沖縄観光 質の転換には
マリーナを本格活用すべきだ

柳生 徹夫


ステータスなくした沖縄の海

 沖縄観光としての本質的な要素はどこにあるか? 何が観光の要素になっているのか、今一度見直してみる必要があると最近考えています。

 御承知のように、琉球列島はその地政学的要素から歴史に翻弄された経緯があり、その事自身観光的な素材でありますが、なによりも温暖な海洋性、島嶼的な要素が大きいと考えます。海洋生物を始め様々な動物、植物、景観、気候、風土が相当に大きな観光素材です。確かに戦後、慰霊観光から始まった事実はありますが、今やその比率は低下しています。

 もちろん修学旅行やパック旅行で戦跡をたどって、去る大戦の歴史的な事実を見つめ、失われた多くの命やその歴史に思いを新たにする事は重要な事であり、個人的には日本国民会員が焼香に来るべきと思っています。

 さて、昨年のテロ騒ぎの後、行政を含め様々な対応がチグハグな事やその影響を推し量りかねたのか、結果的には観光客が激減し、さあ大変だ! という事で「だいじょうぶさぁ〜沖縄」キャンペーンが始まりましたが、これら一連の動きの中で思わず不思議なだナーと感じた事は、いままで観光客が四百万人だった時はどうしていたんだろう。三百五十万人の時は? という事でした。

 私の思い至った事は「安売りの結果」という結論になりました。県の観光収入を一つの目標にするならば、それは人数と金額の掛算である事になります。確かに、航空運賃は安くなり沖縄に行きやすい価格になりましたが、それは沖縄に行く事が大衆化していく事であり、だんだんと沖縄観光が「ステータス」を下げている事になった結果ではないでしょうか。

 数年前の沖縄観光は今以上にステータスがあったと思います。沖縄に行った事が自慢となった時代があったのです。特に海に関するスポーツ、レジャーをした事は周りから羨ましがられたものです。

 県は飛行場沖合い展開を含め様々な事情から目標とする入域客を毎年のように高めていますが、それに伴い社会的インフラの整備が追い付かないのが現状であると考えます。例えば、「水と電気」。もし観光客三百万人程度ならこれ以上の「貯水ダム」は無くて済むのではないでしょうか。県の人口の何倍もの人が来て、旅に来たのだからとシャワー、風呂を思いっきり使用したり、ホテル代は払ってあるのだからとクーラーや電気を付けっぱなしにする事等々。又、上下水処理やゴミの処理等。離島に行く程大変な状態である事は、現地で見ると良く分かります。今やこれらが本島内でも問題となって来ました。

 また、レンタカーの増加によって渋滞がひどくなり、多くの経済的損失があることは良く知られた事です。カーナビの発達で那覇市の公設市場付近などは紛れ込んで来たレンタカーが多くの業務用車両に迷惑をかけ、時間的なロスを生じさせていたりしています。

 人数と金額の掛算が沖縄観光の観光収入ならば、人数をある程度制限し、人が増える事による環境への負担や、社会的負担をこれ以上増やさない為にも、掛算の片側の金額を増やすようにもっと努力をすべきであり、安易に人数を増やす事は見直すべきと考えます。

 観光客一人に対して何人の県民がサービスをするかという比率を高める事が価値を高める事に通じると考えます。例えば、沖縄に来るクルーズ船等は乗客と船員の比率は一対一程度です。沖縄は安売りの結果、その比率は低下し「顧客満足」指数は低下しっぱなしではないでしょうか。これまでのホテルの優秀なギャルソンは高給だからとリストラされ、腕の良いシェフも同様に切り捨てられ、巷に料理屋乱立の供給源となっています。観光のステータスを高める事がより質の向上になり単価の上昇になると思います。

 グアム島観光も最近のあまりの低価格化により名門ホテルの中には廃業となる所や大手日系ホテルは資本の撤退をしています。結果、コンドミニアム的民宿的な簡便な一泊五千円程度の宿が主流となっているようです。沖縄もこのような状態になっても良いのでしょうか?

