなりのインパクトを与えたものと見られる。

 旅行社にとって、「琉球の風」はまさに追い風であり、商品企画で充分に反映された。琉球王朝や琉球文化の薫りがする首里城、尚家の庭園「松山御殿」、琉球の風撮影の舞台となったスタジオパークに人気が集まった。

 年初から旅行社各社は沖縄に販売担当者を大量に送って琉球文化の吸収につとめ、四月からの新商品の発売に備えた。この戦略は当たり、たとえば九二年十月開業のスタジオパークの入場者数は一年間で八十万人前後となった。

成功した関西での合同キャンペーン

 不況の影響が九二年十月頃から旅行業界にも顕著に現れ始め、各社が事前に手を打ったのが幸いして観光客数は微増となった。たとえば、関西ではJTB、近畿日本ツーリスト、日旅、東急観光の各営業本部が合同で沖縄キャンペーンを張り、テレビスポットを三月から集中的に流して需要喚起に注力した。四社が合同で一つのディスティネーションをキャンペーンするのは初めてのケースだった。キャンペーンイメージはNHKの「琉球の風」の放映と首里城のオープンを機に琉球王朝文化で視聴者に切り込むというものである。

 この結果、昨年一年間に関西方面から沖縄を訪れた観光客数は六十四万九千人(四・一%増)と全体の伸びの二倍の実績を残した。主な地域別では東京が百十七万九千二百人(〇・二%減)、福岡が四十一万五千七百人(〇・五%減)、名古屋二十五万二百人(三・六%増)、鹿児島十六万千人(四・二%増)などとなっており、東京、福岡の大都市圏が減少したのと好対照を見せている。

 もちろん各社とも独自の対策を立て、沖縄送客に力を入れた。特に下期からは旅行商品の価格を引き下げ、割安感を強調した。

客室の増加で質も向上

 地元沖縄での競争は激化していた。四月に那覇市内に四百十九室の大型ホテル「ロワジールホテル沖縄」がオープン。ゴールデンウィークに合わせて沖縄本島西海岸の恩納村には五百五十六室の「リザンシーパークホテル谷茶ベイ」がオープンした。

 ロワジールはオーナー制のホテルであることから、当初オーナーを中心にサービスの訓練を積み、徐々に旅行客のシェアを増やすという方法で軟着陸を図った。

 一方、リザンはオープニングキャンペーン価格を設定して大がかりな集客を行い、知名度を上げた。

 九三年の沖縄のホテル界のトピックスはこの二つのホテルの開業である。那覇市内、恩納村ともに既存ホテルは稼働率の低下を余儀なくされる。

 結果として低価格競争に拍車がかかった。もともと、九三年は前年から旅行業界全体のマイナス成長も予想され、各社が厳しく仕入れ価格を調整していた。前年の九二年が好調であったことに加え、沖縄では不況の影響が半年遅れで出てくるといわれる。そのため、県内ホテルは強気なところも多く、値下げに応じないところがあったのだが、新ホテルの開業は一気に県内ホテル界を価格競争の渦に巻き込んだ。リザンはファミリー用の客室を使い、四人で一部屋を使用してもらうことによって一泊四千円前後のレートで部屋を提供したといわれる。

 これは那覇市内の高級ホテルにも波及し、夏以降、思い切ってダンピングした客室が登場した。

 ホテル客室稼働率は沖縄観光速報社の調べでは九三年は一月を除いて軒並み前年割れとなった。

 特に那覇市内は五月から前年割れの幅が三・八ポイントと開きはじめ、六月、七月には一〇ポイント以上のマイナスとなった。

 西海岸リゾートも六月、十一月に一〇ポイント以上のマイナスとなり、その他の月も厳しい状況であった。

 とはいえ、この価格競争のおかげで旅行商品の価格が下がり、入域観光客数がアップしたわけである。

 

