TJ編集特集 どうなる? 「国内旅行の空洞化」1

割高感が加速する「国内旅行の空洞化」

ロング需要確保に焦る旅行各社

週刊トラベルジャーナル9月12日号より転載

トラベルジャーナル編集部 竹村千鶴子、二宮幹子、立山ゆかり

 この夏、日本から海外への渡航者数は史上最高を記録した。収益性が一向に改善されない実態はさておき、海外旅行の活況は景気回復兆候の象徴として盛んにメディアに取り上げられた。その陰で、これまで順調に伸びてきた国内旅行に元気がない。 円高と海外旅行の値崩れで、ここ数年、国内旅行の割高感が問題視されてはいたが、この夏ほど海外旅行との明暗がはっきりしたことはなかった。いったい何が起きたのか。国内旅行はこれからどうなっていくのだろうか。

はっきりと翳りが見え始めた

  お盆が過ぎ、ようやく心地よい風が吹きだしたころ、旅行会社の店頭に「お買い得! 北海道三万九千八百円より」「スペシャル沖縄四万九千円より」といったチラシが急に目につくようになった。海外旅行の方はすでに秋用パンフレットに衣替えしている。

 北海道や沖縄の、これらの最低価格は九月以降の設定だ。夏休み直後の集客に躍起になっている様子がうかがえる。一方、海外旅行は九月以降も好調で、七月初めごろから「もう売るものがない」という声が聞こえていたほどだ。

 旅行会社によると、今年夏の国内旅行の取扱人数は、全体では二桁に近い伸びを示しているが、北海道・沖縄方面が軒並み低迷している。単価の安い国内旅行にあって、これらロングは稼ぎ頭。旅行会社にとっては厳しい状況だ。

 実際の集客状況について聞いてみると、日本交通公社(JTB)では、「エース」の七〜九月が北海道で前年同期比一〇〇〜一〇五%、沖縄は一〇〇%をやや切っているくらい。日本旅行の「赤い風船」は、北海道が七月で前年同月比八〇%、八月は同一〇二%、沖縄は七月が同七〇%、八月が同九一%となっている。 近畿日本ツーリスト「メイト」と全日空商事「スカイホリデー」は比較的健闘しており「メイト」では、六〜九月の北海道で前年同期比一三五%、沖縄が同一一三%、「スカイホリデー」は、北海道で七月が前年同期比一〇三%、八月が同一一九%、九月が同一一九%、沖縄は七月が同一〇五%、八月が同一一六%、九月が同一八九%である。

 JTB国内旅行営業部商品計画課長・大谷恭久氏はこの数字に対し、「極端に悪いわけではないが、昨年までと比較すると確実に鈍化している」と話す。

 今年は景気の状況を考慮し、各社とも昨年と比較してかなり商品単価を下げる努力をしたというが、値付けや商品企画の内容、シーズナリティーの設定などで、会社ごとに集客状況に差が出たようである。

国内線の登場実績(七月下旬〜八月中旬)をみると、日本航空(JL)では羽田/札幌が前年同期比二・八%増、大阪/札幌が同一〇・三%増、羽田/沖縄が同九・五%減、大阪/沖縄が同六・八%減となっている。全日本空輸(NK)では、羽田/札幌が同一・四%増、大阪/札幌が同二・〇%増、羽田/沖縄が同〇・三%増、大阪/沖縄が同一一・七%という結果だ。

 明らかに、沖縄は苦戦を強いられているのが分かる。北海道も、これまでに比べると今ひとつ冴えない。

際立つ内外格差

 不調の最大の原因は、「価格が高いこと」。海外旅行が安くなればなるほど、国内旅行の割高感は際立ってくる。昨年夏から、海外旅行では「子供半額」が導入されることにより、かなり低価格の商品が出回った。今年はそれ以上に値段が下がり、ファ ミリー層にとっても、「海外旅行はそれほど贅沢なものではない」というイメージが定着した。

 一方「北海道や沖縄は、オンシーズンである夏休みには、三〜四日間で一人十万円を超すというイメージがあった」(近畿日本ツーリスト首都圏メイト事業本部企画第三課長・清藤建夫氏)という。海外旅行に喰われつつあるのは明かである。