 沖縄観光のリピーターのかなりの割合いをダイビング客が占めている事は御承知の事と思いますが、公的施設にダイビング客のための施設があるでしょうか。ありません。観光ダイビングのサービスの向上の為に、例えば宜野湾マリーナにダイビング専用の泊地を設ける(現在は県条例上出来ません)とか、那覇港湾施設内にダイビング専用係留場所を設け、休息室やシャワー室を設置したり、ダイビングショップから来る車の専用駐車場の確保などいろいろなサービスが提供できると思います。

 プロ野球のキャンプも結構ですが、野球場をはじめとする設備投資は回収できるのでしょうか。キャンプによる経済波及効果が大きい言えども実質的にはその負担は県民に掛かって来ると考えます。もっと沖縄の自然を活かしたスポーツキャンプがあるのではないでしょうか。例えば、シーカヤックキャンプ、野鳥観察キャンプ、サバイバルキャンプ、ボーイスカウトのジャンボリー、ヨット合宿、ダイビング、トローリングなど小さな施設で、それほど大きな注目を集めないかもしれませんが今盛んに云われている「エコツーリズム」的視点の観光をもっと増やし、さらに海洋深層水を利用した湯治場的な宿や、渡嘉敷、座間味等へのクルージングなど、多少ゆとりのある階層の人々にもっと魅力のある沖縄を作っていくべきと考えます。

 もう一つ、旅行に行く時に楽しみにする事はなんでしょう。珍しいものを見聞きする事や、体験する事、さらに「美味しい食事をする事」と「気持ちの良いサービスを受ける事」だと思います。沖縄に欠けているのが最後の二つと思います。

 確かに、沖縄の食事は健康的な長寿食かもしれませんが、関係者の皆さん! 本当に観光客が食事する料亭や、居酒屋、レストラン等の食事が美味しいと思いますか。離島の民宿に泊って近くの海で取れた海産物を美味しく食べたいと期待していったお客さんが、なんと云って帰ったか本音を聞きましたか。沖縄の人情や人柄に対する評判は高いものがありますが、食事の評判は低い様です。もちろん美味しい料理を食べた方もたくさんいると思いますが。本土の民宿村や有名な原村や清里のペンション村では、宿の女将さんが集まり役場も一緒になって料理研修会や、もてなしの研修等を行って来た結果が今の評判を作って来たのです。沖縄には沖縄のやり方があるのかもしれませんが、全国に通用する標準的なスタンダードを身につける事が必要なのではないでしょうか。また、県内の宿はホテル形式の宿が多すぎる様な気がします。もっと旅館的な宿を多くし大きなお風呂と座敷、中居さんの給仕等視点を変えて宿も作るべきと考えます。海洋深層水の大浴場等は大いに客を呼べる事だと思います。海の環境豊かな離島の民宿での朝食が「ポーク卵」では、これからの継続はないと感じます。

2000隻収容のマリーナが完成

 さて、ここから私の専門のヨットにかかわる具体的な施策を提言したいと思います。県では中城湾を始め、将来は浦添地先にもマリーナを計画しています。加えてフィシャリーナという小型のマリーナが糸満に建設中であります。さらに今年初め北谷漁港隣にフィシャリーナの建設が決まったようです。これら全てのマリーナが完成する平成十八〜二十一年頃にはなんと全体で実に二千隻余の収容能力を持つ事になります。この事を海洋リゾート観光に活かさない手は有りません。

 まず保管料金を全国的に魅力ある料金として(現行料金を今回の値上げ以前程度にする)全集用能力の五〇%程度を(沖縄県民だけで一杯にできない事は明白です)県外から積極的に募集して保管することを観光政策の一つとすべきであります。

 今や航空料金は安くなりその事を踏まえて、少なく見ても、保管する船一隻当たりで四〜八名程度の利用者が年間三回〜六回、一回当たり四〜七日間として一隻当たりで延べ三十六〜三百三十六人にもなり、それに収容能力の半数の数一千隻を掛けると実に最大三十三万人以上となり、相当な数になります。さらにこの人達の使うお金は一般的なパック旅行や団体より多くの物品の購入や経済的消費をする事は確実であります。現に宜野湾港マリーナに県外の方が何人か船を置いています。その方々が使うお金はかなりの額になります。

 また、収容能力の五〇%、約一千隻の県外からの船が保管されると、次のような事業が可能になります。もちろん県内の人達の船に対しても同様のサービスをする事が出来ますが、県外の人達にこそ役立つ事業です。どのような事業かと云いますと、実は県外の方が沖縄に船を置く時の最大の懸案は台風です。この台風対策に対し安心できる維持管理、運行サービスの分野です。他にも、ご存じのように船はヨットと云えども燃料、エンジンオイル等の交換や補給、船体の清掃、修理補修、船底の塗装、法定検査の代行等多岐に渡ります。また、県外のオーナー達が来沖する前に、すぐ出港できるように点検したり、食料の準備、釣り、ダイビングの準備などがあります。

 ハワイのマリーナでも同様に本国のオーナーが預けてある船に対するサービスが徹底しています。地中海ではドイツや内陸のオーナーに対し同様な事業があります。近くの海のガイドを含め、このような事業は新たな雇用をつくり出す事が出来ます。