前年割れ回避の決め手はやはり「値下げ」

 沖縄県内の観光関連業界で、雲行きがおかしいとはっきり自覚されたのは三月頃であった。それまで沖縄観光は順調に伸び続け、九三年一月には前年比八・九%増と大きく伸びた。二月に四・〇%減となったが、前年の二月が閏年で一日長かったこと、旧正月の一月へのずれ込みで、この時期急増する外国客が減少したためなどと解釈された。ところが、三月に二・七%減、四月に回復して五・三%増、五月に二・四%増、六月に一・三%増と半年の結果は累計で一・五%増の微増となった。沖縄県は九三年は四・七%増の年間三百三十万人を目標としていたから、この目標が過大に見えるようになってきた。

 六月、(社)沖縄県観光連盟は大手旅行社七社、航空会社四社に緊急に面談し、下期の見通しを聞いた。結果は、路線を拡大したエアーニッポンを除いてすべての旅行社、航空会社が前年並みか前年割れの見通しだった。

 JTBは「下期の集客は予想がつかない。前年並みは確保したい」。

 近畿日本ツーリストは「とにかく沖縄はこの不景気と海外の競争で厳しい戦いになりそう」。

 日旅は「前年を下回る可能性がある」。

 東急観光は「料金を抑え目にする。そうしないとお客様が減る可能性が充分にある」。

 国内旅行開発は「下期は前年並みのやり方だと一〇%のダウンとなろう」。

 全日空商事は「前年並み」。

 ジェイエイエス商事は「前年並みにいけばいいのかな、という感じ」。

 航空会社は日航が「良くて前年並み」。

 全日空は「前年を上回るべく努力するが、昨年以上に総数を増やすのは困難」。

 JASは「いまの日本の景気からすると、前年並みを維持するということは、実質的に二〜三割の増加と考えるべき」。

 ANKは「前年並みで大幅な増加は期待できない」。

 各社とも前年並みは何とか確保したいという強い危機感にあふれている。

 この結果、下期商品は一斉に値下げが行われたのはいうまでもない。大阪から二泊三日二万九千八百円、東京から同三万九千八百円などの商品がゲリラ的に売り出されたが、商品価格の七割を占める航空運賃が大幅に値下げされたのは、この例を見るまでもなく明かである。実際にはAクラスのホテルを使って四万八千円前後の商品が標準的だったと見られる。航空運賃も大幅に値崩れせざるを得なかったのである。

 しかしこれも低価格化による需要喚起という面で集客に大きく貢献した。

 また、危機感から大田昌秀・沖縄県知事は七月二十六日、東京で日航、全日空、日本エアシステム、エアーニッポン、日本トランスオーシャン航空、JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行、東急観光、名鉄観光サービスの社長らを招いて懇談会を開き、「今後とも沖縄をよろしくお願いします」と頭を下げた。

深刻な外国客のオキナワ離れ

 国内客は厳しいながらも増加したが、大幅に落ち込んだのは外国客であった。外国客の主力は台湾からの旅行客である。沖縄の場合、ジャンボで旅客を運んでいたノースウェストが台北線を運休し、九三年十月二十九日にはグァム線も休止して、沖縄線から完全に撤退した。この影響で台北線は供給が著しく減少。円高の影響もあり、沖縄への外国客が急減した。台湾から沖縄への旅行商品は日本円で三万九千円前後であるが、これと同程度の料金でタイや香港、シンガポールなどへ行ける。円高の日本への需要が大幅に冷え込んだ。九三年の沖縄への外国客数は十七万三千九百人(一二・五%減)と日本全体の来訪外客数の五%強を占め、水準は決して低くはない。しかし、この問題は台湾からの来訪客に限らず、一般に消費者は格安な海外観光地に出かけるという問題と絡んで、不気味に沖縄の将来を予言していると捉えることもできる。

自らイメージチェンジを

 海外との競合も沖縄観光のマイナス要因である。グァムやハワイが安くなった。五万円台のグァムは東京からの沖縄の料金であり、十万円以下のハワイは当たり前となったが、これは札幌からの沖縄ともろに競合している。内容がやや違うが、香港、台北も沖縄と似た価格帯である。価格ではシンガポールも射程にはいるだろう。不況が長引けばオセアニア方面も競合相手となる。