 特にビーチリゾートの沖縄は、同じように青い海、青い空とマリンスポーツが楽しめるデスティネーションが海外にもたくさんあるため、価格競争となると非常に不利だ。すでに五年ほど前から海外デスティネーションとの競合は懸念されていたが、 すでにグアム・サイパンの値段が安くなっている。

 日本旅行赤い風船事業部営業課長補佐・佐藤篤郎によると「例えば八月一日出発、二人一部屋利用の場合、『日航アリビラ四日間』が十五万千八百円、『マツハグアム四日間パシフィックスター』が十一万八千円。このツアーに二人で参加した場合、 旅行代金だけで十万近い大きな差があるうえに、グアムにはショッピングの楽しみや海外に行ってきたというステイタスも加わる。また、現地でかかる費用も違ってくるだろう。

 夏でも最低価格が四万〜五万円台で商品化されているソウルやグアム・サイパンはもちろん、「ラスベガス&MGMグランドテーマパークの休日五日間十万円より」「ヒルトン・ハワイアン・ビレッジ・コンドミニアムタイプ利用六日間、家族四人で 三十八万四千円より」などの商品が旅行会社の店頭にあふれている。当然、北海道や沖縄へ行くよりも高くなるが、「もうちょっと予算を足せば海外へ行ける。どうせ家族サービスをするなら、珍しい所へ連れて行って喜ばせたい」と思うのも人情で ある。

沖縄に見る必死の打開策

 「海外と競合」に対する危機感は、旅行業者の間でシーズン前から高まっており、海外旅行の値頃感に少しでも近づけようと、今年はさまざまな試みがなされている。

 沖縄を例に見てみると、「あらゆるマリンアクティビティーの使用料をツアー価格に含んで、格安感を出している」(全日空商事旅行営業部販売促進課・本重真由美氏)一方で、従来、朝・夕二食が含まれていたものを、朝食のみ、またはルームチャー ジのみにすることでツアー価格を下げている。「ちなみに『かりゆし』では、ルームチャージプランにすることで一日当たり二千五百円安くなった」(日本旅行・佐藤氏)。

 また、各社とも今年は「家族」にターゲットを絞った傾向が強い。今年から各社で「子供半額料金」を取り入れている。近畿日本ツーリストでは、「若い人たちはファッション性を重視するため、どうしてもグアム・サイパンへ流れてしまう。そこ でファミリーにターゲットを絞った。まだまだ家族旅行は国内が主流のはず」(清藤氏)。

「メイト」では、今年初めて沖縄のパンフレットの全面に「家族旅行」を打ち出したところ、実際に家族旅行の割合が増えているという。また、パンフレット上に海外との競合を前提とした、沖縄の「メリット表示」を行った。

具体的には、「家族旅行をするなら沖縄」をアピールするのに「海外との比較」として、「水…〔沖縄〕ゴクゴク飲めちゃう、〔海外〕飲んだらお腹がゴロゴロ…/車…〔沖縄〕左走行で走りやすーい、〔海外〕右走行なのですごく走りにくい/安全度 …〔沖縄〕一〇〇%!、〔海外〕何が起こるか分からない…/会話…方言があっても日本語、〔海外〕読めない、聞けない、話せなーい!/時差…〔沖縄〕全くない!、〔海外〕時差ボケ大あり!/ヒコーキ…〔沖縄〕アッ! という間でラクラク、〔海 外〕長ーい。疲れます…」。

この比較の内容はともかく、沖縄のPRとしては興味深い手法だ。同社の入れ込みようがひしひしと伝わってくる。

 「沖縄は宣伝不足」という声もある。「沖縄の方が、グアム・サイパンよりも海はきれいだし、ビーチもホテルも優れている。それが一般にうまくアピールされていない」(東急観光東日本統括本部国内営業部企画商品センター・トップツアー企画1Oループ・近藤丈太郎氏)。