 同時に沖縄のオーシャンリゾートとしての「ステイタス」を高め、質の向上に役立つものと信じます。

質の向上の秘策はマリーナの有効活用にあり

 いま、沖縄観光はとかく人数だけを追っていて「質」面の対応が遅れていると思います。観光経済を人数×単価とするならば、これ以上の人数を求める事は島の環境処理能力を超えてしまい本来の沖縄の魅力を失わせてしまう事になると考えます。水、電気、ゴミ、下水処理、産業廃棄物などもはや限界です。いくら工業力や、科学をもってしても島の面積には限度があります。座間味島や渡嘉敷島などの廃棄物は目を被う惨状です。

 九月十一日以後の観光業界の模様は端から見ていると、これまでの「質」の向上に目を向けていなかった事が良く分かる気がします。前年比二〇%少なくなったからと云って大騒ぎですが、では三年前の同時期はどうだったのでしょう。観光客の実数ではさほど変わらないと思います。しかし、客単価が下がったため、あるいは一人当りの収益が下がったためにこのような騒ぎになったのではないのでしょうか。

 沖縄の観光の原点は地勢学的に置かれているこの環境である事を再認識し、これをもっと活かしエコロジカルに利用し、末永く役立てる事だと考えます。それは「海」「海洋」「歴史」「風土」がキーワードとなると思います。

 沖縄でダイビングをすることは十年以上前は全国何処へ行っても羨望の目で見られました。沖縄でダイビングをする事がダイビング業界では「ステイタス」だったのです。もちろん今も一定のステイタスはあります。次は沖縄の何が「ステイタス」になるのでしょうか。慰霊観光から始まったとされる沖縄観光もここに来て大きな転換点を迎えていると恩われます。

 「沖縄に行きたい、行ってみたい」と思わせるのは何か? 言い古された事ですが今一度原点に帰ってみて沖縄の観光的素材を見つめて、それを磨いて、守って行く事が沖縄観光の地位の向上、「ステイタス」が高くなる事だと考えます。県民や県が本当に沖縄の観光を経済の根幹とするならば、役所を含め業界や関連団体、県民も一丸となってその道のプロを育成し、取組むべき課題と思います。

 昨今クルーズ観光が注目されていますが、那覇港は物流の視点でのみ作られています。私は十年程前にマイアミ、バハマを旅行した事がありますが、マイアミはともかくバハマの観光用の港は実に素朴でボーディングブリッジなどは無く、ただシンブルな長いバースが二本あるだけでした。そこに数万トン級の観光専用船が四隻も横付けされ島の人々がタラップのそばに来て来島を歓迎している風景は、遠く泊港の三十年以上前を彷彿とさせる光景でした。沖縄にもクルーズ船のためのバースを設置すべきであります。それこそ「万國津梁」の国としての港になる事と思います。僭越ですが、今から沖縄にアジアのハブ港を建設し世界に提供しようとは無謀な事です。もし本気でハブ港を作るのならその岸壁の総延長は十キロメートル以上、バックヤードの面積は那覇新都心の三割程度の面積が必要と思います。このような規模を作ったとしても荷役に掛かる様々なコストはとても海外に太刀打ちできません。

 先に述べたように五百万人とか八百万人とかさらには巷間云われている一千万人も夢ではない、というような観光客を受け入れようとすると、それに費やされる様々な消費物を受け入れなければなりません。するとさらに港が必要になります。

 埋立や海の環境問題や廃棄物が増えます。エネルギーが必要です。水も必要です。このような循環で良いのでしょうか? 個人的には沖縄の海に多くのマリーナが整備され日本一の海に多くのヨットやボートが地中海の海のように風景として見られる様になる事を楽しみにしていますが、観光にリンクしない、ただレジャーのためだけのマリーナ建設ではトロピカルリゾートの達成は望み薄のような気がします。

 何のためにマリーナを建設するのか、どのようなマリーナにしたいのか、どれだけの地域を対象に利用者を募集するのか、全国か県内か。利用者と観光との連携は…、もっとマリーナを観光的に活かすべきと考えます。現在、宜野湾港マリーナは観光や事業用の船の保管は条例上できない事になっています。

全国から問い合わせ、沖縄の海は日本有数のゲレンデ

 この際、全てのマリーナを観光リゾート局か観光コンベンションビューローの管理下において観光政策の中でマリーナを考える時期と思います。

 県の提唱している滞在型のリゾートとしていくためにも、今後できるマリーナは料金面で全国的な魅力を作り、それぞれのマリーナは近隣の海面の特徴を活かした施設にすると良いと考えます。