 これに対して、沖縄側は打つ手なしといった状態である。本来ならここで大がかりなキャンペーンを張るべきだが、沖縄側にはそのノウハウがない。

 宿泊業界の中には「新設ホテルを制限すべきだ」という考えさえある。

 以上が九三年のプラス要因とマイナス要因の主なものだが、それぞれが重なり合って伸びたのであり、どれがもっとも大きかったかとは考えにくい。首里城と琉球の風が引き金になったことは間違いないだろう。

 これらの要因の中に、これまでの沖縄のイメージや旅行業界の慣習から脱皮してさらに沖縄が伸びていくタネがあると筆者は考えている。

 たとえば、逆風とされる海外リゾートとの競合を逆手にとって、沖縄の競争相手はもはや国内の他の観光地ではなく世界のリゾート地であるということなどをもっと真剣に認識しなければならない。その観点からさまざまなサービスの手法や開発方法、マーケティング、販売の新しい切り口が求められているのであり、自らイメージを変えるいいチャンスである。

 このような視点から、九四年の新しい動きにスポットを当てて見よう。

物産公社が銀座に進出

 今年三月一日、東京銀座に株式会社沖縄県物産公社のパイロットショップがオープンする。沖縄の県産品を集めた店で、銀座実業ビル一階の約八十六坪に店舗、地下一階には倉庫と事務所を開設する。周辺にはHVBやGVBなど「島リゾート」の日本事務所があるほか、鹿児島、福岡などの類似のパイロットショップがある。店舗面積は最大規模であり、ワンフロアの広さだけを見ると周辺の各県のパイロットショップを大きく上回る。

 取り扱う品目は沖縄県産の泡盛やビール、陶器・漆器などの伝統工芸品、ガラスなどの産業工芸品、食品全般である。沖縄ツーリストの支店も開設し、ホテル組合なども案内業務を行う。

 店舗はリゾート・海浜のイメージで全体を構成するといい、少なからず沖縄観光にもインパクトを与えるものとなることは間違いない。

 面白いのは、物産公社は沖縄県知事を社長にした株式会社である点であり、お土産品的県産品の販売にとどまらず、ゆくゆくは鉄筋やセメントなども含めたオール沖縄産品の販売・流通拠点としていくところにある。すでに福岡に四店舗、近く関西にも出展する。九三年三月の物産公社設立後、目標の初年度売上の十億円がほぼ達成できる情勢となったことも話題になっている。その結果、台湾や香港への進出も射程に入ってきた。物産公社の専務には国際ビジネスで経験豊富な宮城弘岩氏が就任して、現場を担当しており、その手法が注目されている。

 沖縄が旅行で注目され、音楽など文化面では常に話題を生んでいるのに沖縄の産品が現実には手に入りにくいという現状に変化が出てきた。物産公社を中心に各種イベントも開催される予定である。今年の沖縄は物産と観光の両面での相乗効果が期待できることは間違いない。

本格的な観光推進団体誕生へ

 一方、沖縄県は四十年の歴史がある社団法人沖縄県観光連盟と沖縄国際海洋博覧会をきっかけに設立された財団法人沖縄県観光開発公社を合併して四月に新組織を設立させる。両組織はこれまで沖縄観光の立役者として活躍してきたが、両団体の仕事の境目がなくなってきたことなどから、組織を再編強化して効果的な運営を行うというのが主な目的だ。

 現在のところ組織の形態は財団法人とし、人員は七十三人と大がかりな観光推進団体が生まれることになる。

 新組織ではこれまでになかった海外宣伝事務所の開設や、マーケティングなどを専門に行うセクションの新設、航空会社や旅行会社をメンバーにした沖縄観光誘客宣伝協議会などの設置も予定されている。