 近藤氏は「以前は四〜五月になると、JLやNHがテレビで沖縄のイメージ広告を打っていたが、最近は経済事情のせいか、自社のサービスの広告ばかりで沖縄のキャンペーンが見られなくなった」とも指摘している。

価格だけではもう限界

 苦戦を強いられながらもなんとか送客規模を維持しているのは、こうした旅行各社を中心とした工夫によるところが大きいと言えそうだ。特に価格面については、北海道、沖縄では昨年と比べて全体的に一〇〜一五%値下げしているという。「旅行業界だけで価格を下げるのはもう限界」(JTB・大谷氏)というところまできている。

 三和銀行の調べによると、国内旅行の収益率は海外旅行に比べ低くなっているというその要因として「ヽこ偉更圓鉾罎戮洞伴圓悗琉預古戮低い国内旅行では、JR券・航空券などの代売業務を行う手配旅行の利益率が低いにもかかわらず、⊆蠻枸更圓糧耄┐極めて高くなっているためである(表一)。さらに国内旅行は〇兎コストの削減が容易でなく(表二、略)、海外旅行に比べ単価が少額で一件当たり事務負担や人件費負担がかなりかさむため、今日のような価格下落面では一層の収益圧迫が懸念される」(三和銀行「経済月報第六九〇号」から)などが挙げられている。

 国内旅行にかかる費用を、海外旅行と競合できるような価格レベルに持っていくには、運賃制度、人件費、土地代のほか、休暇制度、税制などに至るまであらゆる問題にメスが入れられなければ実現はむつかしい。

 旅行業界としてできるのは、見た目の価格を下げることだけでなく、消費者のニーズを捉えて国内旅行が持つ良さを引き出していくことだろう。

 その好例として、東急観光と近畿日本ツーリストは、北海道で「カニ食べ放題」をツアーに組ませて大成功を収めている。今年ブームになった「食べ放題」を、北海道ならではのカニに結び付けることで、アピールポイントの明確な商品となった。

 また、沖縄では「秋や冬など年輩の人が訪れる時期に、ビーチではなく文化や歴史の観光地として売る。またグアム・サイパンと競合しない周遊型のプランに重点を置く」(東急観光・近藤氏)や、「まだ実現していないが、ホテルでブランチチケッ トを出してはと提案している。沖縄はステイ型が中心なので、毎朝九時くらいまでに朝食をとるのは難しいのではないか」(日本旅行・佐藤氏)というアイデアも挙げられている。

 今年の国内旅行のヒット商品は、地味ながら「オートキャンプ」を取り入れたものだったという。今年の夏、旅行業界全体が標的としたファミリー層が、比較的安くて気軽に楽しめる最適の旅行形態だったようだ。これまで旅行会社ではあまり手を つけてこなかった分野だが、実際にニーズのあることが判明し、今後はさらにバラエティーに富んだ商品展開が期待される。

海外旅行のシステムを取り入れる

 先日行われた観光週間三十周年記念シンポジュームの中で、JR東日本の松田昌士社長は「これまで海外旅行を競争相手と思ったことはなかったが、今年初めてそれを意識した」と話していた。ある意味では、海外旅行が競争相手となることで国内旅行そのものを見直すきっかけができたと言えるかもしれない。

 確かに、国内旅行の商品づくりには、海外旅行のシステムを取り入れたものが少なくない。

 代表的なものが「子供半額料金」の導入。昨年海外旅行の企画として設定されて大ヒット、家族旅行の促進に大きく貢献した。今年から北海道や沖縄で取り入れられている。

 次に「泊食分離」。海外旅行の、とりわけリゾート地では、食事付きコースと食事なしコースが設定されているのが普通だ。食事付きの場合でも、クーポンが渡され、レストランやメニューを選べることが多い。このシステムは、ツアーの料金を抑 えるばかりでなく、食べたい物を食べたい所で食べたい時に、という「選択の多様性」を付加することができる。これまでの国内旅行では、リゾート地でさえ二食付きが普通だったが、沖縄に代表される滞在型ホテルではルームチャージでの料金設定 も始まっている。