 例えばフィッシング中心、小型ヨット中心、ダイビング中心、クルージングヨット中心などとして計画し、さらに県外からの船が増えれば附随してメンテナンス維持管理も増え、専門の事業所も出来、観光と雇用にもつながります。

 例えば、二月十六日の沖縄タイムス「公共事業を問う」に書かれているように県は中城湾だけでも七百三十隻も収容できるマリーナを計画していますが、御承知の様に中城湾は全域特別港湾であります。この事はマリーナに保管されている船の運行上、ボートは特段問題は有りませんが、セーリングクルーザー(エンジンを有しキャビンがあるヨット)はフルセーリング(エンジンを利用しないで帆だけで帆走する)が出来ない法的な規制が有ります。このような規制のある海域にマリーナを作るからには規制の解除又は、一部解除を決めているのでしょうか? そうでなければ中城湾外まで機走し久高島沖に出て始めてフルセーリングができる事になります。

 そこで西原与那原地区にできるマリーナは小型のヨットとモーターボート、シーカヤック等を中心としたマリーナとして運用し、中城湾の南側をセーリングエリヤとして特定し特別港湾としての法を一部解除し利用する事としたら如何でしょう。オリンピック候補選手の合宿にも利用されるこの海面は小型のヨットにとっては日本一の海面なのです。水深二十〜三十メートルで周りは陸地に囲まれ、流れてもどこかの海岸に辿り着く事が出来、さらに競技する場合に設置するブイの投入も簡単であり風が強くても波があまり立たないこのゲレンデは本当に絶好な海面であります。

 さらに申し述べるのならこの西原与那原マリーナにディンギーを四〜六種類、各十艇以上合計七十艇以上と、レスキューボート数隻及び付帯設備を常設するならば全国各地から高校、大学、社会人のヨット競技団体が年間を通じ合宿に来る事になるでしょう。

 同時に修学旅行や県民のマリンスポーツ体験の場所にもなり、大きく観光沖縄に寄与し、近隣の自治体等の観光経済にも寄与する事と成ります。

 実例として広島市にあるマリーナには子供用の一人乗りヨットが百隻以上用意され毎年全国から選抜された少年少女数十名とその父母父兄が一週間も滞在し競技を行います。借りる事ができるヨットが有り、近くに宿泊所が有ればできる事なのです。もちろんこれだけではありません。年間を通じ多くのレースや大会が有ります。しかし、広島の海面の状況は風が弱くあまり良くないのです。

 私はこれまで国体監督や役員として参加しましたが、行く先々で沖縄で合宿したいが、借りられるヨットは有りますか? と聞かれます。現に、愛知県蒲郡では数年前まで渥美湾を利用してこのような合宿が盛んでした。しかし、諸般の事情で出来なくなり、今このような合宿地が求められているのです。沖縄で合宿をしたくても各地からヨットを運搬する費用が高額なため実施できません。現地にレンタルヨットがあれば多くのヨット競技者や愛好家が合宿に来ます。今や人の運賃の方が安い時代です。

 また、このヨットを購入する資金も公的団体が競輪事業やお年玉葉書などの助成制度を利用すれば団体負担は相当に少なく済みます。

 負担する費用の総額でもプロ野球のキャンプに便われる雨天練習所一つの費用にもなりません。七十艇でおよそ七千万円、その他艇庫、救命ボート、備品など一億円、合計一億七千万円の負担金二〇%で三千四百万円で可能であります。

 また、現在進行中の埋立を勧めるものではありませんが、沖縄市泡瀬に計画中のマリーナは勝連沖合いへのレジャーフィッシングの基地としての性格を持たせ観光フィッシング(乗り合い)を導入する事も可能であり中部地区の観光に大きく寄与する事になります。本当に海を観光の目玉として利用するには環境に優しい自然を相手にするスポーツにもっと目を向けて欲しいと願います。

 それにしても、現状の宜野湾港マリーナの保管料金は今や全国主要都市並みとなり県外から沖縄に保管したいとする魅力を失っています。あの豪華な素晴らしい環境の長崎ハウステンボスのマリーナの料金と一五〜二五%しか差がないのです。このような料金で中南部一帯にできる合計二千隻収容のマリーナを県民だけで一杯にできるのでしょうか。例え国庫の補助があるとは云え一部建設費用は県の起債によって完成するのですから、県民が負担する事になります。その起債分を利用者負担とするよりも、県の観光政策の一環として県民に対するインフラとして提供し、利用料金を全国的に魅力ある制度として、全国の利用者を積極的に誘致し全ての利用者がもたらす経済効果によってその償還を図るべきと考えます。(「観光とけいざい」02年5月合併号、6月1日号)


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