 新組織については、業界からさまざまな意見があるが、ここでは基本的なことを一つだけ指摘したい。

 それは新組織設立の効果が常に数字で表せるような仕事をしてほしいということだ。これまで、業界団体は「観光客を増やすべきだ」「滞在日数を伸ばしてほしい」といった評論家的陳情を県当局などに繰り返してきた。今年の観光客を五%増やす。そのためにはどんなキャンペーンぺーを打つ…というやり方をいまこそ始める必要がある。滞在期間を伸ばす、消費金額を増やすというような分かりやすい目標設定が必要だろう。こういった施策は各国の政府観光局などでは当たり前になっているのだが、沖縄を始め国内の観光団体ではあまり見られない。業界の親睦団体や自治体職員の天下り先になり下がっているのが実状だ。そのためには組織形態そのものを株式会社にして常に成果が明らかになるような努力をすべきであろう。前述の物産公社はいい参考になる。

 とはいえ、新組織は従来の予算を大幅に上回って活用できる団体となり、スタッフの拡大などから、これまで以上の活動が展開できることが期待されており、九四年の沖縄観光の最大のビッグイベントになることは確実である。

関空オープンは「プラス要因」

 「当社は関西新国際空港と石垣を結ぶ路線に大きな興味を持っています」と年頭の記者懇談会で合田正彦・JTA取締役は述べた。

 沖縄での関西新国際空港に関する具体的な発言はこれが唯一のものであるようだ。

 旅行社各社は関西からの国際線が充実し、景気動向から格安の海外旅行が売り出されると、沖縄とはますます競合が激しくなりマイナス成長となるのではないか、との見方が多い。

 一方、JTAのように積極的に関西新国際空港を活用しようとの動きもあるわけだ。

 確かに、国際線の充実によって競争が激化し、特に関西方面から沖縄への旅行客が減少する可能性がある。

 しかし、全く逆の見方もできる。これまで沖縄が海外旅行客の伸びと同時に伸びてきたという実績がある。海外旅行が好調なら沖縄も伸び、不調なら沖縄も伸びにブレーキがかかった。海外旅行が伸びるとそれにつられて沖縄旅行も伸びる傾向があるのである。湾岸戦争のマイナスは不思議と沖縄にも影響した。

 これは不況時に安・近・短の国内の観光地が注目されることに明らかに反している。沖縄は海外的要素がまだ強いのだ。

 それに加えて航空会社や旅行社各社が海外部門と国内部門をはっきりわけている点もプラス要因だろう。国内も海外も扱う航空会社や旅行社は、海外も国内もそれぞれ売らねばならず、国内ではまだ沖縄は利益率が高いのである。表は九三年度上半期の航空各社の中間成績から制作した国内主要路線の動向だが、沖縄の強さが改めて分か る結果になっている。二ケタ台の大幅な前年割れはないものと見られる。

新規施設今年も続々

 新たな商品も続々造成されている。その中でも今年中目されるのは、日航グループが開発している沖縄本島西海岸の「ホテル日航アリビラ」だ。読谷村に四百室の新しいリゾートホテルが六月二十七日にオープンする。

 開業準備室の桃原喜三・準備室長はこれまでにもサンマリーナ、ヴィラフサキなどを担当し、海外でも好成績を残している。

 「入込の心配はしていない」と強気の読みだ。

 アリビラは読谷村のスタジオパークに隣接し、地上十階の高層棟と三つの低層棟からなる瀟洒なホテルだ。客室は四三平方メートルのデラックスツインが中心で三百六十二室。投資額は二百五十億円である。ビーチに面した絶妙のロケーションで、大きなインパクトを与えるものと評判だ。

 このほか、那覇市内ではビジネスホテルがブームで収容力が大きく増加する見込みだ。さらに国営沖縄記念公園がある本部町ではB&G財団が八十五億円を投資して宿泊施設の建設を計画している。

 かりゆしグループの「かりゆしアーバンリゾート那覇」は九五年七月の開業予定で、工事は順調に進んでいる。

 観光施設としては、玉泉洞などを経営する南都ワールドが沖縄本島最北端の辺土岬にショッピングリゾートを九三年末に完成させた。

 観光地は常に新しい投資が行われていないと、飽きられてしまう。不況とはいえ続々と新しい施設が展開されている沖縄は、今年も新たなビジネスチャンスを提供するものと期待される。沖縄県は今年の年間観光客数の目標を九三年比三・五%増の三百三十万人と設定した。