 数年前から手がつけられているのが、シーズナリティー設定の工夫だ。これまで、夏休みの期間はお盆をピークに、概ねハイシーズン料金が設定されていた。休みが集中するお盆を除き、旅行気分が高まるのは一般的に八月一週目ごろ。お盆を過ぎ ると次第に旅行気分が下がるところを、海外旅行では運賃の変わる八月二十日前後に価格を一気に下げ、この時期にもうひとつ需要のピークを作り上げた。国内旅行にも最近は、シーズナリティーを細かくし、ピークとそれ以外の価格に差をつけ平準 化を図っているという。

旅行業界がムーブメントを創れ

 ほかに興味深いところでは、「チラシの普及」というのもある。近畿日本ツーリストの清藤氏によると、「以前は一枚で二色刷りのパンフレットは販売店に受け入れてもらえなかったが、昨年秋ごろから認知され、今では主流になっている」という。 海外旅行では一番集客率の高いペラ紙のパンフレットだが、国内旅行でホールセーラーが作成するようになったのはごく最近のようだ。今では「商品内容がわかりやすい」と、堂々と店頭を飾っている。

 海外旅行が、商品を消費者にとって身近なものにするために「国内感覚」を取り入れるよう工夫を凝らしているように、国内旅行も海外旅行のシステムを取り入れようとしている。価格競争は避けて通れない局面ではあるが、国内、海外で互いに切 磋琢磨していく姿勢があることに注目したい。

 商品づくりはほかに、「旅行のムーブメント」を創っていくのも旅行業界の大きな役割かもしれない。JTBでは、今年「お母さんの夏休み」キャンペーンを打ち出した。「子供たちの夏休みの終わった九月にゆっくり旅行してもらおう」というもの で、母親たちが気軽に小グループで出掛けられる国内の宿泊プランや一、二泊の旅行を紹介している。

 また、今年の十一月二十二日を、「いい夫婦の日」とし、JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行、東急観光、国内航空三社、JR東日本、JR東海が協力して、国内旅行のキャンペーンを展開する予定という。

これからますます旅行需要が増大していく。海外旅行が身近なものになって、大勢の人が海外での休暇を体験し、海外のモノ、情報が今以上に国内に出回るようになった時、選択肢としての国内旅行と海外旅行は全くイーブンとなる日が来るかもし れない。

 今はまだ「もの珍しさ」や「ステイタス」が海外旅行にアドバンテージを与えている側面もあるが、それがなくなったとき、旅行者は国内に戻ってくるだろうか。

旅行業界にとっての国内旅行の「空洞化」とは、いわばグローバルな競争力を持った商品やシステムづくりを目指すうえで迎えた大きな転換期と言えるかもしれない。


TJ編集特集 どうなる? 「国内旅行の空洞化」2

価格やサービス、海外との競合など難題山積

過去最大級の危機に直面する沖縄観光

週刊トラベルジャーナル9月12日号より転載

沖縄観光速報社 渡久地明

 景気が回復に転じる気配を見せる今年、沖縄の観光業界は異変を感じていた。観光客が減りだしていたのだ。景気の回復とともに観光入域客数も再び増勢に転じるというのが、これまでのパターンだ。しかし、今年はそうはならない。那覇市内のホテルは一斉に価格競争に走り、大手、中小が同じレベルの価格で競争した。どこのホテルも県内客の集客に躍起になり、十人規模の会議やパーティーの受注に懸命となった。しかも、価格を書面で提示すると他のホテルに客が奪われる…という恐れがあって、口頭で利用者に約束するというもの。大型ホテルも中小並かそれを下回る料金を打出すなど、ホテル戦国時代が始った。「この低迷は構造的な問題だ」とする声も出ており、有効な対策がないまま、最多客期の夏も惨敗に終ろうとしている。

円高が直撃

 昨年七月から回復に転じた海外出国者数とは逆に、国内観光の低迷はますます鮮明になった。特に沖縄は海外旅行の増減と同じパターンで観光客数が増減するという目的地であり、国内ではあってもむしろ海外に近いイメージを持った地域と見られてきた。

 バブル期には海外の伸びとともに沖縄への入域客も増え、湾岸戦争で海外が不調だと沖縄の入域客の伸びにもブレーキがかかった。景気が低迷して海外の伸びが鈍ると沖縄も減少するなど、海外の動向と沖縄は同期しているかのように見えた。ところが、九三年初頭から、円高が進展すると年間二十万人前後もあった沖縄への外国客が減少し始め、台湾人客で八割を占める外国客は七月で十八カ月連続の前年割れを記録する。

 これに遅れて今年四月以降、国内客の減少も始った。一ドルが一〇〇円を割ると急速に海外旅行が増加、これに反して沖縄は水面下に沈む。

 沖縄県観光文化局は毎月入域観光客数を発表しているが、今年に入ってからの観光客数は、
一月 二三万三一〇〇人(前年同月比二・九%減)
二月 二五万九一〇〇人(     一・三%増)
三月 三一万二六〇〇人(     四・三%増)
四月 二五万四〇〇〇人(     二・六%減)
五月 二三万五八〇〇人(     八・一%減)
六月 二四万三七〇〇人(     五・一%減)
七月 二七万六九〇〇人(     四・五%減)
累計一八一万五二〇〇人(前年同期比二・四%減) と二、三月を除いてマイナス。

 連休を含む五月に八%減と近年にない大きな落込みを見せ、黙っていても客は来ると思いこまれていた七月もかなりの減少となった。八月も航空各社の夏休み期間中の輸送実績を見る限りマイナスが予想される。

 日銀那覇支店は県内の景気動向を毎月発表するが、七月末には「観光入域の不調が、全体の景況感好転を遅らせているように窺われる」とコメントするほどの事態となった。

旅行・航空会社もマイナスを予想

 沖縄県観光文化局は今年の目標年間観光客数を三百三十万人と設定し、昨年暮れに発表。昨年実績の三百十八万人を約四%上回る努力目標を立てた。

 三月の時点でまだ四%上乗せは可能と見られたが、四月のマイナス、ゴールデンウィークの不調と次第に暗雲がただよい始め、一ドル一〇〇円割れで今年のマイナス成長がほぼ確定的になった。一ドルが一〇〇円を割るなどとは誰も予想できず、かつ、円相場の変動が入域観光客とどう結びついているのかの理解がまだ十分ではなかったため、県当局も業界もまさに慌てふためいた、という表現がピッタリである。七月にはいると県内の日刊紙やテレビ局も観光産業にかげりが見え始めたと連日特集を組むほどであった。沖縄観光の国際競争力は観光入域客数が一%増と前年並だった昨年実績から一ドル=一二〇円前後だったことになる。昨年の観光収入は三千四百三十五億円(前年比〇・二%減)と昭和六十一年以来、七年ぶりにマイナス成長を記録した年でもあった。

 沖縄県は六月、瑞慶覧長弘・県観光文化局長らを先頭に東京と大阪の大手旅行社、航空会社を訪ね、沖縄県の考えを伝えるとともに、業界の見通しを聞いた。その結果、旅行社・航空会社ともほとんどが「今年の沖縄は厳しい。特に関空開港後は、 グァムなどに旅客が流れる」との指摘を受けている。昨年の六月にも沖縄県観光連盟は同様のヒアリングを行っているが、このときは厳しいながらも「前年並は何とか確保したい」という声が主流であった。

 ところが今年は「団体がこんなに落込むのは初めて」(日航本社)、「いまのままではじり貧」(全日空本社)、「今年の沖縄はハワイが競争相手になっている。グァム・サイパンなら勝てるが、ハワイとは勝負にならない」(近畿日本ツーリスト東京営 本)…と「前年並」という言葉さえ出てこない状況だ。

 特に関西は「グァム・サイパン線が週三便から二十五便に増えるので、影響は大きい」(JTB関西)。

ホテル競争が激化

 六月二十七日、沖縄本島西海岸に四百室の「ホテル日航アリビラ」がオープンした。これまでのリゾートホテルとは大きく雰囲気が異なり、スパニッシュコロニアルの建築様式は大方の称賛を受けた。新設の大規模ホテルは強力な集客力となる。しかし、今回は全体の底上げにはつながらなかった。

 ホテル業界全体が弱気の予想をしており、七月初旬に七、八月の予約入込状況を沖縄観光速報社が県内主要四二ホテルに聞いたところ、七月は前年より悪いとした先が四十軒、八月も四十軒が前年より悪いと答えた。ピークシーズンに前年割れが予想されるのは極めて希なケースである。夏場は黙っていても満杯になるという業界の長年のパターンは今年初めて裏切られた。

 八月の入域観光客数のデータはまだまとまっていないが、航空各社がまとめた夏休み期間中(七月二十三日〜八月二十二日)の沖縄線実績は前年を〇・一%前後とわずかに下回っている。ホテル稼働率は客室数全体が増えているため、かなりのマイナスが予想される。さらに低価格ツアーの影響でホテル収益は急速に悪化している。

 ある大手は試験的に一部レストランでテーブルクロスを廃止し、クリーニング代を浮かせた。「月間三十万円前後の節約」になるという。

 県内大手ホテルのリストラはこのような形で始っている。実際、中小ホテルと同じレベルの料金で大型ホテルは成立つのだろうか。

 「県内大型ホテルはほとんどが海洋博にタイミングを合わせてオープンした。このとき大量に人材を採用したため、二十年後の現在、組織は頭でっかちになっている。この部分を整理すればさらに合理化は可能。沖縄のホテルラッシュでかなりの人 材が分散したが、それでもまだ人材を抱えすぎているところがある」(元ホテルマン)という。

 ホテル業界はこの状態に苦悩している。

構造的にマイナスが続く?

 つい最近まで構造不況業種とはASEAN諸国の猛追を受けていた重工業の分野のことであった。ところが、観光産業が構造不況業種となり始めたのである。

 沖縄観光の特徴は、 ̄鶺離一〇〇%航空機の活用トロピカルリゾートぐ杣舛癖顕臭グ汰瓦粒諒櫚航空・旅行業界と地元との長年の信頼関係、などであった。

 この中で気候と文化以外は全国の他の観光地と程度の差があるというだけで、本質的な特徴とはいいがたい。気候・文化が全国と大きく異なるのでその他の要因も最大限にメリットを発揮できたというわけだ。これまでの沖縄は旅行会社にとって「国内とは大きく異なり、海外に近い取組みが出来る地域」としてのメリットがあった。旅行客が沖縄に求めていたものもまた青い空と青い海がほとんどだった。

 ところが、最近の円高は沖縄の最大の特徴だった気候・文化を直撃している。世界を見回すとトロピカルリゾートはいくらでもある。文化の差も大きい。

 国内で最も特徴のあった沖縄は海外に目を向けたとたん、それほど珍しいところではなくなってしまったのだ。

 さらに、費用面では航空運賃で海外には太刀打できなくなっている。地上費も一ドル一〇〇円ならアメリカの方がはるかに安い。費用が高いのは日本の社会全体のコストの高さが原因であり、沖縄だけの努力で海外並の旅行費用を提示するのは極めて困難になっているのである。

 人気のマリンレジャーは、日本だとウォーターバイクに乗るのに免許が必要だが、外国ではいらないというケースがある。これらを含めコストダウンの障害となる規制の緩和や撤廃は観光産業にとって身近で切実なテーマなのだ。

 しかし、ここに沖縄の観光業界が果す大きな役割があると思われる。規制緩和、規制撤廃を県レベルで国にうったえることによって、国内の観光産業全体の利益を勝取ることが出来るのではないか。

海外とどう競争するか

 規制緩和を推進する一方で、現実的に海外から競争を仕掛けられているのだから、いますぐこれに対処しなければならない。

 海外との競合で最も話題になるのは費用であるが、現実に格安の沖縄旅行は今後出てくることが予想される。航空会社の中には超特価の沖縄旅行が可能とするところもあり、これに地元側が協力して一部の格安旅行は実現するだろう。これにはかなりの犠牲と努力が必要だ。

 同時に超特価以外の旅行では、費用に見合ったサービスを提供すべきである。海外慣れした旅行客なら、国際的なサービスの相場感覚を身につけているはずだから、粗相がない限り「高い・安い」の批判は出てこないと思われる。「高い・安い」で 動くのは海外初心者か子育て費用のかかっている四十代周辺に絞られる。求められるサービスは海外慣れした旅行客へのスマートなサービスである。

 第三に高いというイメージがあるならこれを高級なイメージに転換する努力が必要である。日本人に慣れていない新興海外旅行先は「安かろう、悪かろう」がまだある。ここに高級な沖縄をぶつけることで、商品の差別化が可能だ。

 これらによって、沖縄ツアーの内容は多様化され「高い」というイメージを取去ることが出来る。

 以上は短期的な取組みだが、長期的にもいくつかのプラス要因がある。

 関空のオープンによって、沖縄線の拡充が実現した。関西発の那覇線が増便(日航)となる。新路線として、関空=石垣線(JTA)、福島=那覇線(日航)が開設される。季節運航だった仙台線(全日空)は通年運航に切替えた。これら新規路線は関空オープンの国際線の華やかさの影に隠れているが、着実に沖縄のパイプは太くなっている。海外とまともに競合するというなら、日本全国の地方空港と結ばれた沖縄は、成田、関空、福岡などを経由する海外とは比較にならないほどアクセスに恵まれた観光地なのである。

 さらに、那覇空港ターミナルビルの新築工事が始っている。開業は四年先の平成十年である。空港ターミナルの開業にあわせて沖縄自動車道が空港に接続される。この結果、沖縄本島西海岸リゾートは空港から三十分圏内にはいるようになろう。家族連れ、高齢者にとっての利便性が格段に向上する。

 また、沖縄全体が水面下で苦しんでいる中、石垣地域の入込が好調である。豊かな自然環境を求めたツアーに人気が集っているものと見られ、沖縄観光の進むべき一つの方向性を示した傾向と見ることが出来る。

地元の取り組み

 今年の沖縄は、これまでの社団法人沖縄県観光連盟と財団法人沖縄県観光開発公社を統合し、財団法人沖縄ビジターズビューロー(OVB)を設立したことが、大きなニュースとして注目された。県別の観光機関としては最大級の本社七十人体制の組織である。陣容は国際観光振興会よりも大きい。

 沖縄県はOVBを通じて観光政策を拡充・強化する方針であり、下期からのキャンペーンを計画している。

 県観光文化局は九月以降の誘客宣伝を強化し、予算の前倒しや補正予算を活用して独自キャンペーンや航空、旅行各社とのタイアップキャンペーンを展開する方針だ。

 それに対し、航空、旅行社各社がタイアップを申入れており「県の姿勢を好感したもの」(県観光文化局)という。

 県によると「現在四、五社からタイアップの申入れがあるが、積極的に対応している。個別タイアップ、各社をまとめたタイアップなど多様な方式を取入れる」。キャンペーン方法はテレビでのスポット広告や新聞、雑誌でのPRが予定されている。 これらのキャンペーンによって「九月以降落込み幅は減少し、前年並は確保できる」との見通しだ。九月以降、沖縄を訪れる旅行客の内容は四十代以上にシフトし、四〜八月の旅行客とは属性が大きく異なる。それはプラスに影響するようにも見える が…。

 補正予算の獲得については、「全力を挙げて取組む」といい、財政当局に五億円を要求している。

民間の危機感に比べ、県当局はやや楽観的な見通しのように見える。観光客がマイナス五%となると、人数で二十万人減、観光収入はマイナス二百億円以上が見込まれる。二百億円は平成三年の沖縄のさとうきび生産額二百三十億円に肩を並べる額 だ。二百億円の観光収入の落込みを五億円でカバーできるのなら、これほど楽なビジネスはないだろう。沖縄県当局やOVBは業界をまとめあげ、いかに観光業界を立直すのか。観光業界の立直しは、県勢の浮沈に直結しており、国内航空・旅行各社 にも大きな影響を及すことを認識して、これまで以上に強力に取組むことが、地元だけでなく日本中から求められているのである。